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【働く犬】盲導犬編 vol.4…最大の課題は同伴拒否、見かけた時に気をつけることは?[インタビュー]

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これまで3回にわたって、盲導犬の仕事や性格、育成方法などについて紹介した。常にその根本にあるのは、「1頭1頭みんな違っていい」、という個性を尊重する姿勢だ。今回は、大切に育成され、慎重にマッチングされた盲導犬とユーザーが実際に生活するにあたり直面している課題について、日本盲導犬協会の山本ありさ氏に聞いた。

一番の問題は、依然、同伴拒否

----:今回は、実際に盲導犬が活躍するシーンについてお話を聞かせてください。現在は法律で、どんな場所でも同伴ができるよう認められています*。一方で、現実的には同伴での入店を断られるケースもあると聞きます。

山本ありさ氏(以下敬称略):ありますね。ユーザーが盲導犬を連れて外出した際、(公共施設や飲食店などに)受け入れを拒否されてしまうケースはまだ多いんです。2002年に「身体障害者補助犬法」ができたので、それ以前に比べれば改善していますが…。ただ、私たちは、そうした法律の「ある・なし」に関わらず、盲導犬に関する理解がまだまだ十分でないと感じています。盲導犬の必要性や安全性など、正しい情報が社会全体に浸透していないのだと思います。

----:実際、拒否にあうケースはどのくらいあるのでしょうか?

山本:毎年、ユーザーの方々を対象にアンケートを取っています。回答を見ると、2020年度の結果は41%の方が、コロナ禍で外出頻度が減ったにもかかわらず、拒否にあったという結果でした。ユーザーからは、「入店できたもののテラス席にしか案内してもらえず寒い思いをした」「お店は利用できたものの、入店時に確認のために長く待たされて嫌な思いをした」というような話もあり、まだまだ受け入れに関して理解が足りないと感じます。

----:いまだに一番大きな問題は同伴拒否なのですね。

山本:そうですね。ユーザーは、「自由に外に出かけたい!」と思って盲導犬と歩く訓練を受け、一緒に生活を始めます。でも、出かけた先でそういうことが続くと、せっかく外に出かけられるようになったのに、出かけたくなくなってしまします。盲導犬がいることで、行ける場所が制限されてしまっては本末転倒です。あってはならないことだと思います。

----:山本さんは今、日本盲導犬協会の広報として活動されています。同伴拒否を減らしていくためには、広報活動も重要ですね。

山本:はい。色々な活動に取り組んでいます。コロナ禍以前には、街頭でのデモンストレーションや募金活動、接客業等の企業様へうかがいセミナーなども行っていました。コロナ禍以降は、飲食店や商業施設、宿泊施設などを対象にした業種別などのオンラインセミナーを始めました。(施設を運営している)みなさんも(盲導犬の受け入れに対して)不安なんだと思います。ありがたいことに、たくさんの方にご参加いただいています。コロナ禍により、以前のような訪問での活動がなかなか行えません。でも、オンラインセミナーは遠方の方も気軽に参加できることから、大変ご好評をいただいています。今後も続けていく予定です。

盲導犬を見たら、気を引かないで見守って

----:ユーザーにとっては、同伴拒否が大きな問題ということですが、盲導犬の目線というか、犬のためにはこうしてください、ということはありますか?

山本:触らないことと、声を掛けないことをお願いします。それから、目をじっと見つめること、食べ物を与えることはしないでください。犬とユーザーに危険が及ぶリスクがあるので、犬の気を引かないでいただければと思います。

先日もお話ししましたが、人が大好きな犬たちが盲導犬になります。教育の中でも、人のことが好きになるように育てます。そんな犬たちですから、見つめられたり触られたりすると、そちらが気になって集中できなくなることがあります。状況によっては、気を引く行動をしたために盲導犬が動いてしまい、犬とユーザー両方がケガを負ってしまうことがあるかも知れません。「ふたり(盲導犬とユーザー)」を守るために、気を引かないでください。

----:盲導犬はみんな、何があってもじっと我慢するイメージがありますが、必ずしもそうではないのですね。声を掛けると、喜んで駆け寄って来ることもあり得ると…。

山本:そうなんです。実は、我慢できない時もあります(笑)ただ、それも性格によります。中にはあまり気にしない子もいます。お父さんやお母さん(=ユーザー)に褒められればいいという犬もいます。

一声かける大切さ

----:盲導犬のイメージと現実のギャップ。意外でしたが、少し安心した気もします(笑) さて、ずっと犬たちのことをうかがってきましたが、ユーザーについても少し聞かせてください。盲導犬を連れた方や白杖を持った方を見かけた場合、何かお手伝いをするべきなのでしょうか?

山本:一声かけてください。白杖をもった方や盲導犬を連れた方が横断歩道を渡ろうとしていたら、「盲導犬と一緒の方、青ですよ」と教えてください。シンプルにそれで十分ですし、目の見えない方・見えにくい方にとってはとても助かります。

----:盲導犬が信号機を見て判断することはできませんからね。

山本:はい。信号機の色を見分けて横断できるかどうかの判断は犬にはできません。道路を横断する時は、盲導犬を連れた方も白杖を持った方も、ご自身が周囲の音を聞いて判断します。ユーザーにお話を聞くと、実際には「一か八か」で渡っているそうです。

----:そのほかには?

山本:以前お話ししましたが、盲導犬は道案内ができません。道を覚えるのはユーザーです。でも、通い慣れた道でも迷うことがあります。例えば、途中に工事中の場所があって迂回した場合には、経路が変わってしまいます。盲導犬を連れた方や白杖を持った方が同じところを行ったり来たりしているとか、逆に立ち止まっていたりなど、困っていそうなときは是非、積極的に声を掛けて頂きたいと思います。

----:どんな風にお声がけすればよいでしょうか?

山本:交差点であれば「青ですよ」とか、困っているようでしたら「盲導犬をお連れの方、お手伝いしましょうか?」とか、簡単で結構です。腕をつかんだり肩を叩いたりすると驚いてしまうこともあります。まず、普通に声を掛けてください。


「ダイバーシティ(= 多様化)」が世界中で叫ばれる現代だが、盲導犬の最大の課題がいまだに同伴拒否というのは大きな社会問題だろう。とはいえ、それは主に「知られていない」ことに原因があるようだ。コロナ禍という困難な環境下でも、日本盲導犬協会はオンラインセミナーをはじめ積極的な情報発信を行い、理解向上に取り組んでいる。

最終回の次回は、盲導犬について私たちが改めて理解すべきことについて議論する。そのうえで、日本盲導犬協会が考える、理想的な社会について聞く。

山本ありさ:公益財団法人日本盲導犬協会・神奈川訓練センター 広報コミュニケーション部 普及推進担当

小学生の頃に「盲導犬クイールの一生」という本を読んだことをきっかけに盲導犬に興味を持つ。高校卒業とともに盲導犬訓練士を目指し、日本盲導犬協会付設盲導犬訓練士学校へ入学。在学中に普及推進活動に触れ、盲導犬ユーザーと盲導犬にとってより暮らしやすい社会作りに大切な活動であることを感じ現職を希望。現在はコロナ禍の影響もあり、SNSなどを活用した普及推進活動の可能性を模索しながら啓発活動を行う。

* 参考記事:【働く犬たち】盲導犬、介助犬、聴導犬に関する「身体障害者補助犬法」とは?

《石川徹》

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