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地球温暖化によりサンショウウオが大型化、40年以上の観測データにより発覚…東京都立大

地球温暖化によりサンショウウオが大型化
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東京都立大学理学研究科の岡宮久規日本学術振興会特別研究員と草野保助教(当時)らは、近年進行する地球温暖化に伴い、絶滅危惧種トウキョウサンショウウオの体サイズが40年間で最大2割増加していることを発見した。また、一個体のメスが一度の繁殖期に産む卵数についても調べたところ、こちらは40年間で最大3割も増加していたことがわかった。研究成果は、1月22日に英国のロンドン・リンネ協会が出版する国際誌Biological Journal of the Linnean Society誌のオンライン版に掲載された。

温暖化によって冬眠から覚める時期が早まり、成長に割ける期間が長くなったことが、これらの変化を促したと考えられるという。気候変動が生物に与える影響についてはまだ不明な点が多く、特に研究例の少ない両生類についてその影響を明らかにした重要な研究成果である。また、今回の成果は40年以上にわたる長期観測データから得られたもので、気候変動の影響を知るうえで長期観測を継続していくことの重要性を示している。

トウキョウサンショウウオは、福島県と関東地方(群馬県を除く)の丘陵地に分布する体長が5~8cmほどの小型サンショウウオの一種。普段は森林の林床に暮らしており、早春に越冬から覚めると繁殖活動を開始し、小さな池や田んぼなどの水中に数十個の卵が詰まった卵嚢を産み出す。

東京都立大学理学研究科では、東京都内にある繁殖地で、繁殖に来た個体数や一個体のメスが産んだ卵嚢内の卵数(クラッチサイズ)を1976年から現在まで継続的に観測している。今回、このデータを解析したところ、ここ40年の間に繁殖集団の平均クラッチサイズが増加していることがわかった。

さらに調査範囲をトウキョウサンショウウオの分布全域に広げデータ収集し、1970~1980年代と2000~2010年代でデータを分け、緯度勾配に沿って両者を比較。その結果、分布全域を通して、体サイズもクラッチサイズも現在の方が大きくなっていることが発覚した。また、両者の増加率は特に高緯度(北側)地域で高く、体サイズは最大約2割、クラッチサイズは最大3割程度も増加していたという。

次に地球温暖化の影響を推定するため、気象庁の1980年代と2010年代の気温データを取得し、そこから各年代の平均気温と有効積算温度(トウキョウサンショウウオが生育可能な気温の合計値)を算出したところ、トウキョウサンショウウオの分布全域で両者ともに上昇していることがわかった。

これらの結果から、「地球温暖化による気温上昇の影響により、トウキョウサンショウウオの体サイズとクラッチサイズが増加した」と結論付けた。今回観察された増加率は、世界中で報告されている他の様々な生物の研究結果と比較してもかなり大きな値だという。

地球温暖化が生物に及ぼす影響を理解することで、今後も進行が予想される気候変動のもとでの生物集団の未来を予測し、将来の保全計画に役立てることができる。トウキョウサンショウウオは、生息地の開発や外来種などの影響により近年その生息数を減らしており、各地で積極的な保護活動が行われている。今回得られた知見をもとに生息数の将来予測などを行うことで、保全策の計画立案に貢献することが期待できる。

地球温暖化に伴う体サイズやクラッチサイズの増加は、もしかすると生息数の回復に寄与するかもしれないという。一方で、これまでの種内・種間関係を変えてしまうことで予期せぬ影響を及ぼす可能性もあるとのことだ。

例えば、体サイズが大きくなることで目立ってしまい、捕食者に狙われやすくなることなどが考えられる。また、サンショウウオは高温に弱い生き物なため、今後温暖化が進行して気温が上がり過ぎると、トウキョウサンショウウオにとって致命的な結果を招く可能性もある。そのため、この希少なサンショウウオを守り、未来に残していくために、今後もモニタリングを継続し、その動態を注意深く見守っていく必要があるとのこと。

今回の研究成果は、40年以上続く長期観測データを解析することで明らかになった。過去の状態を知り、気候変動に対する生物の応答を理解するためには、このような長期観測データは不可欠だ。生物多様性を保全し、私たち人類の未来に役立てていくためにも、今後も様々な生物種の長期観測データを充実させていく必要があるとのこと。

《鈴木まゆこ》

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