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アメリカで狂犬病ワクチンを空中散布…アライグマなど野生動物の感染予防

アライグマからの狂犬病感染例も少なくない
  • アライグマからの狂犬病感染例も少なくない
  • アメリカで最も多いのはコウモリからの感染
  • 「日本にも狂犬病がまん延していた時代がありました」とする厚労省のポスター
  • 「狂犬病」はネコやその他すべてのほ乳類が感染する

アメリカでは野生動物の狂犬病感染がたびたび報告されている(参考記事)。そうした動物と接触した人間が命を落とすこともある。この春、マサチューセッツ州では狂犬病ワクチンのヘリコプターからの投下が行われた。

感染者が毎年死亡しているアメリカ

アメリカ疾病対策予防センター(CDC)によれば、2009年から2018年までの10年間で15人が国内で感染した狂犬病で死亡している。そのうち、12件がコウモリから、3件はアライグマからとされており感染源は野生動物に限定される。犬からの感染は、外国(インド、アフガニスタン、ブラジル、フィリピン、ガテマラ、ハイチなど)滞在中に噛まれたことが分かっている。

アメリカで最も多いのはコウモリからの感染アメリカで最も多いのはコウモリからの感染

狂犬病予防には野生動物対策が重要

新型コロナウイルスなど人間の感染症の監視を行う国際機関としてWHO(世界保健機構)が知られている。WHOと密接な連携のもと、動物の感染症等へ取り組みを担っているのが「国際獣疫事務局」(OIE)で、日本も加盟している。OIEは、「現在、先進国における狂犬病対策は犬猫の狂犬病対策ではなく、野生動物狂犬病の対策の強化である」(小澤義博名誉顧問)として、狂犬病の予防には野生動物の管理が重要なことを強調している。

狂犬病ワクチンの空中散布

AP通信などによると、マサチューセッツ州の一部では今年の5月初旬から約1か月にわたってヘリコプターからワクチン投下を行った。このプログラムは、野生動物への狂犬病ワクチン投与率向上による感染防止を目的としている。車でのアクセスが難しい地域も含め、アライグマなどが生息しているエリアに7万個近いワクチン入りの餌が撒かれた。

食べることで効果を発揮する経口ワクチンを包んだ餌は、アライグマが好む強い魚の臭いを発するそうだ。人間は不快に感じるため、子どもが誤って摂取する心配はないという。犬などが誤って食べても、胃腸に不調を生じる場合がある程度で安全性は確認されている。

アライグマから臓器移植で感染した例も

アメリカでは、2013年に腎臓移植を受けた後に死亡した男性の脳組織から、アライグマ由来の狂犬病ウイルスが検出された。当時のNBCニュースによると、その後の調査で臓器提供者が狂犬病に感染していたことが原因とされている。提供者の青年は、猟犬のトレーニングに使用するために野生のアライグマを捕獲しており、その際に噛まれていたことが判明した。

アメリカでも感染例が多いコウモリについてはリスクに関するある程度の認識があるようだが、「アライグマによる感染リスクが十分に認識されておらず、都市部への広がりが懸念される」とCDCの研究者は述べている。今回の空中からのワクチン投下も、そうした状況を考えての対策だろう。ちなみに、日本語では「狂犬病」と呼ばれるために誤解される場合があるが、この病気は犬や人間だけでなく野生動物や畜産動物を含むすべての哺乳類が感染する「人畜共通感染症」である。

日本の狂犬病対策は十分なのか?

前述の小澤博士は、OIE名誉顧問としての立場で「世界の野生動物狂犬病の現状と日本の対応策」という提言を2013年に発表している。その中で、「犬へのワクチン接種ばかりを強調しても狂犬病の発症リスクは否定できない」としている。

「日本の狂犬病対策は長年、人犬猫の都市型の狂犬病対策が主体であった。しかし野生動物主体の狂犬病は森林型で、その制圧の方法は都市型のそれとは全く異なる」

昭和25年とは大きく異なる実情に即した予防法

発症した場合の致死率がほぼ100%である人畜共通感染症である狂犬病について、REANIMALでは繰り返しその予防の大切さを強調している。同時に、70年以上前に定められた「狂犬病予防法(昭和二十五年法律第二百四十七号)」を、その効果、効率および現代の動物福祉の観点から見直す必要性も訴えている。

「日本にも狂犬病がまん延していた時代がありました」とする厚労省のポスター「日本にも狂犬病がまん延していた時代がありました」とする厚労省のポスター

昭和25年とは私たちの周りで生活する動物たちの状況や、動物福祉に関する考え方も大きく変化している。また、そうした状況は地域によっても異なるだろう。例えば、都市部で野犬を見かけることは稀な一方、管理されていない猫は少なくない。地域によっては、キツネやアライグマに遭遇する機会も多いだろう。

「狂犬病」はネコやその他すべてのほ乳類が感染する「狂犬病」はネコやその他すべてのほ乳類が感染する

人間の安全はもちろんだが、犬たちの健康と命、福祉を守るためにも日本の狂犬病予防法については引き続き考えたい。犬に限定した、例外のない1年に1度のワクチン接種が本当に適切なのか、様々な角度から検証していく。

《石川徹》

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