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イギリスの動物愛護事情 vol.6…大きく遅れていた動物虐待の罰則、刑期を最高5年に引き上げ

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イギリスで、動物福祉法(Animal Welfare Act)を改正する法案が3月12日に下院(House of Commons)を通過した。今後は、上院(House of Lords)での審議を経て夏前には成立を目指す。この改正案は、動物虐待の罪で刑務所に収監される場合の刑期を最高5年まで引き上げるものである。

動物虐待の最高刑が6か月のイングランドとウェールズ

動物福祉に関しては先行しているイメージのイギリスだが、この分野に関しては遅れをとっている。多くの先進諸国では、同様の犯罪に対する刑期が最高5年とされている。一方、イングランドとウェールズの法律*では、これが6か月にとどまる。日本でも2020年6月1日より「動物愛護管理法の一部を改正する法律」(以下、改正愛護法)が施行され、懲役刑が2年から5年に、罰金刑は200万円から500万円にそれぞれ上限が引き上げられている。

英国政府が動物福祉法違反に対する最高刑引き上げに言及してからは、すでに4年が経過しているそうだ。イギリスでも法改正が一筋縄ではいかないことがうかがえる。

「一刻の猶予もない」とする英・動物虐待防止協会

王立動物虐待防止協会(The Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals:RSPCA)は以下のようにコメントしている。

「動物を愛する国を自認しているイングランドとウェールズですが、想像を絶するような動物虐待を罰することにおいては大きく遅れています。北アイルランド、スコットランド、アイルランド共和国および欧州のほとんどの国では、すでに最高刑が5年に引き上げられています。動物に苦痛を与える者は、その犯罪にふさわしい罰を受けるべき時代がやっと訪れようとしています。苦しんでいる動物たちには時間がありません。今国会中に改正法が成立すると信じています」

裁判官も法律の限界を認める発言

RSPCAは年間およそ10万件のネグレクトを含む動物虐待を調査している。そのうち、この数か月で執行猶予を含む6か月の投獄とされた動物虐待の例を挙げている。

・飼い主が子猫を溺死させようと虐待したのち、歯を失い、胸と首にけがを負って出血した状態で放置した

・酒に酔っていたとみられる男が飼い犬を刺し殺した。首、脚、喉に合計5か所の刺し傷が見つかった犬は、流血しながら数時間生きていた可能性もあるという

・猫を熱したオーブンに入れたうえ、トイレに流そうとしたり壁に投げつけたりした男には執行猶予付きの判決が下った。動物病院で診察の結果、この猫は全身に3度のやけどを負い皮膚を失っていた。この猫は5分間オーブンに入れられていたそうだ。判決を下した裁判官は、判決が罪の重さに対しては不十分なことを認めながらも、法律の限界について言及した

・殴打され腰を骨折した犬を流血した状態で放置した2人の男に対し、執行猶予付きの判決が下された

それぞれの国で求められる、さらなる動物福祉の向上

動物福祉先進国のイメージがあるイギリスだが、こうした虐待が行われていたり、法律の厳罰化に時間がかかったりしている現実もあるようだ。その一方、RSPCAのような歴史と実績のある団体が全国的な組織力をもって活動しているなど、学ぶべき点も多い(参考記事)。日本では、改正愛護法に関連する環境省例の公布が遅れているが、少しでも動物福祉の向上につながるよう、実効性のあるものとなることを期待したい。

* イギリス:正式名称は「グレートブリテンと北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland)」。グレートブリテン(島)にはイングランドのほかウェールズとスコットランドがあり、それぞれが独自の議会を持ち法規制なども異なる部分がある。

《石川徹》

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