※リアルの生物の写真が出てきます。苦手な方はご注意ください!
いよいよ夏休みシーズン到来(今年はちょっと事情が違うけど…)!
海遊びが楽しい季節ですが、涼しい部屋の中でゲームをするのもオツなものです。先日もダラダラと『あつ森』をプレイしていたところ、素潜りでこんな魚が採れてびっくり。
言わずと知れた海底の人気者、チンアナゴです!
砂地に群れて穴を掘り、上半身だけをニョキニョキ出して漂うアナゴの仲間ですね。
名前の由来は愛玩犬の品種「チン」であるとされています。なんでも顔つきが似てるんだとか。名前の響きもかわいいですね。
さらに、行動を観察しているとみんな同じ方向を向いてニョロニョロしたりひっこんだり……。
その様子があんまりかわいいものですから、ダイビングや水族館ではアイドル級の扱いを受けています。
この不思議な行動は『あつ森』の博物館でも観察できますね。
実はチンアナゴたち、流れてくるプランクトンを食べるために潮流を顔面にうける形で首を伸ばしているんです。だからあんな具合に整然と、揃って同じ方向を向くわけです。
また、とても臆病で大きな生き物やダイバーが近づいたり大きな振動を感じると一斉に巣穴へひっこみます。
水族館でもお客さんの人影などに驚いて隠れてしまうことがあります。でもそこからまた恐る恐るニョキニョキ生えてくる様子も可愛らしいんですがね。
こんな生態ですから、開けた砂地にしか生息できないわけです。この辺は『あつ森』でもちゃんと再現されていて感心しました。
ちなみに、実際に素潜りでチンアナゴを捕獲するのは超絶難しいと考えられます。
まず生息している水深がおよそ10~50m程度とやや深く、すぐに隠れてしまうため砂をガッツリ掘り返す必要があるわけですから……。
日本には二種類の「チンアナゴ」が!
なお、実は日本からは「チンアナゴ」と名のつく魚が二種報告されています。
ひとつは先ほどからお話ししている無印の「チンアナゴ」。『あつ森』で採れる白地に黒い斑点を持つ彼らはこちらになります。
そしてもう一種、「ニゲミズチンアナゴ」なる第二のチンアナゴが存在します。
ニゲミズチンアナゴは鹿児島県の大島海峡で2016年に採集、2018年に新種として報告されたばかりの魚で、チンアナゴに比べて分布もかなり限定的なようです。
チンアナゴによく似ていますが斑点は茶色で鰓蓋が白いことで見分けられます。また、より大型で体が異様に長いのも特徴なんだとか。
名前の「ニゲミズ」とは蜃気楼の一種である「逃げ水」のこと。
チンアナゴよりも性格はさらにシャイで、近づくことすら容易にはままならない程だとか。
ゆらめく姿を遠くから眺めるしかないとは…なかなか風流かつ生態をよく表した名前ですね。
ちなみにこの魚を新種として発表した研究者は20回も現地調査を行なってようやくたった1匹の捕獲に成功したのだといいますから、文字通り「幻の魚」といったところでしょう。
……いつか『どうぶつの森』シリーズにもレア枠でニゲミズチンアナゴが登場したりしないもんですかね?
※チンアナゴの名を持つ魚は現在のところこの二種のみですが、そのほかにもシンジュアナゴ属のニシキアナゴやアキアナゴ、チンアナゴ属のゼブラアナゴなど姿や生態がチンアナゴによく似たアナゴたちが存在し、それらを総称して「ガーデンイール」と呼びます。
今後さらに研究が進めばもっと日本産ガーデンイールファミリーが増えるかもしれません。楽しみですね。
■著者紹介:平坂寛

Webメディアや書籍、TV等で生き物の魅力を語る生物ライター。生き物を“五感で楽しむ”ことを信条に、国内・国外問わず様々な生物を捕獲・調査している。現在は「公益財団法人 黒潮生物研究所」の客員研究員として深海魚の研究にも取り組んでいる。著書に「食ったらヤバいいきもの(主婦と生活社)」「外来魚のレシピ(地人書館)」など。
YouTubeチャンネル