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アメリカで新型コロナウイルスに感染したゴリラ、人工抗体で回復へ

サンディエゴ動物園(San Diego Zoo)の「シルバーバック」ウィンストン
  • サンディエゴ動物園(San Diego Zoo)の「シルバーバック」ウィンストン
  • サンディエゴ動物園(San Diego Zoo)で飼育されているウィンストン

1月初旬、アメリカでゴリラが新型コロナウイルスに感染したことがわかった。カリフォルニア州南部にある「サンディエゴ動物園サファリパーク」で飼育されている2頭に咳の症状が見られたため、糞のサンプルを採取して検査を行った結果判明した。これは、類人猿が新型コロナウイルスに感染した初のケースとされている。

感染確認後は、カリフォルニア州公衆保健局やサンディエゴ保健福祉局、大学病院や研究機関など地元の公的機関などが協力して治療が行われた。さらに、アメリカ合衆国農務省(USDA)の国立動物検疫研究所と動植物検疫局、米国保健福祉省の疾病予防管理センター(CDC)や食品医薬品局(FDA)、動物薬センター(CVM)など国の機関も参加して研究・対応にあたった。

当初は数頭が軽い咳、鼻水、鼻づまりや倦怠症状を見せていた。1月25日にサンディエゴ動物園が発表したところによると、群れにいる8頭はすべて回復に向かっているとのことだ。今回ゴリラが感染したのは、カリフォルニア州で広がっている感染力が強いとみられる変異株。無症状だった職員から感染したと考えられている。

「ウィンストン」と呼ばれるシルバーバックにも咳や倦怠症状などが見られた。高齢であるとともに基礎疾患もあることから重症化が懸念され、全身麻酔下での診察が行われた。その結果、肺炎と心疾患が見つかり、心臓病の薬と抗生剤が投与された。

新型コロナウイルス感染症に対しては、「モノクローナル抗体」と呼ばれる物質を使用した治療が行われた。抗体は免疫の基になるもので、ウイルスや細菌などの病原体が体内に侵入した際に体を守るために作られる。今回使用されたのは、これを人工的に合成したものだという。

この人工抗体は、ウイルスの働きを弱めると考えられており、治療にあたった獣医師団は抗体がウィンストンの回復に貢献したと考えられるとしている。昨年10月にドナルド・トランプ大統領(当時)もモノクローナル抗体の治療薬を使用したと言われている。11月にはアメリカのバイオ医薬品メーカーが開発したモノクローナル抗体による治療薬が、新型コロナウイルス感染症用としてFDAから緊急承認を受けた。なお、ウィンストンに使用されたモノクローナル抗体は、人間への使用は認められていないものとのことである。

サンディエゴ動物園には、動物向けに開発されている新型コロナウイルス用の遺伝子組み換えワクチンも供給された。同園では、このワクチン接種を行う動物の検討が始まっているとのことだ。

《石川徹》

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