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【働く犬たち】警察犬編…鋭い嗅覚を生かし捜査現場で活躍[インタビュー]

警察犬のウグラ号
  • 警察犬のウグラ号
  • 警察犬のウグラ号
  • 足跡追及訓練のデモンストレーション
  • 服従訓練のデモンストレーション
  • 大切にしているのは「絶対的な愛情をもって接し、犬に喜びを与えること」だという
  • 写真中央の白いポール付近に担当者のにおいのついた軍手が隠された
  • においを覚えて足跡追及訓練開始
  • 担当者の歩いたルートをしっかりと辿っていく

人間は、古くから様々な場面で動物たちの持つ能力に頼ってきた。特に最も身近な動物といえる犬たちは、牧羊犬や猟犬などとして専門的な仕事をしてくれる。今回はそうした「働く犬」の中から、テレビなどでは比較的なじみのある警察犬を紹介する。東京都板橋区にある警視庁の警察犬第一訓練所で、刑事部鑑識課の警察犬担当者に話を聞いた。

においによる捜査が一番多い仕事

-----:改めて警察犬の仕事を教えてください。

警察犬係担当者(以下、担当者):警察犬の主な仕事は、事件現場に行き、そこに残された物(=遺留品)のにおいを嗅いで犯人や行方不明者を探すことです。一般向けのイベントにも参加して、警察犬の仕事を色々な方にご紹介する広報活動も行います。

-----:においを嗅いで探すというシーンはテレビでも見ますね。あのイメージですか?

担当者:そうです。「足跡追求(そくせきついきゅう)」と言いますが、その仕事がメインです。犯人や行方不明者など、探す対象となる人間の「個人臭気」、つまり、においを頼りに探します。

担当者の歩いたルートをしっかりと辿っていく担当者の歩いたルートをしっかりと辿っていく

-----:その他にも活躍する場面はありますか?

担当者:「臭気選別」という仕事もあります。犯人が逃走後に逮捕された際、現場に残された「遺留物」のにおいを警察犬に嗅がせて犯人のものかどうかを選別します。

普段の生活はメリハリをもって

-----:出動しない時は何をして過ごすのですか?

担当者:毎日、事件に備えて常に訓練を行っています。

-----:お休みの日はないのですか?

担当者:警察犬は1人1頭と(ペアが)決まっているので、担当者が休みの日は警察犬も休日で訓練もありません。

-----:警察犬の「勤務時間」も、警察官である担当者の方と同じですね?

担当者:そうです。4班で交代勤務をするので、私が夜の勤務の場合は夜の訓練も行います。

-----:事件のない時はずっと訓練というのは厳しいですね…。

担当者:もちろん遊ぶ時も休憩時間もあります。人間と同じで、切り替えは必要です。訓練の合間には、ボールなど好きなおもちゃを使って遊びます。しばらく休憩して訓練を再開する時には、またスイッチを切り替えます。そうしたサイクルを1日の中で何度も繰り返します。訓練は短時間に集中して行うなど、メリハリが大切です。

休憩や遊びもメリハリをつけて行う休憩や遊びもメリハリをつけて行う

犬種ではなく1頭1頭の違い

-----:警察犬に適しているのはどのような犬でしょうか。

担当者:一概に「この犬(種)が良い」というのはありません。でも、人に従順で作業意欲が旺盛な点で、シェパードとラブラドール(レトリーバー)が警察犬になることが多いですね。人間と一緒に仕事をするので、人懐っこさも大切です。あとは、粘り強い性格の犬が向いていると思います。

-----:その2犬種で違いは感じますか?

担当者:私の経験では、犬種で特に大きな違いがあるとは感じません。1頭1頭、どの犬も違います。日頃からよく見て、「この犬にはこうした方が良い」などと判断するのが大切だと思います。

訓練に大切なのは褒めること

-----:犬たちは、どこから来るのですか?

担当者:民間の訓練所で生まれます。犬を私たちが見に行き、人懐っこさや作業意欲など、すべてを慎重に検討して購入します。それが1歳前後の時です。警察犬訓練所に来ると担当者が1名決められ、「服従訓練」を経て「足跡追求」「臭気選別」「薬物捜索」といった警察犬としての訓練に入っていきます。

-----:訓練期間はどのくらいですか?

担当者:犬によっても少し違いますが、概ね1年から1年半です。

-----:「服従訓練」というのは、具体的にはどのようなことをするのですか?

担当者:指示に従うことを教えます。例えば、「座れ」とか「伏せ」「立って待て」などの基本的な動作を繰り返して教えます。

服従訓練のデモンストレーション服従訓練のデモンストレーション

-----:家庭犬の「しつけ」と同様に、担当者と犬との基本的な関係構築というイメージですね。その後の訓練が、「足跡追求」など警察犬としてのお仕事を練習する内容ですね。訓練する際に注意しているのはどんなことですか?

担当者:うまくできた時には、たくさん褒めてあげることです。それで犬は「今のでいいんだ!」と理解します。犬も失敗すると落ち込むことがあるので、常に成功して終わることも大切です。すぐにできた時は、数分でも訓練を一旦切り上げる場合もあります。短時間で動作を教え、休憩や遊びも含めメリハリをつけて教えます。

それから、タイミングも大切です。言葉は通じないので、できるだけ分かりやすく褒めながら、好きなボールを与えて遊ぶようにしています。間違った時はタイミングをしっかりつかんで表情を変え、「違う」と明確に伝えることを意識しています。

-----:「常に訓練している」というのは、短時間の集中とその後のリラックスを何度も繰り返す、という意味ですね。

担当者:そうです。例えば「座れ」ができたら褒めて(訓練を一旦)終わり、遊んだりケージに戻って休憩したりします。次の訓練では「立て」を教えます。それもできるようになったら、「座れ」と「立て」を1つの動作として覚えさせるというステップで訓練していきます。それが積み重なって、足跡追求などの作業もできるようになっていきます。

犬をよく見て理解する

-----:訓練において、難しさを感じる部分は?

担当者:やはり言葉をしゃべらないことですね。話はできないので、「今どう思っているのか」を表情やしぐさ、尻尾の動きなどから判断する必要があります。よく見ることで、「今は緊張しているな」など犬の状態を理解します。その日の動きから、体調の良し悪しも判断する必要があります。担当者が自分の犬をよく見て状態を把握し、訓練を進めることが重要です。

-----:1歳くらいで訓練所に来て1年の訓練ということは、だいたい2歳前後で警察犬としてデビューするわけですね。何歳になったら引退するのですか?

担当者:年齢の決まりはありません。「現場での活動が難しくなったな」と感じたら、引退して訓練所で余生をゆっくり過ごします。

絶対的な愛情の大切さ

-----:訓練以外も含め犬と向き合う上で大切にしていることはありますか?

担当者:絶対的な愛情をもって接することです。そして、喜びを与えることで、犬が楽しく作業できるように気遣っています。犬が楽しいと感じてくれれば、自ら進んで作業してくれます。それが、仕事の成果にもつながるわけですから。

-----:警察犬係が今後目指すのはどのような姿でしょうか?

担当者:犬たちには、とても大きな可能性があります。その能力を最大限に引き出してあげたいと思います。それが犬たちの幸せにつながります。その結果、警察に対する国民の期待にもより応えられると思います。

-----:警察犬たちの活躍が社会の安全を支えている部分も多いと思います。引き続きよろしくお願いいたします。

大切にしているのは「絶対的な愛情をもって接し、犬に喜びを与えること」だという大切にしているのは「絶対的な愛情をもって接し、犬に喜びを与えること」だという

警視庁では、現在34頭の警察犬(直轄犬*)が活躍している。その犬たちは、それぞれの「個性を尊重しながら褒める」という教育方針で訓練を受ける。警察犬としてのデビュー以降も、楽しく仕事することに配慮された環境で毎日を過ごしているという。彼ら・彼女らは、一番の理解者とも言えるそれぞれの担当者と二人三脚(?)で、メリハリのある犬生を送っていた。

警察犬のウグラ号警察犬のウグラ号

ウグラ号:
この日デモンストレーションを見せてくれたのは4歳のジャーマン・シェパード「ウグラ号」(メス)。少しおとなしい性格のため、担当者は楽しく喜びを感じさせることに気遣っているという。小柄で穏やかな顔つきからは、頭の良さと優しさが感じられた。

* 都道府県の警察が飼育・訓練を行う警察犬は「直轄犬」と呼ばれる。民間で飼われている犬で、警察による審査に合格した犬は「嘱託警察犬」として、警察からの要請で出動する場合がある
《石川徹》

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