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国立科学博物館、サンショウウオの新種を発見…背中に鮮やかな赤色の斑紋

国立科学博物館、サンショウウオの新種を発見
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国立科学博物館の吉川夏彦氏(動物研究部脊椎動物研究グループ研究員)らは、紀伊半島から北陸・中部地方にかけての本州中部に分布するハコネサンショウウオ属(Onychodactylus)の新種を発見。既知種との遺伝的・形態的な比較を行い、これを「Onychodactylus pyrrhonotusYoshikawa and Matsui, 2022」として新種記載した。

日本列島には現在45種の小型サンショウウオ(サンショウウオ科に属する両生類)が生息する。このグループは近年の研究により急速に分類が進んで種数が増加したが、それでも日本列島の小型サンショウウオ類の多様性の全容解明には至っていない。

ハコネサンショウウオ属は、山地の渓流やその周辺に生息する小型サンショウウオのグループ。日本産種の数は、この10年でわずか1種から大幅に増加しており、吉川氏らの発見した4種と他の研究グループが記載した1種を含む合計6種となっている。これらの種は外部形態が非常によく似ており、DNAの解析手法の発達によって初めてその多様性の実態が解明され、種の分類が促進されてきた。

そのような中で、近畿地方を中心とした本州中部には「ハコネサンショウウオ近畿型」と呼ばれる、固有の遺伝集団が存在することが報告されていた。「近畿型」は、四国産のシコクハコネサンショウウオに近縁であること、同所的に分布する狭義のハコネサンショウウオとの間には交雑がないことが先行研究で示されており、遺伝的な証拠からは独立種とするのが妥当とされてきた。しかし、近縁種との形態比較などの分類学的研究に必要な成体の標本を得るのが難しく、その種としての地位は確定していなかった。

そこで本研究にあたり、同氏らは紀伊半島から近畿、北陸、中部地方にかけての本州中部のハコネサンショウウオ属の標本を収集・調査。近畿型と狭義のハコネサンショウウオは同じ場所に混棲するため、使用した全標本についてあらかじめDNAの分析をし同定を行い、それに従って種ごとの外部形態の比較を行った。

その結果、近畿型は外部形態では同属の近縁種に非常によく似ていたが、背面に赤色~ピンク色の鮮やかな斑紋を持つこと、腹面に多数の細かい白点を持つことが大きな特徴であることが判明し、一部の集団を除いて他種と識別可能であることがわかった。本研究による外部形態の比較と先行研究の遺伝的なデータに基づき、「近畿型」をOnychodactylus pyrrhonotusYoshikawa and Matsui, 2022という新種として記載した。

種小名の「pyrrhonotus」は「火の色の背中」を意味し、本種の背中にみられる鮮やかな赤色の斑紋にちなんでいる。和名もこの体色を炎の色に例え、「ホムラハコネサンショウウオ」を提案している。本種は本州中部(岐阜、石川、福井、滋賀、京都、三重、奈良の各県)から広く分布が確認され、本研究では先行研究で記録のなかった岐阜・石川の両県でも新たに生息が確認された。

分子系統解析を行ったところ、本種は同所的に分布する狭義のハコネサンショウウオO. japonicusと明確に異なること、四国・中国山地産のシコクハコネサンショウウオO. kinneburiに最も近縁であることが改めて確認された。特に後者は、過去に存在した近畿地方(特に紀伊半島)と四国の山地が過去にはつながっていたことを示す生物地理学的な例の一つと考えられ、同様の事例はコガタブチサンショウウオ種群などでも知られている。

本研究により日本産小型サンショウウオ類の多様性の一端が解明されたが、本種の分類を通してさらにいくつかの今後の課題が浮かび上がったとし、研究成果から期待されること、今後の課題などを次のように挙げている。

本研究により、日本列島に分布する小型サンショウウオ(サンショウウオ科)の種数は46種、ハコネサンショウウオ属としては7種となった。日本列島はサンショウウオ科両生類の種多様性と固有性が世界で最も高い地域で、特にサンショウウオ属と本種を含むハコネサンショウウオ属の多様性が高くなっている。今回の発見は、その多様性の全容把握とその形成史の解明につながるものの一つと期待される。

ホムラハコネサンショウウオは、分布域のほぼ全域で狭義のハコネサンショウウオと共存している。先行研究により、これらの2種は異なる場所で種分化したものが二次的に接触したと考えられている。どのような仕組みで2種が互いを認識し、種の交雑を避けるための「生殖隔離機構」が進化していったのか、という点を明らかにするのが今後の課題だ。

2020年版環境省レッドリストには、日本産サンショウウオ科の実に41種(89%)が絶滅危惧種・準絶滅危惧種として掲載されているが、今回新種記載されたホムラハコネサンショウウオも絶滅が危惧される種の一つだ。本種は涼しく湿った山地の高標高部を好むため、温暖化のような気候変動の影響を強く受ける恐れがある。環境開発により生息地の環境も悪化してる。また近年では、希少種の乱獲やネットオークションなどによる売買も社会問題化している。こうした脅威に対し、本種の保全に向けた早急な対策が求められる。

長らく日本国内に広く分布する普通種とされていたハコネサンショウウオに、実はこれほど多数の種が含まれていたことを示した一連の研究は、よく知られた身近な種であっても未知の多様性を秘めていることの好例だ。これは生物多様性保全の基礎となる「種」を認識する学問である分類学の重要性を示しており、今後の同分野の研究の推進が望まれる。

本研究成果は2022年2月出版の爬虫両生類学の国際誌「Current Herpetology」誌に掲載された。

《鈴木まゆこ》

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