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動物病院で保護猫と触れ合う…ネコリパブリックのユニークな取り組み

キャットプラザ with ネコリパブリック 西葛西
  • キャットプラザ with ネコリパブリック 西葛西
  • 保護猫の「茶々」
  • キャットプラザ with ネコリパブリック 西葛西
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  • ネコリパブリック 東京統括マネージャー 内川絢子氏
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コロナ禍以降、ペットを迎える世帯が増えているという。日本では特に猫の人気が高い。2014年に犬を逆転して以来、「総飼育頭数」は増加を続けている。2021年に全国で飼われている猫は894万6000匹にのぼり、減少傾向にある犬の710万6000頭よりも多い*。

その一方で、自治体が運営するいわゆる動物愛護センターに収容される猫も少なくない。環境省の発表によると、2020年度には全国で4万4798匹の猫を受け入れており、犬のおよそ1.6倍にあたる。同時に、自治体や保護団体などの努力によって譲渡も進んでおり、令和2年では半数以上(約57%)が新しい飼い主に迎えられている。

「自走型」の事業で猫の保護に取り組む

飼い主のいない猫の保護や里親探しでは、NPO法人(特定非営利活動法人)やボランティアによるものが一般的だが、ユニークな取り組みを行っている企業がある。株式会社ネコリパブリック(通称ネコリパ)は、保護猫カフェ「NECOREPUBLIC」の運営や譲渡会の実施を行っている。そのほか、猫関連グッズの企画・販売やアパレルショップの展開、出版やイベントなどの事業にも取り組む。

コンセプトは、「自走型保護猫カフェ」。ビジネスとして“自走”(=自立)しながら、得られた利益を「猫助け」につなげていくのが同社の方針だ。現在、東京、大阪、岐阜、広島にて合計6か所のNECOREPUBLICを運営している。

猫に優しい動物病院とのコラボ

保護猫の譲渡については、新しい取り組みも行っている。東京都と千葉県に5か所の動物病院をもつ苅谷動物病院グループと提携し、「キャットプラザ with ネコリパブリック 西葛西」(CAT PLAZA with NECO REPUBLIC、以下キャットプラザ)を共同運営。キャットプラザのある葛西橋通り病院は、「キャット・フレンドリー・クリニック(CFC)」ゴールド認定を取得するなど、猫に優しい施設づくりに努めている。待合室だけでなく、入院スペースも犬と完全に分けているほか、室温設定や防音にも配慮して、猫が安心できる環境を作っている。

体調不良時には獣医師による診察・治療がすぐに受けられるのは、保護猫たちにとってもネコリパのスタッフにとっても望ましい環境だ。これまで、目ヤニが出たり脱毛してしまったりした保護猫がいたそうだが、迅速な治療のお陰で大きな問題には発展しなかった。

キャットプラザ with ネコリパブリック 西葛西キャットプラザ with ネコリパブリック 西葛西

「大人猫」の譲渡

キャットプラザは保護猫との触れ合いや譲渡促進に加え、「保護猫を家族として迎える文化」を培う場としても活用されており、これまで19匹を新しい家族のもとに送り出してきた。ネコリパで東京統括マネージャーを務める内川絢子氏は、「まだ数は少ないので、御茶ノ水店など他の店舗とも協力して譲渡を進めたい」と語る。

ネコリパブリック 東京統括マネージャー 内川絢子氏ネコリパブリック 東京統括マネージャー 内川絢子氏

ネコリパが譲渡するのは、不妊去勢手術を済ませた「大人猫」ばかりだという。子猫には里親が決まりやすいが、成猫の場合は1年以上にわたって飼い主が見つからない場合も多いそうだ。内川氏によれば、「子猫は譲渡会でも緊張せずに普段の姿を見せてくれるので、“可愛い!” とお迎えが決まることが多い」という。一方、成長した猫は慣れない環境では普段の様子を見せることができないらしい。キャットプラザでは、伸び伸びと生活している普段の環境で「その子の本来の良さ」を見てもらうことで譲渡につなげたいとしている。

出会いから面談、トライアルを経て譲渡に

キャットプラザでは、500円以上の「寄付」で猫たちと30分間触れ合うことができる(電話での事前予約が必要)。気に入った猫がいれば、スタッフと相談の上、「里親希望アンケート」に記入して面談を申し込む。面談までに住居の間取り図などを送付し、ネコリパ側で脱走防止策など家庭ごとに必要な準備に関する提案を作成する。面談後、審査にパスすると2週間のトライアルを経て正式譲渡となる。

トライアル中に問題が生じた場合、猫はネコリパに戻って新たな里親を探すことになる。しかし、そうしたケースは100匹に1匹程度だと言う。

マッチングの重要性

「猫にとって生活の場所が変わるのは、大きなストレスになります。それが原因で病気になったり、場合によっては死んでしまったりすることもあります。細心の注意を払って、(里親候補と)慎重に話し合いを行います」と内川氏は言う。里親候補が抱くイメージに猫の性格が合わないと思われるケースでは、希望とは違う猫を勧めることがある。猫を迎える環境にないと判断した場合は、トライアルそのものを断ることもあるという。

また、猫は犬よりも飼いやすいイメージを持たれる傾向もあるそうだ。「里親希望者の半分くらいは、猫のことをよくご存じない方々です。飼ったことのある方でも、“うちの猫”のことしか知らないなど、(経験値には)差があります。夜中に走り回ったり、爪とぎをしたり、下痢や嘔吐で部屋を汚すこともあるなど、簡単ではないということも十分説明しています」(内川氏)。

そうしたきめ細かい説明や情報開示、里親候補へのヒアリングを基にした慎重なマッチングが高い譲渡成功率のカギと言える。

猫も人も幸せに

キャットプラザで生活する猫たちは、おやつをもらったり、おもちゃで遊んだり、人との触れ合いを経験しながら、譲渡にあたって必要な人馴れを、無理なく進めることができる。また、キャットプラザを含めたネコリパの保護猫カフェでは、オリジナル商品など様々な猫グッズの販売も行う。収益は猫たちの医療や食事、施設の運営などに活用される。

オリジナル商品など様々な猫グッズを購入することでも、保護猫支援ができるオリジナル商品など様々な猫グッズを購入することでも、保護猫支援ができる

猫は好きでも住宅事情などで迎えることができない家庭も少なくないだろう。ネコリパのやり方は、様々な形で猫助けができる仕組みになっている。特にキャットプラザは子供のいる家庭が多い地域にある。「家で飼えないから、ここで触れ合って猫の可愛さや命の大切さを子供に教えたい」という親が多いそうだ。また、特定の猫を目的に訪れるリピーターもいて、地域の憩いの場にもなっている。

室内飼育の大切さ

キャットプラザで暮らせるのは、最大6匹まで。現在暮らしている4匹のうち、「茶々」(推定7歳のメス)は3年前の台風による多摩川の増水直前に保護された。猫の場合、そうした自然災害や交通事故で死亡するケースも多い。NPO法人「人と動物の共生センター」は独自の調査を行い、2019年には全国で28万9572頭の猫が路上で死亡したと推計している。

保護猫の「茶々」保護猫の「茶々」

内川氏も、「外の世界は危険しかありません。“ロードキル”(路上での死亡)は殺処分の10倍以上というデータもあります。また、撒かれた毒餌を食べたり、虐待を受けたりして死ぬ猫も少なくありません」と話す。ネコリパでは、猫の完全屋内飼いの重要性についても啓発活動を行っている。

地域との連携プロジェクトも進行中

このほか、保護猫の不妊去勢手術を専門に行う動物病院を間もなく大阪に開設する。本店のある岐阜でも、同様の施設が計画されている。ふるさと納税を活用し、空き家に病院やシェルターの整備を進めるプロジェクトも、飛騨市と共同で進められている。また、高齢者に保護猫を預かってもらい、スタッフが定期的に訪問する取り組みも予定されている。「高齢者ネコシェアリング及びネココミュニティー事業」と呼ぶユニークな試みは、高齢者の見守りにもつながるメリットがある。

葛西橋通り病院の榎本拓也院長によると、病院の待合室からガラス越しにキャットプラザの中が見えるので、診察に訪れたペットオーナーからは「猫がこちらを見つめてくる姿を見て癒やされる」といった声が聞かれるそうだ。また、保護猫を迎えるプロセスをよく尋ねられるそうで、猫の里親探しに対する関心の高まりにも貢献している。

キャットプラザ with ネコリパブリック 西葛西キャットプラザ with ネコリパブリック 西葛西* 「令和3年 全国犬猫飼育実態調査」(一般社団法人ペットフード協会)
《石川徹》

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