今月は動物に会える日本映画を集めてみました。夏から秋にかけて、動物好きならきっとキュンとくるエピソードが登場する作品が公開されます。
物語に関係あったり、直接関係はなかったり。登場する動物たちの存在理由はそれぞれですが、物語の世界観に浸るための案内役として、犬、ヤギ、イルカたちが大活躍する3作をご紹介します。いずれも素敵なお話ばかり。ぜひ楽しんでください。
『ハウ』

はじめにご紹介するのは、不思議な魅力を持った保護犬が登場する『ハウ』。とある理由からワンと鳴けなくなった犬と、ハウの飼い主となった青年との揺るぎない絆(きずな)の物語です。
物語は、婚約者に振られ、一人新居に取り残された民夫(田中圭)が、傷心の日々の中で真っ白な大型犬に出会うところから始まります。上司からの勧めで思わず引き取ることになったハウは、民夫の生活に新しい風を吹き込みます。名前の由来が、何とも悲しいのですが、ハウはいつも陽気。辛い過去にも影響されず、いつも元気で無邪気なのです。一人と一匹は最高に幸せな時間を過ごしていましたが、ある日、ハウはアクシデントによって民夫の前からいなくなってしまいます。探し回る民夫でしたが、行方がわからないまま月日は流れていくのでした。
一方、偶然のアクシデントが重なり民夫から遠く離れてしまったハウは、青森に降り立っていました。大好きな民夫の元に戻りたいと、家を目指します。途中、出会った人々の心の傷、寂しさ、孤独、後悔などを察知して寄り添うハウ。果たして、ハウと民夫は再会できるのでしょうか。
ラストは、ちょっと想定外とも言える展開に。でも、動物好きなら、民夫が出した答えには、愛と優しさが詰まっていると感じられるはず。一度生まれた絆は、いつまでも固く結ばれたままだということを教えてくれる作品です。
『川っぺりムコリッタ』

『川っぺりムコリッタ』は、北陸の小さな町にあるイカの塩辛工場で働き始めた青年・山田が主人公。社長に紹介されて住む「ハイツムコリッタ」が舞台です。秘密を抱えてここに移り住んだ山田は、なるべく人と関わらないように暮らしたいと望んでいます。ところが周囲には、毎日塩辛を求めてずかずか上がり込んでくる隣人や、ワケありげな大家さん、ときどき羽振りが良くなる墓売りの親子など、クセのある人ばかり。知らないうちに関わりが生まれてしまい…。
いわく付きの過去を持つ山田は、静かにひっそりと暮らしたいのに、隣人たちがどうしても放っておいてくれない。そんな様子は、人間は社会的な生き物で、どうしようもなくコミュニケートしてしまうものなのだと気づかせてくれます。「察する」ということが、美徳のように言われている昨今ですが、「察しない」ことが誰かを少しだけ救っていることもあるのかもしれません。「ハイツムコリッタ」に漂っているのは、いい意味で察しない無神経さ。それが、何とものどかな雰囲気を生み出しています。そこに輪をかけているのが、大家さんのヤギ。「メーエエエ」と鳴く声が、このハイツの空気を完成させているのです。演じているのは富山からやって来たヤギのあすかちゃん。ちょっと社会からはみ出してしまった人々が、つながっていく様を、唯一外から眺めている存在とも言えるでしょう。
劇中には「ご飯ってね、ひとりで食べるより誰かと食べたほうが美味しいのよ」という言葉が隣人から発せられます。(とはいえ、この隣人は山田の家の塩辛が欲しいだけなのでしょうが…) その隣人に巻き込まれるようにして、山田は住人たちと幾度となく食卓を共にし、彼の人生は変わっていくのです。それと対比を成すように、あすかちゃんは一人鳴いて、一人草を食む。その強く孤高なる様子が、人間は弱く孤独に耐えられないものであり、だからこそ美しいつながりが生まれることを強調しているような気がしてなりません。
『サバカン SABAKAN』
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最後にご紹介する『サバカン』は、少年たちのひと夏の冒険の物語です。スランプに陥っている作家の久田には、さばの味噌煮の缶詰を見ると思い出す少年がいます。1986年、長崎で暮らしていた小学5年生の彼は、ある日、クラスで嫌われている竹本に、「ブーメラン島にイルカが来た。見に行こう」と誘われます。ブーメラン島は、小学生の2人には遠すぎる目的地。それでも、「イルカに乗れるかも」と無茶な夢を抱き大興奮した久田は、親に内緒で初めての遠出を決行するのです。途中、ヤンキーとケンカをしたり、綺麗なお姉さんにサザエをご馳走になったりと、大胆な竹本のおかげで、思いもよらない初体験を重ねる久田。2人は、特別な友情で結ばれていきますが…。
人生の中で決して忘れることのできない時間を描いた青春映画です。その中で、鍵となる存在がイルカ。2人が本当の意味で知り合う機会を作ったのが、まさにイルカなのです。でも、クラスメイトとはいえ、まともに話したこともなかった久田に、竹本が声をかけたのはなぜなのでしょう。イルカが島に来たという、子供にとっては重大なニュースを、彼とだけシェアした理由は? それは劇中で明かされますが、子供ならではの繊細さが何とも切ないのです。2人が友情を育むきっかけとなった「秘密の共有」ですが、その秘密が「イルカ」だったことに、とても説得力を感じます。それは、冒険に値するほど価値のある存在。その秘密を竹本が自分だけに教えてくれたことが、久田にとってとても光栄に感じられ、友情の始まりとなったことは間違いありません。
時には主役として、時には名脇役として、3本の映画を彩ってくれる動物たち。登場する方法は様々ですが、その姿をひと目見ただけで思わず笑顔になってしまう、そんなキュンな瞬間を楽しんでください。
■『ハウ』
8月19日(金)全国ロードショー
配給:東映
©2022「ハウ」製作委員会■『川っぺりムコリッタ』
9月16日(金)全国ロードショー
配給:KADOKAWA
©2021「川っぺりムコリッタ」製作委員会■『サバカン SABAKAN』
8月19日(金)全国ロードショー
配給: キノフィルムズ
©2022 SABAKAN Film Partners