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「アートやデザインを通して、動物たちの危機に興味を持つきっかけを作りたい」…造形作家・志村リョウ氏[インタビュー]

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造形作家・志村リョウ氏
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  • 造形作家・志村リョウ氏の作品
  • 志村氏の愛猫、びわちゃん
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  • 『Kaba Crayon』(カバクレヨン )は、アッシュコンセプトのブランド「+d」の商品。売上の一部は自然環境保護に使われる。
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カバや猫、ワオキツネザル…東京郊外にある造形作家・志村リョウ氏のオフィスに足を踏み入れると、様々な素材や表現を用いて生み出された動物たちが迎えてくれた。同氏は、森林伐採・大気汚染・温暖化・密猟などによって引き起こされる「大量絶滅」をテーマとし、立体造形やプロダクトデザイン、イラストなど多岐に渡る分野で活動を行っている。これまでの道のりや作品に込められたメッセージ、今後の取り組みについて聞いた。

ネガティブなテーマをポジティブに解釈して伝える

----:志村さんは、おじいさんが洋画家でお父さんがデザイナーと伺いました。アートの道を歩むのは自然なことだったのでしょうか?

志村リョウ氏(以下敬称略):元々美術を生業としている一族だったという影響はありますね。美術以外の勉強は苦手だったので、大学進学を考えた時も美大以外の選択肢がなかったんです(笑)。当初はアニメーションに興味がありましたが、自分より絵が上手い人は大勢いるという現実を目の当たりにして、立体造形を始めました。技術としてはまだまだでしたが、立体造形だけは根気よく続けられると思った。大学3年生の頃に、これを自分の武器にしようと決めました。

----:動物をモチーフにしたり、環境問題や「大量絶滅」について考えるようになったきっかけは?

志村:大学・大学院では「サステナブルプロジェクト」を専攻していました。今でこそサステナブルについての考えや取り組みが活発になってきましたが、当時はまだ浸透していなかったと思います。環境問題を始めとする様々な社会的課題に対して学び、各々のプロジェクトとして取り組む。自分の場合はそれを、アートやデザインと組み合わせることになりました。

始めは、ただ動物が好きでひたすら作品にしていたんです。特にカバが好きで、ある時創ったものを教授に見せに行きました。すると、「カバが好きなのは結構だが、大学院なのだから好きの理由を説明できるようにした方が良いのではないか」と言われて…(笑)。それからカバについて調べてみたところ、生息地が人間によって破壊され、絶滅危惧種になっていることを知りました。カバだけでなく色々な動物が絶滅の危機にさらされていて、今後もそういう種は増えていく。この問題をアートやデザインの力を使って訴えたいと考えました。

それまで動物の“可愛い”や”キレイ”といった部分だけを作品にしていましたが、ネガティブやダークな部分も含めないと本質的な部分まで興味を持ってもらえない。また、ネガティブなテーマをネガティブに表現するのは簡単なんです。でもそれでは人々の心に残りません。いかにポジティブに解釈して作品創りに取り組むかが重要ですね。

----:志村さんの作品を代表する動物がカバですね。

志村:子供の頃よく行っていた近所の公園にカバの像があって、そのイメージが大人になっても脳裏に焼き付いている。そこで、日常生活の中にあるものの影響力にも気づきました。環境問題や「大量絶滅」といったメッセージを日常生活で使えるものに落とし込んだプロダクトがあれば、考えるきっかけになるのではないか。それを実現できたのが『Kaba Crayon』(カバクレヨン)です。大学院卒業後、僕のカバがアッシュコンセプトというデザイン会社さんの目に留まって、商品化に至りました。このクレヨンを使って絵を描いている子供たちが、将来カバや環境問題に興味を持つようになってくれたら嬉しいです。

『Kaba Crayon』(カバクレヨン )

まずは興味を持ってもらうことが重要

----:このようにプロダクトデザインをしたり、個展を開催していますが、その他にはどのような活動をされているのでしょうか?

志村:現在は、カルチャーセンターで美術教室を開催しています。大人向けは立体造形やデッサンなど、子供向けはお絵かきや粘土を使った作品創りなどの講座です。また、毎週土曜日に行っているインスタライブでは、いただいたリクエストをモチーフにして消しゴムハンコを作っています。

----:飼っている猫ちゃんもインスタライブに登場していましたね。

志村:愛猫の「びわ」です。猫が飼いたいと思って訪れた保護猫カフェで出会いました。一鳴きした瞬間に、このコだ! と直感で決めたんです。元々野良猫で、お母さんと一緒に保護されたそうです。生後半年くらいの時にうちへ来て、今推定3歳。人見知りで僕にもまだ抱っこはさせてくれませんが、コミュニケーションは取れますし、意思のある一人の人間みたいに感じています。昔はラブラドールレトリーバーやビーグルを飼っていたので犬派だったんですが、今はすっかり猫派になってしまいました(笑)。びわをモチーフに作品を作ることもあります。

志村氏の愛猫、びわちゃん

----:今後はどのような取り組みをされていくのでしょうか?

志村:8月27日から9月1日まで、都内で個展を開催します。カバオンリーの展示会で、「カバビト」という作品が生まれたのを機に行うことにしました。また、現在「梅香亭」という和菓子屋さんとコラボレーションして落雁を作っています。作品とは言え可愛い動物を食べてしまうことにはこれまで抵抗があったのですが、消しゴムはんこなどで平面のデザインを始めたらそれが軽減されました(笑)。食品にすることで、なくなってしまうもの、消えゆくものたちの儚さを表現したいなと。11月に開催する祖父との二人展で発表予定です。

世の中には様々な問題がありますが、結局は人の行動がカギだと思います。どんな分野でも、まず興味を持ってもらうことができず苦労していると感じるので、きっかけは積極的に作っていきたいですね。例えば猫好きの人が多いように、みんながカバを好きになってくれれば、「大量絶滅」の問題も解決に近づくはず。これからも色々なことに挑戦しながら、地道に続けていきたいと思っています。

造形作家・志村リョウ氏

志村リョウ|造形作家
1985年東京生まれ。東京造形大学サステナブルプロジェクト専攻を経て、2010年東京造形大学大学院デザイン研究領域修了。森林伐採・大気汚染・温暖化・密猟などによって起きている「大量絶滅」をテーマに、細密造形 、デフォルメ造形、プロダクトデザイン、イラストなど様々な表現を用いて、つたえるためのカタチの制作を行う。2020年8月27日~9月1日、コートギャラリー国立(東京都国立市)にて、個展『カバノハコブネ』を開催。11月には祖父で洋画家の内山孝と二人展を予定している。(Instagram:@shimura.ryo)

《吉田瑶子》

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