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高齢化社会にペットが貢献、犬や猫との生活が高齢者のQOL維持・向上に…人とペットの幸せ創造協会・越村会長

人とペットの幸せ創造協会・越村義雄会長
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老犬・老猫ホームに関する記事でも紹介したように、ペットとして暮らす犬や猫は年々長生きになっている。高齢化社会におけるペット飼育について、人とペットの幸せ創造協会の越村義雄会長に話を聞いた。

ペットと飼い主、両方の高齢化が進む日本

ペット保険のアニコムが行った調査では、2008年に13.3歳だった犬の平均寿命が2017年には14.0歳となった。猫も13.7歳から14.2歳に延びている。また、一般社団法人「人とペットの幸せ創造協会」によると、飼い犬の年齢別分布では7歳以上が全体の56%を占めており、寿命の延びと合わせてペットの高齢化が進んでいると言えるだろう。

人間の高齢化については言うまでもないが、厚生労働省が今年の7月に発表した政府統計によると、令和元年の女性の平均寿命は87.45歳、男性が81.41歳でどちらも過去最高を更新した。世界的にも女性は香港に次ぐ2位、男性も香港とスイスに次いで3番目と、トップクラスの長寿国である。人口に占める高齢者の割合も増加しており、65歳以上が人口に占める割合は現在の29%から50年後にはほぼ40%まで上昇すると予測されている(財務省調べ)。

高齢化によるペット飼育の課題

飼い主の高齢化は、ペットの生活の質(QOL:クオリティ・オブ・ライフ)にも影響を与える場合がある。毎日行う食事の用意やトイレの清掃、ブラッシングなど身体の手入れに加え、体調を崩した時の動物病院への通院や毎日の散歩など、様々なケアが困難になるケースもあり得るだろう。生活環境によっては、飼い主の急な入院などによって取り残され、食事や水が与えられなくなるリスクもないとは言えない。

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人間の高齢化社会に対するペットの貢献

そうした事情から犬や猫との生活を諦める高齢者もいる。一方、越村氏は、高齢化社会においては動物との共生が多くのメリットをもたらすと語る。

「ペットと暮らすことで、特に高齢者の医療費抑制効果があることが分かっています。ドイツでは年間およそ7500億円、オーストラリアでは約3000億円にのぼります。国全体で考えると約8~10%の削減効果があると言われており、日本にあてはめると約4兆円という計算です」。

東京大学・西村亮平教授の研究によると、動物との触れ合いが情緒の安定、ストレスの低減、規則正しい生活リズムの確立といった精神面にプラスの作用をもたらすとともに、心拍数や血圧の安定などにもつながるそうだ*。その結果、病院への通院回数が減少したり、寝たきり状態だった高齢者が自主的に起床できるようになったりするなど、健康状態の改善が見られることが分かっている。

ペットと暮らすことは健康寿命を延ばすメリットもあると言われている。散歩による継続的な運動や他の飼い主との交流、世話をするための「考える」行為が関節疾患や認知症などの予防につながり、女性では3年近く健康寿命が延びるという報告もある。

高齢化の進む人間と犬や猫が共生できる社会へ

高齢化が進む人とペットだが、共に生活を続けることが双方のQOL維持・向上に重要なのは間違いないようだ。人間はもちろん、動物も共に暮らしてきたパートナー(飼い主)と離れて生活することは大きなストレスにつながりQOLの低下につながることが分かっている。

「犬の散歩代行業や高齢者とペットをあわせた見守りサービスを提供する事業者、動物と一緒に入居可能な高齢者住宅も増えています。こうしたサービスや施設などが、どこでも誰にでも利用できるような社会システムの構築が望まれますね。また動物関連の専門学校では、ペットの介護士養成コースも動き出しています」(越村氏)。

高齢動物に特有なニーズを理解したケアワーカーと人間向けの介護士が連携して総合的なサポートを行う体制をとれば、包括的な介護環境ができるだろう。さらに、人間と動物の両方を介護できる専門の資格を整備することも検討する価値はありそうだ。

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今後の課題

越村氏は今後、犬や猫と暮らしているケースとそうでない場合の健康寿命に関するデータ収集・分析を行うことを考えているそうだ。QOLの維持・向上に関するメリットを数値化するなど、動物との共生メリットの可視化を目指している。これには、ペット業界全体が一つにまとまり自治体や医師会・獣医師会などと密接に連携することも必要だろう。

その一環として、「ヒトとペットの理想郷を作りたい」とも語る。動物の飼育が可能な高齢者住宅や町中のドッグランなどを備えたモデル地域をつくり、国内外の他の自治体から見学に来るような環境を整えたいとのことである。

学校教育の重要性

また、そうした高齢者と犬や猫が共生しやすい環境づくりのためには、学校の役割も大きいだろう。社会全体が動物と暮らすことの意義を理解し、それを尊重する意識を醸成していくことが不可欠と思われる。そのためには、学校での飼育やふれあい授業など、子ども達が動物と接することのできる環境を整える必要性を感じる。

越村氏によれば、日本では、どちらかというと小学校等での動物飼育が減少する傾向にあるそうだ。一方アメリカでは、学校で飼育する生き物を生徒が週末に連れ帰り、自宅で世話をするプログラムを行っている自治体も多いという。

* ペットとの共生推進協議会発行「笑顔あふれるペットとの幸せな暮らし」より

《石川徹》

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