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食物アレルギーをもつ犬はワクチン接種に注意、乳成分の「カゼイン」が副反応の原因に…麻布大らが発表

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犬のアレルギー反応に関する最新の研究結果を、麻布大学らの研究チームが発表した*。牛乳に含まれるたんぱく質である「カゼイン」が、アレルギー症状の一因となることが分かった。この成分は犬用のワクチンに含まれることもある。牛乳にアレルギーをもつ犬の場合、ワクチン接種によってもアナフィラキシー症状など副反応のリスクが考えられるとしている。

食物アレルギーとワクチン副反応との関係

牛乳を含む食物アレルギーは、食べ物に含まれるたんぱく質を異物と認識した免疫機能が、過剰反応を起こすことで生じる。原因となるたんぱく質が含まれているワクチンを使用した場合、予防接種がアレルギー反応の引き金になることもある。人用ワクチンでは、安定剤として使用されていたゼラチンが接種後のアナフィラキシー症状を引き起こす大きな要因の1つと判明した。

牛や豚を原材料に作られるゼラチンは、アレルギー物質を含む食品として厚生労働省が「特定原材料」に指定している。麻布大学らのチームによれば、人の場合はゼラチンを使用しないワクチンの開発によって副反応事例が激減したそうだ。一方、犬用のワクチンには有害反応の原因となり得る成分が非常に多く含まれており、リスクも高いとしている。

カゼインが原因の牛乳アレルギー

人の場合、ゼラチン以外にもワクチンアレルギーを引き起こす物質がある。牛乳アレルギーのある子どもに、カゼインを含む薬剤を注射した場合に症状が現れることが知られている。乳製品メーカーによれば、カゼインは牛乳に含まれる全たんぱく質の80%を占めるそうだ。犬の場合も、食物アレルギーのある個体の約30%が牛乳に反応していると言われる。そこで研究チームは、犬用ワクチンに安定剤として使われる、牛乳由来のカゼイン加水分解物が接種後に起こるアレルギー反応要因の1つと考えた。

食物アレルギーをもつ犬が牛乳成分に反応

食物が原因で皮膚にアレルギー症状が現れた犬112頭から採血し、牛乳に含まれるたんぱく質であるカゼイン、ウシ血清アルブミン(BSA)、αラクトアルブミン、βラクトアルブミン、およびウシIgGという物質に対する抗体反応を調べた。その結果、全体の約3割にあたる33頭に反応が認められた。中でもカゼインへの反応が81%、BSAには85%と高いレベルで見られ、この2つがアレルギーを引き起こす主な物質(= アレルゲン)として働いていることが分かった。(なお、ほかの3つの成分については、αラクトアルブミン39%、βラクトアルブミン27%、ウシIgG 39%という結果だった)

ワクチンに含まれるカゼインもアレルギーの要因

さらに、牛乳のカゼインに対して強い反応を見せた5頭の血清をプールして、ワクチンに含まれるカゼインにどう反応するかを調べた。パルボウイルス、ジステンパーウイルス、アデノウイルス2型およびパラインフルエンザウイルスに対応する生ワクチンを組み合わせたものと、これにレプトスピラ菌に対応する不活化ワクチンを加えた混合ワクチン4種類が使用された。その結果、カゼインを含む2種類のワクチンにのみ反応が認められたとしている。このことから、牛乳アレルギーの原因となるカゼインは、ワクチンに含まれている場合にもアレルゲンとして作用する可能性が高いことが分かった。

ワクチン接種前にアレルギー既往歴の相談を

この結果を踏まえ、犬用ワクチンにはカゼイン加水分解物の使用を中止し他の安定剤を使うべきだと研究チームは提言する。また臨床現場では、カゼインを含むワクチンの接種前に牛乳アレルギーの既往歴に獣医師が特に注意すべきとしている。飼い主は、ワクチン接種の前に愛犬のアレルギーについて獣医師に申し出ることが、健康被害の予防につながるだろう。

(* IgE reactivity to milk components in dogs with cutaneous adverse food reactions:Masahiro SAKAGUCHI 他、The Journal of Veterinary Medical Science、2021)

《石川徹》

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