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【働く犬たち】警備犬編…犯人制圧や災害救助など幅広い任務をこなす[インタビュー]

警視庁警備犬のウィル号と小野星一巡査部長
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  • 爆発物の捜索の訓練
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人間が動物たちの能力に頼る場面は少なくない。中でも身近な存在の犬たちは、使役犬として非常に専門的な仕事をしてくれる。今回はそうした働く犬たちの中から、「警備犬」を紹介する。警視庁警備部の訓練施設で、警備犬のハンドラーを務める小野星一巡査部長に話を聞いた。

警視庁では、一般に警察犬と呼ばれる犬は刑事部鑑識課に所属している。においで犯人や行方不明者を探す「足跡(そくせき)追求」などの捜査を主な任務としており、部署や任務が警備犬とは異なる。

爆発物の捜索や犯人制圧、災害救助など多分野で活躍

----:警備犬の仕事を教えてください。

小野星一巡査部長(以下、敬称略):主な任務は、爆発物の捜索や凶悪犯人の制圧です。また、災害が発生した時には、現場で不明者の捜索や救助も行います。

爆発物の捜索の訓練爆発物の捜索の訓練

----:災害現場で活躍するのも警備犬なのですね。具体的には、どんなことをするのですか?

小野:瓦礫(がれき)や土砂などに埋もれた被災者を捜索します。1頭が反応した場合、別の救助犬でも確認し、レスキューチームに引き継ぐまでが私たちの仕事です。

災害救助訓練災害救助訓練

----:訓練では鈴が鳴っていましたが。

小野:災害救助犬として活動する場合は、鈴が付いた首輪を着けます。その音で、「今は人を探して見つけると褒めてもらえる」と犬が理解します。訓練でも、鈴によって「これから、救助の練習をするよ」と伝えることができます。すると、犬もモードを切り替えます。現場では、鈴の音で犬がどこにいるのかが分かるようにという目的もあります。

2004年に発生した新潟中越地震の際の災害救助活動2004年に発生した新潟中越地震の際の災害救助活動

短時間でメリハリのある訓練

----:訓練は毎日行うのですか? 1日のスケジュールを教えてください。

小野:毎日訓練して、要請があればすぐ任務につけるよう準備しています。朝は6時に排便させた後、「座れ」や「待て」といった基本的な服従訓練を行います。それから爆発物の捜索、訓練士が腕に着けたプロテクターを噛む制圧訓練、災害救助訓練など一通りこなします。11時にお昼ご飯を食べて十分に休んだ後、また訓練です。17時に夜のご飯を食べるというのが1日のスケジュールです。

制圧訓練制圧訓練

----:1日どのくらいの時間をかけるのでしょうか。

小野:時間帯としては朝1時間と、午前・午後に2時間ずつです。合計5時間ですが、その間に1回10分から15分ほどの訓練をして、一旦それぞれの犬舎に戻ります。犬の集中力を見ながら短時間で行い、その積み重ねで練習します。

----:それ以外の時間は何をしているのですか?

小野:訓練や休憩時間以外は、山岳救助の依頼や爆破予告があった時に出動できるよう、それぞれの犬舎で待機しています。

----:山岳救助というと、遭難者を探す仕事ですか?

小野:警備犬は、山で遭難した人の捜索も行います。東京には奥多摩地域などに山もあります。登山者の遭難や滑落事故などに出動要請が来ることもあります。

警備犬は意欲旺盛で体の丈夫な犬

----:幅広い任務を担う警備犬ですが、どんな犬が向いているのでしょう?

小野:身体強健で意欲旺盛な犬です。気持ちが弱い犬だと、例えばトンネルをくぐらせたい時に躊躇(ちゅうちょ)することがあります。

----:意欲旺盛というのは、現場に出たら迷いなく進むようなイメージですか?

小野:そうです。でも、犬それぞれに得意不得意はあります。自分が担当している犬をよく理解して、得意な面を生かしながら現場に出られるように訓練するのも我々の仕事です。

----:それから身体強健。やはり、体は大きい方が向いているのですね?

小野:体力も必要ですが、(テロ対策など)警備の現場に出ることがあるので、シェパードの“ある程度の”威圧感も必要です。ラブラドール(レトリーバー)も鼻が良いので警備犬になりますが、災害救助や爆発物捜索が主な仕事で犯人制圧は行いません。

警視庁警備犬のウィル号警視庁警備犬のウィル号

1頭1頭に合わせた訓練

----:そうした犬たちは、どこから来るのですか?

小野:1歳から2歳の時に民間の訓練所から購入します。関係性構築のための服従訓練から始まって、爆発物の捜索や災害救助、犯人制圧などの訓練を行います。警察内部の検定に合格すると、警備犬として現場に出ます。

----:訓練マニュアルはあるのでしょうか。

小野:特にマニュアルはありません。大まかに、「最初の1ヶ月でこれをやって、次の1ヶ月でこれ」という流れは決まっていますが、犬によって訓練の進み具合が早かったり遅かったりします。それぞれの担当者が自分の犬を見ながら進めていきます。犬によって違いますが、半年ほどかけて訓練します。

----:犬の個性や担当者との関係性に応じて、柔軟に進めていくわけですね。

小野:そうです。(訓練がうまくいくかどうかは)犬よりも、担当者の能力の方が重要だと思います。きちんと理解しているか、喜んでいるかなど、犬の状態を正確に見極めることが大切です。そうした管理面での能力を、私たちが磨く必要を感じます。

----:特に難しいのはどのような点でしょうか?

小野:言葉が通じないので、細かな意図を伝えるのが難しいと感じます。訓練では、タイミングを大切にしています。失敗した時には、タイミングを逸することなく、分かりやすく叱ります。うまくいったときも、同じように的確に褒めるようにしています。

----:先ほど見せていただいた訓練では、うまくいった後の楽しげな様子が印象的でした。

小野:指示に従ったら、褒められる。楽しいから訓練する、と感じさせることが大切です。我々にとっては「訓練」ですが、犬にとっては遊びの延長のイメージでやっています。担当者が犬舎に行くと、犬が喜んでくれる関係性を大切にしています。

----:感情のある生き物ですから、関係性は大切ですね。犬との関係を築く上で、大切にしていることは?

小野:一緒に過ごす時間です。大型犬の1年は、人間の7年に相当すると言われています。できるだけ一緒にいる時間を大切にしています。実は、休みの日にも会いに来ることがあります…。それと、愛情ですね。

犬にとっては遊びの延長のイメージ犬にとっては遊びの延長のイメージ

絶対的な愛情に基づいた信頼関係

----:シェパードとラブラドールを担当されていますが、2頭に違いはありますか?

小野:あります! シェパードは、「やれ」と言えばしっかりこなします。ラブラドールは、別のことに興味があると気が散る傾向があります。注意を引きながら、"褒めておだてる"のがラブラドールです。シェパードは、おだててしまうと収拾がつかなくなってしまう恐れもあります。いけないことは「いけない!」と毅然(きぜん)と指示をしながら、ある程度の上下関係を作ることも必要です。

----:犬種による傾向もありますか?

小野:シェパードとラブラドールには違いを感じます。ラブラドールを担当した当初は少し戸惑いました。シェパードと同じ感覚で接すると、「もうやだ~」という態度を取られたことがあったので、褒めることを増やしました。1叱ったら9褒めるイメージです。

----:ご担当の「ウィル号」(シェパード)と「タック号」(ラブラドール)もそんな感じですか?

小野:ウィルは優しくて従順な性格です。タックはラブラドールらしく天真爛漫(らんまん)です。今お話ししたようなイメージで、接し方は変えています。

----:性格に合わせた接し方というのは、すべてのコミュニケーションで大切かもしれませんね。とはいえ、付き合う姿勢というものは共通しているのではないでしょうか? ウィル号とタック号との付き合いで意識していることはありますか?

小野:絶対的な愛情をもって接しています。そこから信頼関係が生まれるので、いい仕事をするためにはもちろん、お互いが気持ちよく生活するためにも、愛情が一番大切ではないでしょうか。

ラブラドールのタック号とシェパードのウィル号ラブラドールのタック号とシェパードのウィル号


犬も人間も同じ生き物で、それぞれに個性や得意不得意がある。警備犬のハンドラーは、1頭1頭異なる特性に合わせた柔軟で適切なコミュニケーションに努めている。それが、仕事はもちろん日常生活においても、お互いが気持ちよく過ごすために大切だという。「絶対的な愛情をベースに、相手に合わせた分かりやすいコミュニケーション」という警備犬に対するハンドラーのスタンスは、家庭犬との付き合いにおいても参考になるだろう。

小野星一:警視庁警備部警備第二課 巡査部長
最初の配属は警察署だったが、犬に携わる仕事を希望して警備犬ハンドラーになる。途中、別の担当を挟んで現在は2度目の警備犬担当。現在は住居の事情で犬が飼えないため、「今ここにいる犬たちに愛情を注いでいます」と語る愛犬家。

《石川徹》

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