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動物の高齢化に伴う終末期医療や介護を考える 【アニマルワールドカップ2021】

パネルディスカッション 「ペットケアライフについて」(アニマルワールドカップ2021)
  • パネルディスカッション 「ペットケアライフについて」(アニマルワールドカップ2021)
  • 「人とペットの幸せ創造協会」の越村義雄会長
  • 「動物先端医療センター」の伊藤博 院長
  • 安田獣医科医院の宮本三郎 副院長
  • 下神納木加枝 理学療法士

6月19・20日、オンラインで開催された「Animal World Cup 2021(アニマルワールドカップ2021)」では、セミナーやワークショップも行われた。初開催のイベントだが、ドッグスポーツの紹介だけでなく、様々なプログラムを通して動物と人間の共生を幅広く考える豊富な内容だった。

飼い主とペットの高齢化に関するパネルディスカッション

2日目のメインステージでは、ペットの介護に関するパネルディスカッションが行われた。「ペットケアライフについて」と題したセッションでは、人間同様に高齢化が進んでいるペットといかに付き合っていくべきかについて、専門家から話を聞くことができた。

日本ペットフード協会の最新データによれば、犬の平均寿命は14.48歳、猫は15. 45歳だそうだ。ファシリテーターを務めた一般社団法人「人とペットの幸せ創造協会」の越村義雄会長によれば、一般に7歳以上の犬・猫が高齢と定義されるそうだ。現在、家庭で飼われている犬の55.6%、猫の44.1%が7歳以上で、ペットの高齢化も確実に進んでいるという。

高齢化によってペットのガンも増加

こうした長寿化は、医療の充実や食事および生活環境の改善によるものと考えられるが、長生きになったことで病気にかかる犬猫も増えている。パネリストとして参加した、「動物先端医療センター(静岡県駿東郡)」の伊藤博 院長によると、7歳以上になるとガンにかかるリスクが増えるそうだ。特に10歳以上の高齢犬では半数以上が何らかのガンに罹患しており、死因のトップにもなっている。同センターでは、血液1滴で可能なガンの診断法を開発しており、今後、早期発見・早期治療につなげたいとしている。

「介護」はペットを迎えた時から

安田獣医科医院(東京都目黒区)の宮本三郎 副院長によれば、ペットの高齢化とそれに伴う医療費の増加傾向は一次診療の動物病院でも実感できるそうだ。日常的に食事の量、運動量、排せつ物の状態などに注意を払い、病気の予防が大切であることを強調した。また、「たすけてまもる」を意味する「介護」は、高齢になってから考えるのではなく、ペットを家族として迎えた時から始まるべきものとして、子犬や子猫の頃からも大切だと訴えた。

飼い主とペットの「老々介護」の問題も

日本の高齢化社会では、特に認知症の年老いた犬を高齢者がケアする場合の様々な負担が課題になりつつあるという。夜泣きや徘徊などの介護には、肉体的・精神的な疲労が大きい。医療費の増加により経済的な負担も重くなる。その結果、飼い主が自らの肉体的疾患に気付くのが遅れたり、うつ病など精神的な疾患を発症したりするケースもあるそうだ。

人間の医療ノウハウを応用

人と動物のリハビリテーションを行っている下神納木(しもこうのき)加枝 理学療法士は、ペットのターミナルケア(終末期医療)や介護、認知症に対するケアへのニーズが増えていくと感じている。現在の医学では認知症の治療は不可能だが、生活に刺激を与えることで進行を緩やかにすることはできる。介護についても、例えば床ずれの防止ノウハウなどは人間の医療ですでに確立されている。豊富に蓄積されている人間の介護法をペットに応用し、飼い主に教える人材の育成や、飼い主が学習する場を整えることの必要性を訴えた。

動物の介護にも必要なデイケア

介護疲れ対策にも取り組んでいる宮本副院長によると、飼い主の悩みの1つに、家族の理解不足があるという。いわゆる「ワンオペ」状態の介護によって、精神・肉体の両面で疲弊するケースは少なくないそうだ。家族を中心に周囲の理解が重要なのは言うまでもないが、動物病院やペットシッター、預かり施設、介護相談など老齢動物に特化したサービスの必要性を訴えた。

人間の場合はデイケアなどの利用で、一時的にでも負担を取り除く仕組みが整備されつつある。大切な家族の一員であるペットに関しても、同様のサービスが受けられるような環境づくりが望まれる。宮本氏からは、「事業としては成立が難しいと思われるので、ペット業界がまとまって取り組む仕組みが必要だと思う」とのコメントがあった。伊藤氏も「動物のデイケア(システムの確立)は難しいが、今後、取り組んでいかなければならないのは間違いない」と賛同していた。

下神納木氏も同様に新しいシステム構築の必要性を訴えた。現状では、介護のための預かりサービスを動物病院が提供するのは難しい。そのため、獣医師、トリマー、訓練士や人間の医療従事者などがそれぞれの専門性を生かし、「チームアプローチ」で取り組む形が理想的ではないかとの意見だった。

私たちを長生きさせてくれるパートナーでもあるペット

「伴侶動物」とも呼ばれるペットは、人生のパートナーとして長年にわたって共に暮らす存在である。それを念頭に、「家族」として迎え、普段から注意深く見守る責任が私たち飼い主にはある。言葉によるコミュニケーションができない動物たちとは、日々触れ合う時間を十分に設けて病気の早期発見に努めることが重要だ。

人間の高齢化も進む社会において、伊藤氏は我々人間にとって「生きる目的」としてのペットの大切さも訴える。「動物と生活すると、高齢化や病気など様々な問題も生じます。でも一方で、"この子のために私も長生きしなければ" と思わせてくれるありがたい存在でもあります」との言葉で、約1時間のパネルディスカッションが締めくくられた。

《石川徹》

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