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【“命の商品化”を考える vol.13】 また一歩前進した「数値規制」…繁殖回数明記、犬猫以外も今後検討

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  • 犬の「メスの交配は6歳まで」が追記された
  • 「犬猫以外の哺乳類、鳥類及び爬虫類に係る基準についても、今後検討を進める」とされた
  • 「日本は世界でも突出して犬の遺伝性疾患が多い国」という状況の改善につながるか?
  • 中央環境審議会動物愛護部会が環境省によって開催された

10月7日午後2時より、環境省が「中央環境審議会動物愛護部会」(第57回)を開催した。今回の大きなテーマは、「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下、愛護法)に関連し動物取扱業者に課せられる環境省令、いわゆる「数値規制」案の答申である。

具体的な飼養基準を定めるこの省令は、この後パブリックコメントを経て同部会での最終確認を行い、年明けには公布される。したがって、ここでの議論が1つの山場と言えた。

数値規制とは?

昨年改正された愛護法では、繁殖業者やペットショップなどに具体的な「飼養管理基準」の遵守義務が課せられる。この基準は、「動物の健康及び安全を保持するとともに、生活環境の保全上の支障が生ずることを防止するため(環境省資料より)」、同法第21条に基づいて環境省が省令として定める。要するに、犬や猫が劣悪な環境下で飼育されるのを防止するため、最低限の基準を明確化するという取り組みである。

これまでREANIMALでも報じてきたように、一般に数値規制として知られるこの環境省令の具体案は、獣医師を含む学者や法律家など7名の委員から構成される「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」(以下、検討会)で7回にわたって議論されてきた。その最終案が今回、この審議会で議論された。ちなみに議事次第には、「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律の施行等の在り方について(第3次答申。「適正な飼養管理基準の具体化」に係るもの)」とある。

動物愛護部会の構成

法律家で弁護士の新美育文・明治大学名誉教授を部会長とする動物愛護部会には、獣医師や動物関連の専門家を中心に医師や弁護士なども委員として参加した。その他、三重県副知事や、東京都の動物愛護相談センター、動物福祉関連団体に加え、ペット業界団体(一般社団法人全国ペット協会)からも代表者が出席。合計16名の委員は、関連分野から幅広く意見を募る観点から選ばれた印象を受けた。

答申内容

具体的な数値基準案は、基本的に8月に行われた検討会で議論されたものに準ずる。詳しくは過去にREANIMALで紹介しているが(vol.11vol.12)、主に以下のポイントが環境省より部会長および委員に説明された。

・飼育スペース:「閉じ込め型の飼育防止」(環境省)に必要なケージおよび運動スペースのサイズを規定
・ケージ構造:肉球を傷めないよう配慮した床材の使用などを義務化
・従業員数:1人が世話をする犬・猫の頭数上限を設定
・環境管理:温度、湿度、照明や臭気などの環境対策を明確化
・健康管理:獣医師による定期的(年1回)な健康診断などを義務付け
・展示・輸送:休息設備への自由な移動や6時間おきの休憩の確保(動物カフェ等)および輸送後2日間は展示等を行わず状態観察を行うことの義務化
・その他:不適切な被毛や爪の状態の禁止や、人と触れ合う機会の確保

なお、すべての項目は繁殖業や競りあっせん業(ペットオークション)、販売業(ペットショップ)などの「第一種動物取扱業者」だけでなく、保護・譲渡団体等、非営利の「第二種動物取扱業者」にも適用される。これは、問題となっている保護団体の飼育崩壊なども念頭に置いた決定であると考えられる。

前回からの大きな進歩

今回、最も進歩したと言えるのがメス犬の繁殖回数だろう。8月に行われた第7回の検討会では、「メスの交配は6歳まで」と基本的には年齢による基準が提案されていたが、「生涯出産回数は6回まで」との条件が追加された。愛護法は、「動物を繁殖の用に供することができる回数」を定めるとしており、前回の検討会では法律家の委員などからの指摘があった点である。

獣医師からも出産・育児における母体の肉体的・精神的負担などへの配慮から、回数の上限を設けるべきとの意見があった。また、動物愛護に取り組む国会議員や団体などからは、産めるだけ産ませる余地を残すべきではないとの意見も出ている。「6歳まで(満7歳未満)」という表記の前に、6回という回数が明記されたことは評価されるだろう。

さらに「犬猫以外の哺乳類、鳥類及び爬虫類に係る基準についても、今後検討を進める」とされた。小さな一歩であり、スケジュールなどを含め詳細は未定である。とはいえ、これまで犬猫に限られた議論であったことを考えると重要な一歩だろう。

その他にも、「…繁殖の用に供することができる動物の選定」とあるにもかかわらず、ほとんど議論されてこなかった遺伝的疾患にも関連する注記が追加された。「長い品種改良の歴史の中で、(中略)特有の疾患のリスクがある犬種が存在することなどを踏まえ、犬猫の品種の多様性や人の動物への関わり方について、今後、幅広い視点から国民的な議論を進めていくことが必要。」とある。vol.9で紹介したような、「日本は世界でも突出して犬の遺伝性疾患が多い国」(埼玉県獣医師会)という状況の改善に向けた議論が期待される。

次回は、この省令案に対して強い不満を表明した一般社団法人全国ペット協会の意見と、それを受けた環境省の反応について紹介する。

《石川徹》

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