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日本野鳥の会、北海道・勇払原野の風力発電計画地内で特別天然記念物タンチョウの繁殖を確認

タンチョウ
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  • チュウヒ
  • 日本野鳥の会、北海道・勇払原野の風力発電計画地内で特別天然記念物タンチョウの繁殖を確認…事業者に計画の中止・撤回を要請
  • 勇払原野の浜厚真地区(厚真町)に残存する湿地
  • オレンジ色のエリアが、対象事業実施区域のうち風車設置予定位置 網掛けグレーのエリアは、風車以外の関連施設の設置予定位置  ※(仮称)苫東厚真風力発電事業環境影響評価方法書の図2.2-1(2)を引用して作図
  • これまでに勇払原野の計画地周辺で確認されている希少鳥類

日本野鳥の会は、希少鳥類の重要な生息地である勇払原野の東部(苫小牧市字弁天~むかわ町字鹿沼)で、大阪ガスとその系列会社であるDaigasガスアンドパワーソリューションが計画する「(仮称)苫東厚真風力発電事業」に対し、事業の中止を求めた。

2月に縦覧された環境影響評価方法書に示された対象事業実施区域とその周辺で、国内希少野生動植物種や国の天然記念物に指定されているタンチョウやオジロワシ、チュウヒやマガンなどの生息が明らかになっており、同団体は、これら希少鳥類の保護の観点から、2020年5月の計画当初より事業を進めることに反対している。

ネイチャー研究会inむかわ、酪農学園大学、タンチョウ研究所による共同調査では、2017年に続き2021年も1つがいのタンチョウが計画地内で繁殖し、7月17日まで2羽の幼鳥を含む親子で浜厚真地区に生息していたこと、そして、計画地が今後もタンチョウにとって重要な繁殖環境を提供し続ける可能性が高いことが確認されている。

また、7月31日から8月1日にかけて、計画地を含めた浜厚真地区で生物相調査である「浜厚真Bioblitz 2021」が実施された。その結果、全国的に極端に個体数が少ないチュウヒとアカモズの繁殖が確認され、これらの種が毎年繁殖している浜厚真地区とその周辺は種の存続にも関わる重要な生息地となっていることがわかった。また、これまでの調査により、シロチドリ、マキノセンニュウ、ハイタカ、オオタカ、オジロワシなどの希少種にとっても重要な繁殖地となっており、サンカノゴイやウズラも繁殖している可能性があることもわかっている。

さらに、日本野鳥の会が2021年に行った計画地とその周辺におけるチュウヒの繁殖状況調査では、6つがいのチュウヒが繁殖を開始し、2つがいで4羽の幼鳥を巣立たせたことを確認している。

これらの希少鳥類には、風力発電施設の建設によるバードストライクや生息地放棄の発生など影響を受けやすい種が多く含まれ、この事業の実施が計画地およびその周辺に生息するこれらの希少鳥類に及ぼす影響は大きいことから、事業を中止しない限りは、影響を回避できないと予測している。特に国内希少野生動植物種に指定されているチュウヒは、国内推定数90つがい(環境省 2015)のうち6つがいが計画地内で今年繁殖しており、風車建設で全つがいが生息地放棄等を起こした場合、国内繁殖数の約7%が消失することになる。

同団体は、風車建設がタンチョウやチュウヒなどの希少鳥類の繁殖に影響を及ぼすことは回避不可能と判断し、希少鳥類保護の観点から、令和3年12月13日付で事業者に対し「タンチョウの繁殖確認による(仮称)苫東厚真風力発電事業の撤回を求める要請書」を提出し、事業計画の中止を要請。

また、令和3年12月13日付で北海道知事宛、環境大臣宛、苫小牧市長宛および厚真町長宛に「タンチョウの繁殖に伴った(仮称)苫東厚真風力発電事業に対する要望書」を提出し、事業の見直しを含む厳しい行政勧告を事業者に対し行うよう要望した。

《鈴木まゆこ》

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