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「そのワクチン、毎年打たないで!」、エビデンスに基づいた混合ワクチン接種プログラム【アニマルワールドカップ2021】

子犬への最後の混合ワクチン接種は16週齢を過ぎてから
  • 子犬への最後の混合ワクチン接種は16週齢を過ぎてから
  • ノンレスポンダーの存在にも注意したい
  • 世界小動物獣医師会による最新のエビデンスに基づいたガイドラインは日本語でも提供される
  • 獣医師から発行される抗体検査の結果証明書
  • 少量の採血で診断可能な抗体検査キット
  • 安田獣医科医院(東京都目黒区)の安田英巳獣医師

「Animal World Cup 2021(アニマルワールドカップ2021)」には、ドッグスポーツの紹介だけでなくペットについて幅広く考えるプログラムが盛り込まれていた。健康管理に関しては、栄養学や予防などについて専門家の話を聞くことができた。その中で、主に犬向けの混合ワクチン接種に関するセミナーに注目した。

なお、犬には狂犬病予防法によって1年に1回のワクチン接種が飼い主に義務付けられている。このセミナーでは、それ以外のワクチンに関する最新の考え方が紹介された。

「そのワクチン、毎年打たないで!」

安田獣医科医院(東京都目黒区)の安田英巳獣医師は、「そのワクチン、毎年打たないで!」と題したセミナーを実施。犬のワクチンについて、エビデンス(科学的根拠)に基づいた効果的で安全な接種方法が語られた。

色々な病気に対するワクチンを組み合わせた「混合ワクチン」の注射を、愛犬に受けさせる飼い主は多いだろう。病気は早期発見・早期治療が重要だが、予防が最も大切なのは言うまでもない。大切な家族の一員である愛犬を感染症から守るため、ワクチン接種を行うのは飼い主としての責任と言える。ただし、毎年、習慣として打つのはやめるべきだという提案だった。

「抗体が無ければ打つ、あれば打たない」

このセミナーで安田獣医師が強調したのは、「抗体が無ければ打つ、あれば打たない」という考え方である。これは、「世界小動物獣医師会(WSAVA)」など、専門家から成る世界的な団体が公表している獣医学的に効果的で安全なワクチン接種の考え方に基づいている。安田獣医師が言う「抗体があるかないか」は、検査キットを使用すればわずかな採血で簡単に判断できる。

世界小動物獣医師会による最新のエビデンスに基づいたガイドラインは日本語でも提供される世界小動物獣医師会による最新のエビデンスに基づいたガイドラインは日本語でも提供される

抗体検査が「むだ打ち」と健康被害を最小限に

詳しくは、REANIMALで繰り返し紹介してきたシリーズ*を参照頂きたいが、体の中に抗体がある状態で同じウイルスに対するワクチンを接種しても効果はない。また、どんなワクチンにも副反応のリスクは確実に存在する。したがって、「むだ打ち」を避け、副反応による健康被害を最小限に抑えるために抗体検査を行うのが効果的で安全なワクチン接種である。

少量の採血で診断可能な抗体検査キット少量の採血で診断可能な抗体検査キット

「コアワクチン」は3年以内の再接種禁止

WASVAでは、感染力が強く致死性の高い3種のウイルスに対応するものを「コアワクチン(= 核になるワクチン)」、つまり必須のワクチンに分類している。犬の場合、ジステンパーウイルス、アデノウイルスおよびパルボウイルスへの感染を予防するワクチンである。コアワクチンは接種後の免疫が長期間持続することも分かっており、WASVAは「3年内に再接種を行ってはならない」としている。

ワクチンに反応しない「ノンレスポンダー」

まれに、ワクチンに反応しない「ノンレスポンダー」や反応が緩やかな「スローレスポンダー」と呼ばれる個体も存在する。したがって、確実に愛犬が感染症から守られているかどうかを確認するためにも、抗体検査は重要である。安田獣医師によると、アデノウイルスについては10万頭に1頭、ジステンパーについては5000頭に1頭、パルボについては1000頭に1頭の割合でこうした体質の犬がいるそうだ。

ノンレスポンダーの存在にも注意したいノンレスポンダーの存在にも注意したい

ノンコアはかかりつけの獣医師と相談

「混合ワクチン」の場合、コアワクチン以外の「ノンコア」に分類されるワクチンも含まれていることがほとんどである。ノンコアワクチンが予防するウイルスや細菌は、居住地の条件によって感染のリスクが異なる。したがって、生活環境や飼い主のライフスタイルなどを基に、かかりつけの獣医師とよく相談して接種の要否を判断することが推奨されている(詳細については過去の記事参照)。

レプトスピラは種類とタイミングもよく考えて

特に種類の非常に多い「レプトスピラ」の場合、ワクチンと細菌の種類が一致しないと予防効果は得られない。また、コアワクチンによる免疫が長期間継続するのに対し、ノンコアワクチンの場合は1年またはそれよりも短いことが分かっている。接種の要否に加え、どの種類のワクチンをどのタイミングで打つのかについてもきちんとした判断が求められる。

「いらないもの」も入っている場合がある混合ワクチン

WASVAのガイドラインでは「非推奨」とされるワクチンもある。混合ワクチンには、「犬コロナウイルス」を予防するワクチンが含まれているものがある。ところが、このウイルスが犬に疾患を引き起こしているエビデンスは見つかっておらず、WASVAでは非推奨、つまり接種を勧めないとしている。「いらないものを注射していることになります」と安田獣医師は言う。

子犬は16週を過ぎてから最後のワクチンを

子犬を迎えた場合、ワクチンを複数回接種することが多いが、安田獣医師によれば「回数の問題ではない」とのことだ。生まれた直後の子犬は母犬から受け継いだ抗体(= 移行抗体)で病気から守られている。したがって、ワクチン接種の必要が無いだけでなく、接種を行ってもその効果は得られない。

子犬への最後の混合ワクチン接種は16週齢を過ぎてから子犬への最後の混合ワクチン接種は16週齢を過ぎてから

子犬に複数回のワクチン接種が推奨されているのは、この移行抗体が無くなるタイミングに個体差があるためだ。一般に、16週齢を過ぎればほとんどの個体で移行抗体がなくなるため、最後のワクチン接種はそれ以降に行うのが安田獣医師の提案だった。

毎年接種する根拠はない

安田獣医科医院でも、過去には年間1200~1300頭の犬に混合ワクチン接種を行っていたそうだ。コアワクチンに対する抗体検査を行っている現在は、それが数頭のみだという。「(混合ワクチンを)毎年接種する科学的根拠は全くありません」という歯切れの良いコメントが印象的だった。

セミナーを視聴した一般の飼い主からは、「愛犬の命に関わることなので、余計なことはしたくないんです」というコメントが寄せられた。それに対して安田獣医師は、「(抗体価がある状態で)ワクチンを毎年打ってはいけません。これは信じてください」と話す。

なお、ドッグランやトリミングサロン、ペットホテルなどでは1年以内の混合ワクチン接種を利用の条件とする施設が多い。抗体検査後には結果証明書が獣医師から発行されるが、それを提示しても拒否される場合は「私に連絡をください」とのこと。

獣医師から発行される抗体検査の結果証明書獣医師から発行される抗体検査の結果証明書

これまでに数多くの交渉を行い、抗体検査証明書での利用が可能になった施設は多いそうだ。

*過去の参考記事:
犬の「混合ワクチン」は年に1回で大丈夫? vol.1…目的と免疫持続期間について

猫にワクチン接種は必要? ライフスタイルに応じて獣医師と相談を

愛犬への「混合ワクチン」接種、慎重に考えてみませんか? vol.1…これまでのまとめ

《石川徹》

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