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『あつまれ どうぶつの森』ステイホームの達人「ヤドカリ」ってどんな生き物?【平坂寛の『あつ森』博物誌】

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『あつまれ どうぶつの森』ステイホームの達人「ヤドカリ」ってどんな生き物?【平坂寛の『あつ森』博物誌】
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※リアルの生物の写真が出てきます。苦手な方はご注意ください!


こんにちは。生物ライターの平坂です。
僕はまだ『あつ森』を始めて日が浅いのですが、スタート当初に「お!凝ってんなぁ」と思った要素があります。それが海岸に転がるあの白い貝殻です。

砂浜で拾い集めると家具などの素材に活用できるんですが、夜になるとなんと動き回って拾えないんですね。開発者の思惑通りでしょうが、初見時は「ええっ!?」となりました。そう、夜に見つかる貝殻には、先客としてヤドカリが入っていることがあるんです。


さて、というわけで今回はヤドカリという生き物についてお話ししていきます。『あつ森』内では「ムシ」として扱われているヤドカリですが、現実世界ではエビやカニと同じ甲殻類、十脚目のヤドカリ上科という分類群に属します。
なんでシャンハイガニがサカナでヤドカリがムシなんだよ!」という疑問が湧くところですが……深く考えてはいけません。

▲ちなみに売値は1,000ベル。意外と高め。

で、ヤドカリというのは実はとても種類が多い生物で、世界各地の海から実に1000種以上が確認されています。
しかし!実にそのうちのおよそ99%は基本的に水中で生活するものなんです。
では『あつ森』で見られる地上を自在に歩き回るヤドカリは一体何者…!?

はい、おそらくあの正体は陸上生活に適応した世にも奇妙なヤドカリ、その名も「オカヤドカリ」の仲間(世界に16種しかいないレアグループ!)だと考えられます。
オカヤドカリは日本では南西諸島や小笠原などの温暖な地域で見られるヤドカリです。

▲オカヤドカリの一種。沖縄県のビーチで撮影。

彼らはなかなか波乱万丈な人生を送るヤドカリで、卵~赤ちゃん時代(貝殻は背負わず、ヤドカリらしい形もしていない「幼生」と呼ばれる段階)は海の中をプランクトンとして漂いながら暮らします。ところがその後ある程度の大きさに育つと小さな小さな貝殻を背負い、浜辺から上陸。完全な陸上生活に移行します。

一旦陸に上がると普段の生活で海水を必要としなくなるので山の中や人里の畑にも進出できますが、産卵だけは海で行うためやはりゲーム中のように海岸付近で見られることが多いのです。また、夜行性である点も『あつ森』は忠実に再現しているといえます。

では、日中の彼らがどうしているかというと、海岸沿いの藪の中や大きな流木の下などの物陰に隠れて休んでいるのです。
えっ、貝殻というお家を背負っているのにさらに隠れ家に潜むの!?……まあ、貝殻は住居と鎧を兼ねたものということで。

『あつ森』では追いかけるとちょこちょこと逃げ回るヤドカリくんですが、なんだかんだで鈍臭く、網を持っていれば簡単に捕まえられます。
現実のオカヤドカリもなかなかのろまで、簡単に観察や撮影ができてしまいます(後述しますが、日本では捕まえてはいけません)。

▲姿も仕草もなかなかかわいらしい生き物です

また活動中に鳥などにちょっかいを出されると貝殻に閉じこもり、他の部位よりはるかに硬くできているハサミで入口に蓋をすることで身を守ります。
こうなってしまうと以降の辛抱強さは驚くべきもので、脅威が去るまで一時間以上も沈黙を決め込むことさえあります。

自身の身を守るために黙って自宅(?)に身をひそめる我慢強さは、外出自粛が叫ばれる昨今において我々も見習うべき点でしょう。

また、普通のヤドカリは成長するごとに海の中で様々な貝殻を拾っては賃貸契約を更新していきます。
しかし、生活の拠点を海辺から陸に移したオカヤドカリは成長するごとに海の貝よりもカタツムリの殻を利用することが多くなります。時にはペットボトルのキャップやガラス瓶などを背負うヤドカリも見つかります。なんという柔軟な物件選び!

▲カタツムリの貝殻も人気物件。

▲ガラス瓶にも入っちゃう!

そして最後にひとつ注意点が。沖縄へ旅行に行くとオカヤドカリは簡単に見つかります。海岸へ行くとワラワラいます。
しかし、『あつ森』みたいに捕まえちゃうのはNG!なぜなら彼らは、国が指定する「天然記念物」だから。実はヤンバルクイナなどと同じく厳重に保護される存在なんですね。

え?でも沖縄のあちこちにうじゃうじゃいるよ?なんでこんなにたくさんいるのに保護されてるの……?それはオカヤドカリが天然記念物に指定された当時はまだ沖縄が日本に返還されておらず、生息している国土が小笠原諸島に限られていたからだと言われています。
しかしその後、いざ沖縄が日本に返還されてみるとそこら中にわんさかいた……と。
天然記念物は数あれど、なかなか珍しいケースです。

▲ムラサキオカヤドカリという種類。
綺麗なカラーリングのものも多く、ペットとして人気が高い。

なので『あつ森』のようにお部屋でオカヤドカリを飼いたい人はペットショップで販売されているものを買ってきましょう。あれは特別な許可を得た業者が捕まえてきたものなので合法ですからね!

それではGWもおしまいですが、ヤドカリを見習って引き続きステイホームしていきましょう!



■著者紹介:平坂寛

Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。


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