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【“命の商品化”を考える vol.12】繁殖に関する診断についての議論と今後のスケジュール

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  • 獣医師による健康診断の義務付け
  • 繁殖の回数や健康に関する条件
  • 獣医師による診断書の義務付け

前回は8月12日に環境省が説明した、ペット取り扱い事業者に遵守義務が課せられる具体的な基準(通称、「数値基準」)の改定案について、飼育スペース、従業員数と繁殖の年齢・回数について紹介した。

今回は、繁殖に関するそのほかのポイントと今後のスケジュールについて要点をまとめた。

初期発情や帝王切開などに関する診断

繁殖に関しては、初期発情での交配と帝王切開のリスクについても前回の検討会で議論された。これに対しては、数値基準で義務化が予定されている年1回の獣医師による健康診断において、「繁殖個体については、雌雄ともに繁殖に関する診断を受けることを義務付け」という注記が加えられた。

健康診断とあわせて帝王切開後の状況や将来的な難産の恐れ、初回発情時に体の成長が不充分なケースなどについても診断を受け、不適切と判断されれば交配を認めないとされている。帝王切開についてはさらに、処置を行った獣医師から出生証明書に加えて次の繁殖に関する助言を含めた診断書を受領することも義務付けが検討されている。

また、「雌雄ともに」と繁殖関連の診断義務化にオスも加えられたのは前回の提案には見られなかった項目で前進といえるだろう。ただし、この分野の数値基準遵守には獣医師の正確な診断が前提になっており、そこをどう担保していくか、獣医師法を含め細かな調整が必要と思われる。

また、法律家の委員からは、診断を受けた場合は「それに従うこと」までを義務として明記すべきとの指摘もあり、抜け道を無くすためのきめ細かい検討が求められる。

遺伝的疾患は検討外

繁殖に関する議論に、「命の商品化を考える vol.9」で指摘した遺伝的疾患が今回も含まれていない。「日本は世界でも突出して犬の遺伝性疾患が多い国」(埼玉県獣医師会)という状況が認識されていないのは残念である。環境省の資料には、「繁殖に適さない個体(初回発情時に体の成長が不十分な場合、帝王切開を経験し難産のおそれがある場合、栄養状態が良くない場合等)の交配を認めない」とあり、遺伝的疾患に関する課題は認知されていないようだ。この点については、我々マスコミも含め今後の課題である。

今後の流れ

以上、検討会で発表された内容の主なものをまとめた。もちろん、愛犬家や愛猫家の理想とする環境には遠いと思われるが、前進していると言えるだろう。今回の検討会で委員から出された意見などを基に環境省がまとめる提案は、秋に予定されている「中央環境審議会・動物愛護部会」で審議される。パブリックコメントの後、審議会答申を経て年内の公布というスケジュールとなっている。

並行して、検討会において解説書に関する議論が行われ、数値基準は来年6月1日に施行される。

いずれにしても、「100かゼロかではなく、データやファクトに基づいて動物のより良い環境がどうあるべきか」(小泉進次郎環境大臣)考えることを基本として、すべてのステークホルダーが納得できる省令の策定に、環境省の手腕が問われている。

《石川徹》

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