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「殺処分ゼロ」に取り組む行政の姿勢 vol.1…国が定める3つの分類

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  • 平成30年度も東京都では113の犬猫が殺処分に
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REANIMALでは以前、名古屋市の殺処分ゼロに向けた取り組みを紹介した(参考記事)。「本当の殺処分ゼロは簡単に実現できるものではない」という同市の現状を踏まえ、10年をかけての実現を目指している。一方、「殺処分ゼロ」達成を既に公言している自治体もある。

ここでは改めて、首都・東京の発表について検証し2回にわたって紹介する。そこに見えるのは、動物愛護が行政の都合で利用されてはいないか、という疑念だった。1回目の今回は、まず国による「殺処分」の定義をまとめた。なお、殺処分は飼い主からの持ち込みや多頭飼育崩壊、ペット産業など多くの要因が絡む複雑な問題だが、ここでは行政の姿勢に焦点を当てる。

はじめに:東京都が「動物の殺処分ゼロ」達成を発表

2019年4月、東京都は「平成30(= 2018)年度に初めて動物の殺処分ゼロを達成しました」と発表した。都が発行する「保護・収容動物の適正な取扱い・譲渡の促進に向けたガイドブック」によると、2016年12月発表の「都民ファーストでつくる"新しい東京"」実行プランに「動物の殺処分ゼロの実現」を目標に掲げたとある。

国が公表している殺処分数

環境省の「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」によると、2016年度における東京都の殺処分数は犬5頭、猫227匹の合計232個体とある。翌2017(平成29)年度も、10頭と192匹の合計202個体にのぼる。つまり、東京都は殺処分ゼロを僅か2年で達成したように感じる。

環境省と東京都が公表するデータの矛盾

ところが環境省のデータには、平成30年度においても12頭の犬と101匹の猫、合わせて113が東京都の「殺処分数」として記載されている。年度の境における報告の抜け漏れや、統計上の誤差などでは考えられないレベルの齟齬である。調べると、言葉のトリックともとれる実態が見えた。

平成30年度も東京都では113の犬猫が殺処分に平成30年度も東京都では113の犬猫が殺処分に

国による「殺処分」の分類

環境省では、殺処分を以下の3つに分類して統計を取っている。
1.譲渡することが適切ではない(治癒の見込みがない病気や攻撃性がある等)
2.愛玩動物、伴侶動物として家庭で飼養できる動物の殺処分
3.引取り後の死亡
(動物愛護管理行政事務提要の「殺処分数」の分類より)

国の場合1:病気やケガだけでなく攻撃性も安楽死の対象に

上記の分類「1」では、ケガや病気による苦痛が著しく、治る見込みも無いなどの理由から行われる、いわゆる安楽死が含まれる。判断にあたっては、「動物の愛護及び管理に関する法律(通称、動物愛護法)」第2条*で定める「基本原則」に基づくとされている。

* 動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない。

「攻撃性」については以下の説明がある。
・収容中及び譲渡後に人や他の動物に危害を及ぼす恐れが高い動物
・闘犬として使用又は訓練された犬で、人や他の動物に重大な危害を及ぼす恐れがある動物

安楽死については人間の場合と同様に議論の必要はあるかも知れないが、動物愛護センターなどに勤務する現場の獣医師や職員、専門家などにより慎重な判断が下されているものと考えられる。この点に関しても、別途検証していきたい。

国の場合2:救えなかった命も含まれる

一方で、厳密には殺「処分」とは言い切れないと思われるケースも含まれている。分類の「3」にある「引取り後の死亡」に含まれるのは、病気、老衰、収容以前に負ったものも含めた怪我や幼齢などにより死亡した犬や猫である。ちなみに、名古屋市では「殺処分」に分類される中の約6割を占めるのが幼齢の子猫とのことである。野良猫から生まれた直後に放置されたと思われる子猫が、愛護センターに収容された後、ケアを受けたにもかかわらず衰弱によって死亡するケースが多いそうだ。

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国の場合3:それ以外の殺処分

分類「2」は、施設の収容能力不足や適切な譲渡先が見つからないなどの理由によって殺処分された犬・猫の数である。重い病気や怪我、激しい攻撃性などは見られず、ペットとして一般家庭で飼うことが可能な状態であるにも関わらず行き先が無かった動物たちである。

東京都は国と異なる独自の定義

一方で、東京都の場合は犬猫の処分に関してこれとは異なる定義を作成し、国とは違う分類を行っている。まず、「致死処分」という独自の言葉が創られている。次回は、東京都による「殺処分ゼロの達成」について、その中身を検証する。

《石川徹》

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