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命を生み出す行為“ブリーディング”を考える vol.1 … 人間が創り出した犬の苦痛

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  • 頸椎の形成不全も遺伝的な疾患の1つ
  • ブルドッグのほとんどは帝王切開での出産となる(画像はイメージです)
  • オランダではマズルの長さと頭の長さの比率で繁殖に法規制を
  • ドッグショーの風景(画像はイメージです)

REANIMALではこれまでに、犬の繁殖について様々な角度から検証してきた。今回はこれまでに紹介したことを含め、いわゆる「純血種」のブリーディングについてまとめた。その上で、特に気になったイギリスの「ショードッグ」に関する議論から、日本における犬のブリーディングについても3回にわたって考えてみたい。

日本では「無秩序な繁殖」による遺伝的疾患が蔓延

私たちが子犬を家族として迎える場合、多くの場合は繁殖業者から直接、もしくはペットショップ等を経由して出会うことになる。ブリーダーの中には、犬種の特徴を維持しながら肉体的・精神的にも健全な個体を生み出すことに心血を注ぐプロフェッショナルがいる。ライフスタイルや好みなど、飼い主との慎重なマッチングも行い、犬にも人間にも幸せな生活を提供することにこだわるケースを以前紹介した(参考記事)。

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一方、犬の繁殖をドライにビジネスと捉える繁殖業者は少なくないだろう。劣悪な環境で犬・猫の飼育を続ける業者に対しては、「動物の愛護及び管理に関する法律(愛護法)」の改正に伴って細かな規制を課すことが検討されている。(これに関しては、「“命の商品化”を考える」シリーズで随時詳細をお知らせしている。)

また、繁殖業者の中には遺伝的疾患などのリスクを抱えた親犬を交配に使い続ける場合があることも紹介した(参考記事)。「“命の商品化”を考える vol.16」でも触れたが、無秩序な繁殖の結果、「日本は世界でも突出して犬の遺伝性疾患が多い国」(埼玉県獣医師会)と言われている。

頸椎の形成不全も遺伝的な疾患の1つ頸椎の形成不全も遺伝的な疾患の1つ

一口に「ブリーダー」といっても、その姿勢やこだわり、命(犬・猫)や顧客(= 飼い主)との向き合い方まで実に様々である。

人間が「創り出した」身体的苦痛に苦しむ犬たち

海外の動物愛護事情に関するシリーズでは、人為的な品種「改良」の結果、生まれながら健康状態に問題を抱える傾向がある犬種についもて触れた(参考記事)。例えばブルドッグは自然分娩が難しく、ほとんどの場合は帝王切開による出産となる。また、フレンチブルドッグやボストンテリア、ペキニーズなど「短頭犬種(鼻ぺちゃ犬)」の場合、目や呼吸器系に深刻な疾患を抱えるリスクが高い。

ブルドッグのほとんどは帝王切開での出産となる(画像はイメージです)ブルドッグのほとんどは帝王切開での出産となる(画像はイメージです)

こうした健康上の問題は、人為的に「創り出された」極端な形状に由来することが多い。そうした状況の中、オランダではマズルの低すぎる個体を繁殖に使うことを禁止する法律が今年施行されたことも紹介した(参考記事)。ただし、欧州域内の他国から子犬を輸入する場合の規制は無く、根本的な解決にはつながらないとの意見もあるようだ。

オランダではマズルの長さと頭の長さの比率で繁殖に法規制をオランダではマズルの長さと頭の長さの比率で繁殖に法規制を

イギリスでは極端な身体的形状が問題に

動物愛護に関しては先進国なイメージのあるイギリスでも、様々な問題があることも紹介してきた。中でも2008年と2012年にBBCが放送したドキュメンタリー番組では、犬種の特徴を極端に強調する繁殖が深刻な遺伝的疾患をもたらしていると報じたことに触れた(参考記事)。

ドッグショー(コンテスト)に「出品」する繁殖業者の間では、例えば短頭犬種の場合には呼吸困難をきたす程のマズルの低さなど、極端な形状を生み出す繁殖手法が賞を獲る1つの戦略になっている印象を受けた。受賞という栄誉と共に、そうした犬の血をひく子犬たちが高額で取引されることもそうした傾向の一要因ではないだろうか。

この番組によって、血統書の発行やドッグショーを主催するイギリスの畜犬団体「ザ・ケネルクラブ(The Kennel Club)」とBBCとの間では軋轢が生じたようだ。2009年よりBBCは、それまで40年以上にわたって放送してきた同クラブ主催のドッグショー「クラフツ(Crufts)」の中継をやめた。関係者によれば、ブリーダー業界の状況は少しずつ改善してはいるが、大きな変化を好まない体質などもあり、依然として純血種のブリーディングに関する課題は多いとのことである。

150年近い歴史を誇る世界最古の「ザ・ケネルクラブ」

ちなみにザ・ケネルクラブは、1873年に設立された世界で最も古い畜犬団体である。当初はドッグショーと「フィールドトライアル」(= 猟犬が獲物を持ち帰るコンテスト)の適正な実施を目的としていた。現在では、それぞれの犬種に求められる特徴(=「犬種標準」)の策定・改訂や血統証の発行など、いわゆる「純血種」の犬籍管理をメインに行っており年間登録数は20万頭におよぶ。

また、年間4000以上のドッグショーも行っており、クラフツも創設者の死去にともなって1939年から同クラブが開催している。このドッグショーも1891年から続く歴史があり、毎年2万頭を超える犬がエントリーする。英国外からも40を超える国々から3000頭以上が出場するとともに、4日間で16万人以上の観客を集める世界最大級のドッグイベントである。

ドッグショーでの風景(画像はイメージです)ドッグショーの風景(画像はイメージです)

世界一の歴史と伝統がある畜犬団体「ザ・ケネルクラブ」およびドッグショー「クラフツ」と、公共放送であるBBCとの間で議論が起こったということから、イギリスでは犬の繁殖と福祉が社会的に大きなインパクトを持っていることがうかがえる。

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日本やイギリスだけでなく世界中で愛されている犬たちだが、同時に人間との付き合いの長さや「近さ」から、こうした様々な苦労を強いられている側面も多い。次回は、関係者が「依然として多い」と言うイギリスのブリーディングにおける課題と、その一因ともなっているであろう「犬種標準」を中心に紹介する。

《石川徹》

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