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【働く犬たち】盲導犬編 vol.2… 完璧なロボット犬には育てない、能力とマッチングを重視[インタビュー]

盲導犬候補の子犬
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前回は、障害物・段差・曲がり角を教えるという盲導犬の仕事について聞いた。また、盲導犬はすべて「真面目でおとなしい」というイメージも、実は正確でなく、やんちゃな犬や陽気な犬もいることが分かった。

そんな個性をもった盲導犬たちの育成においては、ユーザーとなる視覚障害者との「マッチング」がとても大切だという。2回目の今回は、そのマッチングや、盲導犬に向く性格・向かない性格について、日本盲導犬協会の山本ありさ氏に話を聞いた。

とても大切な犬と人の相性

----:前回、盲導犬すべてが、いわゆる世間一般に言う「いい子」ではないことをお聞きしました。愛犬家としては、ある意味、安心した気がします(笑)

山本ありさ氏(以下敬称略):当然ですが、みんなそれぞれ個性があります。私たちは、その個性を伸ばすように育てます。犬と人が補い合うことが大切だと思っています。犬にすべて合わせさせるのではなく、ユーザーも犬の性格に合わせて補う場合があります。

例えば、お留守番が苦手な犬もいます。そういった性格の子は、お留守番が少ないユーザーの所に行くようにマッチングします。ユーザーも、できるだけお留守番の時間がないように気遣ってくださいます。

----:介助犬では、その作業が多岐にわたることもあってマッチングが大切だとうかがいました。盲導犬も、やはりマッチングは重要なんですね。

山本:はい。どういった性格・個性の盲導犬を、どういったユーザーのパートナーにするか。私たちも、とても大切にしているのが、マッチングです。

一番いい能力をベストなところまで引き上げる

----:個性を抑えることはしないんですね。

山本:私たちが育てるのは、ロボットのように完璧な盲導犬ではありません。1頭1頭の生まれもった性格や得意・不得意などを理解して、その犬の一番いい能力をベストなところまで引き上げるように育てます。そして、その状態で一番「合う」方と歩くのが、盲導犬にとってハッピーな形だと思います。(人間にとって)100%の犬に作り上げ、「誰でもOKですよ」という形ではなく、「この"ふたり"だったら、補い合いながら楽しく歩ける」という判断をします。

----:それぞれの個性に合わせた教え方をして、その個性を伸ばし、最も適した道を選ぶ、といった考え方は人間の教育にも通じるところがありそうですね。犬も人間も、みんなそれぞれ違って良いわけで、学び方も仕事の仕方もそれぞれですね。

山本:そうですね。犬によって向き・不向きがあります。盲導犬の訓練では、その子が一番ハッピーに過ごせる道を探すのも私たちの大切な役割です。仕事をすることは得意でも、その犬自身が無理をしてストレスになっているような場合は盲導犬にしないという判断もあります。道は1つではありませんから。

人と一緒に何かをするのが大好きな盲導犬

----:とはいえ、盲導犬に必要な要素というのはあると思います。どんなものでしょうか?

山本:当協会では、犬の性格のことを「稟性(ひんせい、筆者注:生まれながら備えている性質)」と呼んでいます。最初に、1頭1頭の「稟性評価」を行います。たくさん項目がありますが、盲導犬として絶対にあってはならないのは攻撃性です。めったにいませんが、生まれもった性格から、(何かのきっかけで)攻撃をするような資質が少しでもあれば盲導犬にはしません。

すごく神経質で、物音や環境変化などが極端に苦手なタイプも盲導犬には向きません。作業自体は覚えられても、ストレスがかかり過ぎてしまいます。ただ、「この性格だから向かない」ということではなく、学習もしますし、表現が変わっていくということがあるので、一概には言えない部分もありますね。

----:神経質な子でも、マッチングで対応できる場合はありそうですね。

山本:そうですね。音に過敏な子は静かな地域に行ったり、電車に乗ったりすることのないユーザーの所に行くとか。いずれにしても、その子がハッピーな環境で暮らせるように考えます。

----:向いているのはどんな犬ですか?

山本:人と一緒に何かをすることが楽しいと思う子です。そういう性格の犬は、盲導犬としての仕事も楽しめます。おもちゃで遊ぶことよりも、人と関わることが楽しい、と思える性格であることが大切です。

訓練の方法も、その後の道もさまざま

----:訓練を受けても、盲導犬にならない犬もいるのですか?

山本:盲導犬になるのは、だいたい3~4割です。ですので、6~7割くらいは盲導犬にはしない判断をしています。

----:盲導犬にならない犬はどうなるのですか?

山本:「キャリアチェンジ犬」と呼びますが、一般家庭に譲渡されます。ボランティアとして登録のあるご家庭の中から、その犬の性格に一番合うご家族を選ばせていただきます。また、皆さんに盲導犬を知っていただくためのデモンストレーションなどを行う「PR犬」になる子もいます。キャリアチェンジの場合もパートナーさんとのマッチングは慎重に行います。

----:繰り返し「1頭1頭」という言葉が出てきます。常に念頭にあるのはそこなんですね。

山本:そうです。1頭1頭の性格をしっかり見たうえで、訓練もそれぞれの犬に合わせて行います。「訓練」と聞くと型にはめてしまう印象を持たれるかも知れませんが、私たちは「education」、つまり教育と呼んでいます。


山本氏から繰り返し聞かれた「1頭1頭」という言葉が印象的だった。個性に合わせた育成を行い、決して人間にとって「完璧なロボット」にはしない、というところに強い意志が感じられる。次回は、日本盲導犬協会が「education = 教育」と呼ぶ、盲導犬の育成についてさらに話を聞く。

山本ありさ:公益財団法人日本盲導犬協会・神奈川訓練センター 広報コミュニケーション部 普及推進担当

小学生の頃に「盲導犬クイールの一生」という本を読んだことをきっかけに盲導犬に興味を持つ。高校卒業とともに盲導犬訓練士を目指し、日本盲導犬協会付設盲導犬訓練士学校へ入学。在学中に普及推進活動に触れ、盲導犬ユーザーと盲導犬にとってより暮らしやすい社会作りに大切な活動であることを感じ現職を希望。現在はコロナ禍の影響もあり、SNSなどを活用した普及推進活動の可能性を模索しながら啓発活動を行う。

《石川徹》

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