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【“危険な犬種”は存在するか? vol.3】特定犬種を規制する法律の問題点

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前回、特定犬種の管理や飼育に規制をかける特定犬種規制法「BSL」(Breed Specific Legislation) から、犬種でひとくくりにしない「BNL」(Breed Neutral Legislation) に移行しているアメリカの傾向について紹介した。今回は、この背景を簡単に解説する。

犬の攻撃性の原因は?

犬の攻撃性には、社会化の具合やトレーニング、子犬時代の経験、遺伝、性別、不妊去勢手術の有無など、犬種以外の多くの要素が影響を与えるというのがBNLの根底にある。従って、犬種にとらわれることなく、個々の飼い主と犬それぞれの個性と行動に焦点を当て、危険なケースを法律で規制するという流れである。

犬を飼育するにあたっての免許制度の強化、飼い主への段階的なペナルティ、犬が他人にけがや損害を与えた時に飼い主が負う民事および刑事的責任、犬の攻撃行動につながる飼い主による虐待に対する厳罰化などを織り込むケースが多いそうだ。

BSLの弊害

特定犬種規制法は、エビデンスに乏しく実効性が無いという意見と共に、その施行が各方面に悪影響を与えてきたとの指摘もある。禁止された犬種を隠して飼育するケースがあり、そうした場合はワクチン接種や病気の治療など犬が適切な健康管理を受けられなかったり、屋外での運動が大幅に制限されたりする傾向にある。その結果、犬には肉体的・精神的に大きな負担が生じ、予期せぬ事故にもつながり、逆にリスクを高めるという。

また、愛犬の管理を徹底している責任ある飼い主が不利益を被る場合もある。居住地で新たにBSLが施行され愛犬が飼育禁止犬種に指定された場合、引っ越しを余儀なくされたり行動が大幅に制限されたりする可能性も否めない。

ASPCAはさらに、BSLが無責任な飼い主を生み出してきた可能性もあるとしている。「アウトロー = 無法者」は、「アウトロー = 不法」な存在に魅かれる傾向がある。アメリカのギャングたちの間でピットブルの飼育が流行した時代があったそうだが、それが1980年代にBSLが普及し始めたタイミングと一致するようだ。

確かにアメリカのアクション映画などで、ギャング団がピットブルを伴うシーンを観ることは少なくない印象がある。

CDCや合衆国司法省なども特定犬種規制法には否定的

疾病管理予防センター(CDC)のデータによると、アメリカでは年間30名以上が犬に関連する(かまれる、またはぶつかるなどの)事故で死亡している。人口が約3億3000万人と日本のおよそ2.6倍である一方、犬が関連した死亡事故は7倍と決して少なくない。最新の情報である2018年には35人が亡くなっており、CDCも犬が関係する事故の重大性は認識している。

そんな中にあって、CDCも犬種で規制するBSLには否定的立場を取っている。咬傷事故に関するデータにおいて、犬種の情報については不正確なものが多く、BSLの根拠となっている事例は科学的根拠に乏しいというのがCDCの主張とのことである。例えば、単に見た目の特徴だけで、咬傷事故に関わったのがピットブルだと判断されたケースも多く、統計結果の信ぴょう性に大きな疑問があると言われている。

このCDCやASPAC以外にも、アメリカ法曹協会、米国獣医師会、アメリカン・ケンネル・クラブやアメリカ合衆国司法省など多くの公益性を持つ団体がBSLに対して否定的な立場を取っているそうだ。現在のアメリカでは、「凶暴な犬種」という考え方はモラル的にも科学的にも否定される傾向にあると言える。

こうした傾向を踏まえ、次回は日本が進むべき方向に関する提案をしたい。

《石川徹》

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