埼玉県こども動物自然公園(埼玉県東松山市)は、7月1日よりクオッカの一般公開を開始する。国内では唯一、クオッカに会える動物園となる。
口角が上がっており、いつも笑っているように見えることから“世界一幸せな動物”と呼ばれるクオッカは、有袋類でカンガルーの仲間。体長は40cmから50cm、体重は2.7kgから4.2kgと小型の動物で、針葉樹やユーカリの葉、芝、果実などを好んで食べる。主に、オーストラリア南西部の涼しい森に生息しており、暑さに弱く、日陰を移動できるように草のトンネルを作って使用しているという。なわばりはなく単独で行動するが、他の個体に寛容な性格で、人間に対しても懐っこく、間近で観察したり一緒に写真を撮ることもできるほど大人しい。
そんなクオッカが、今年3月、オーストラリアのフェザーデール野生生物園から同園にやってきた。オス2頭(8歳以上、2歳)、メス2頭(8歳、3歳)の計4頭だ。新型コロナウイルスの影響で休園していたためこれまでお披露目ができなかったが、いよいよ一般公開の準備が整った。
意外に早く人に慣れ、マイペースに暮らす
同園のクオッカはマイペースであまり人を気にしないという。担当飼育員によれば「カンガルーは比較的どっしりと構えているが、ワラビーはちょっと神経質。開園当時から飼育しているが、代を重ねてやっと最近人の近くに来るようになった。それに比べると、クオッカは2週間ほどで慣れてしまったので驚いた」とのこと。
メス2頭は時折小屋内へ逃げたりかなりのスピードで走り回ることもあるが、年長のオスは比較的落ち着いていて人を怖がらないそうだ。様々な一面が見られるのも、魅力だと言えるだろう。取材時にも、柵の近くにふと寄ってきて草を食べる様子が見られた。「思わず触れたくなってしまうかもしれないが、来園された方には手を伸ばさないようにお願いしていく」という。
1日2時間柵内に開放しているが、食欲が旺盛で小屋から出るとずっと草を食べているそうだ。現地の雰囲気に近づけたいと、バンクシアやメラレウカスノーインサマーなどオーストラリア原産の植物も植えてある。春に咲いた花をあげたところ、とても美味しそうに食べてくれたという。
背景にある、同園の取り組みと園長の思い
クオッカの来日は、1961年に上野動物園へ導入されて以来59年ぶり。なぜ同園は迎え入れることができたのだろうか。園長の田中理恵子氏によれば、元々、埼玉県は1984年にオーストラリア・クイーンズランド州と姉妹提携を結んでおり、交流が盛んだったことからスタートしているという。一方で、田中園長はプライベートで18年ほど前にロットネスト島を訪れている。「その頃は、動物協会の人もクオッカという名前を知らないくらい珍しい動物で、今ほどの人気もなかったが、個人的に興味があって、このような面白いカンガルーが日本にも来たらいいなと思っていた」と話す。
本格的に導入を考えたのは3年ほど前。同園では飼育スペースの間を通り抜けるようなコースを作って、近い距離で動物のことを伝えられるような展示を試みている。そのような環境に「クオッカが合っていると思った」と田中園長は話す。コアラの飼育などで交流のあった動物園「ドリームワールド」に相談をしたり、オーストラレーシア動物園水族館協会(ZAA)の会議でオーストラリアの動物に特化している点や繁殖実績などを熱心にアピールしたという。また、オーストラリアの食紹介やアボリジニアートを体験するイベントなども実施。繁殖実績や飼育管理技術だけでなく、文化的な面でも取り組みを行ってきたことが高く評価された。
当面はチケット制で公開
展示は、カンガルーコーナー内にあるクオッカアイランドで行われ、10時半から12時半までの2時間を予定している。観覧には当日配られる観覧チケットが必要で、配布枚数は120枚。滞在できる時間は10分間とのことだ。(乳児はチケットなしで観覧可能。今後の観覧方法は、情勢や動物の様子を見ながら人数を増やしたり、整理券をなくすことを検討している。)またクオッカたちの名前については、同園が用意した候補に対して、7月18日から7月26日の間に来園者が投票し、その中で一番多くの票を集めたものに決定する。
動き回っていることが多く、遠くにいるか、近くにいるか、物陰にいるかは、クオッカの気分次第。同園では、応援するような温かい気持ちで会いに来てくれると嬉しいとしている。
なお、同園には他にも多くの動物がおり、キリンやコアラ、プーズーなどこの春誕生した赤ちゃんにも会うことができる。