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続・犬猫のワクチン接種について vol.4…狂犬病予防法の見直しは不要か?

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以前、REANIMALでも紹介したように、日本では1956年の1名を最後に、国内で人間が狂犬病に感染した例は報告されていない(海外で感染した後、日本で発症した例を除く)。これは「狂犬病予防法」が1950年に施行されたことが大きく貢献している。

参考記事:「狂犬病は発症すれば致死率ほぼ100%、予防接種は飼い主の義務」

犬の自治体への登録と年に1回の狂犬病予防接種が飼い主に義務付けられており、法的には犬の登録を怠ったり、狂犬病の予防注射を受けさせていなかったりした場合、飼い主には20万円以下の罰金が科せられる。

ワクチン接種率の低下

日本では長年発生していないことを理由に、登録や予防接種を行わない飼い主が少なくないと言われている。厚生労働省の資料によれば、2018年には全国で622万6615頭の犬が登録されており、そのうち約7割が狂犬病予防接種済のプレートを受け取っている。一方、国内で飼育されている犬は900万頭近く(一般社団法人 ペットフード協会による2019年12月の発表では879万7000頭)とも言われており、無登録・無接種の犬を含めると日本獣医師会では接種率を約4割と推定している。

公衆衛生上の必要性

WHO(世界保健機構)のガイドラインによれば、一般的にワクチン接種率70%がウイルスのまん延を防止できる目安とされている。ということは、現在の日本で狂犬病が発生した場合は拡大のリスクをはらんでいると言える。例えば、海外で狂犬病ウイルスに感染した犬が船に紛れ込んで上陸した場合、日本は十分に防御できる状態に無い。

狂犬病予防法は、公衆衛生の観点から施行されたもので、発症した場合の致死率がほぼ100%という狂犬病から人間を守ることを目的としている。特に昨今は、自然災害などでペットと同行避難するケースも増えており、家族だけでなく地域の安全を守るためにも狂犬病の予防接種は行いたい。もちろん、予防接種が愛犬を守ることにつながることは言うまでもない。

抗体検査による接種免除は不可能?

では、ジステンパーなどと同様に、抗体検査はできないのだろうか。現在、国内では一般財団法人 生物科学安全研究所が狂犬病の抗体検査を行っている。ただし、0.5IU/mLという抗体価の基準は「犬等の輸出入検疫規則(平成11年農林水産省令第68号)に基づく」(同研究所)ものである。海外から犬を輸入したり愛犬を連れ帰ったり、海外に連れ出したりする場合の基準にはなっている。一方で、東京・目黒にある安田獣医科医院の安田英巳獣医師によれば、「ワクチン接種の証明にはなるが防御抗体がある保証はない」とのことである。

国産ワクチン以外は使用できない現状

したがって日本では年1回の予防接種を受けるしか選択肢がないが、海外では免疫持続期間が3年のワクチンが既に使用されている。こうした外国製の狂犬病ワクチンはなぜか国内に流通しておらず、日本で使用できるのは国産ワクチンのみで使用方法(免疫持続期間)も「狂犬病予防法による」とされているという。ただし、今のところは諮問段階であるが、安田獣医師によれば3年に1回に変更する方向で検討も行われているとのことだ。

猶予証明書に法的根拠はない

なお、健康面の理由でワクチン接種を行うことができない場合、獣医師から猶予証明書を発行してもらうケースもある。これはあくまでも健康上の理由で「今現在は」接種を避けた方が良いというもので、狂犬病予防法による接種義務を免除する法的根拠は無いことを知っておくことは重要だろう。

狂犬病予防法改正の必要は?

狂犬病は、犬と人間だけでなく全ての哺乳類が感染する病気である。本来は猫などへの接種も必要と考えられる。狂犬病予防法では、犬の他に「猫その他の動物(牛、馬、めん羊、山羊、豚、鶏及びあひるを除く)」についても輸出入については規定を設けている(同法第2条)が、年1回のワクチン接種義務は犬に限られている。

昨今では、犬猫以外のいわゆる「エキゾチック動物」をペットとして飼育するケースも増えている。その様な状況を考えると、犬以外の動物に対する定期的なワクチン接種の要否も改めて議論の必要性を感じる。また、免疫持続期間の長い外国製ワクチンの使用や抗体検査などを含め、犬に対するワクチン接種の見直しも必要ではないだろうか。

ワクチンには必ず存在するリスク

農林水産省の関連団体である動物医薬品検査所のデータによると、年間およそ20頭の飼い犬が狂犬病ワクチンとの因果関係が否定できない原因により死亡している。年間450万頭ほどが予防接種をしている事実を考えると、副反応のリスクは非常に低いといえる。一方で、それぞれの飼い主にとって愛犬の命は数字で現れるリスク以上の重みがあることは事実だ。

現状では1年に1回の予防接種が大切

狂犬病の予防接種は法で定められているだけでなく、公衆衛生の観点から飼い主を含めた人間を守るための義務である。国産のみに限定されているワクチンの使用や、毎年の手続きで配布される(購入する)「注射済票」には疑問があるが、何よりも大切な家族である愛犬を致死率100%の感染症から守るために接種を行うべきだと考える。

狂犬病予防法の改正が行われるまでは、年に1回の予防接種を行うと共に、その前後は愛犬の健康状態に十分気をつけるなど慎重な対応が必要だ。

《石川徹》

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