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奄美・沖縄が世界自然遺産に登録…アマミノクロウサギ、イリオモテヤマネコってどんな動物?

奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島の希少動物たち
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  • アマミノクロウサギ
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7月26日、第44回世界遺産委員会(オンライン開催)にて、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の世界自然遺産の登録が決定した。日本で5つ目の世界自然遺産となる同エリアはアマミノクロウサギやイリオモテヤマネコなど貴重な固有種が多数生息する。

代表的な野生動物は、奄美大島・徳之島のアマミノクロウサギ、西表島のイリオモテヤマネコ、沖縄本島北部(やんばる)のヤンバルクイナ だが、他にもトゲネズミ、オオトラツグミ、ルリカケス、リュウキュウイノシシ、ヤエヤマセマルハコガメ、アマミヤマギシ、アマミイシカワガエル、その他珍しいクワガタや蝶、カエルなど多様な生物の宝庫でもある。

奄美大島:クロウサギとトゲネズミ

アマミノクロウサギアマミノクロウサギ

アマミノクロウサギは、ウサギ目ウサギ科の動物だが耳が小さい特徴がある。体色は名前のとおり黒、黒褐色だ。体長は50センチ前後。体重は1.3~2.7キロほど。木の洞(うろ)や岩穴を巣とし、寿命は15年(飼育下の記録)ほどだという。鹿児島県の奄美大島と徳之島のみに生息する。

生息数は2003年の調査データで、奄美大島2000から4800頭、徳之島200頭という数字が残っている。レッドリストでは絶滅危惧種(IB類:近い将来絶滅のおそれがある)となっている。奄美野生生物保護センターの阿部愼太郎氏によれば、小さい動物なので野生下では個体を1頭ずつ数えることが難しく、生息域の糞などの痕跡からの推計となるそうだ。「現在の生息数の把握は困難だが、数を減らしているという状況は観測されてないので、若干の回復基調にあると考えている」という。

アマミノクロウサギにとっての脅威は、「森林の減少、マングースによる捕食、犬猫による被害、交通事故」(阿部氏)。これらはヤンバルクイナなど他の野生生物にとっても同様だ。

アマミトゲネズミアマミトゲネズミ

トゲネズミは、扁平につぶれたとげのような体毛を持つ野ネズミ。奄美大島、徳之島、沖縄に生息するが、近年の研究で、アマミトゲネズミ、トクノシマトゲネズミ、オキナワトゲネズミ の3種類に分類された。他にケナガネズミという種もいる。ケナガネズミは沖縄全土 、奄美大島、徳之島に分布しているが、トゲネズミ3種は奄美大島、徳之島、沖縄ごとに分かれている。

これら3種のトゲネズミは、マングースや野猫・野犬の捕獲、生活エリアのTNR活動他、保護活動によって生息数は安定してきたとされるが、レッドリストではアマミノクロウサギと同様に絶滅危惧種IB類に分類されている。

沖縄島北部:ヤンバルクイナ

ヤンバルクイナヤンバルクイナ

ヤンバルクイナは、沖縄本島北部の「やんばる」と呼ばれる山岳森林地帯に生息する鳥。体重に比べて翼の面積が小さいため飛ぶことができない鳥だ。レッドリストでは絶滅危惧種IA類。IB類より絶滅の危険が高い状態だ。生息数は発見当時(1985年)には1800羽ほど、その後の森林開発、マングース分布の北上などにともない2005年の調査では約700羽まで減少した。

その後マングース駆除や保護活動により、現在は1500羽ほどではないかという(環境省やんばる自然保護官事務所 吉川紀愛氏)。生息域も少しずつだが南に広がってきているそうだ。

ヤンバルクイナも犬猫による被害や交通事故による被害を受けている。鳥類のヤンバルクイナは昼行性のため明るい昼間の活動で車にはねられる被害が発生している。北部の山道は狭くカーブも多いため、ドライバーの発見が遅れがちだ。飛べない鳥のため交通事故は、他の野生動物と同様に深刻な問題だ。

西表島:イリオモテヤマネコ

イリオモテヤマネコイリオモテヤマネコ

イリオモテヤマネコは体長50~60センチほどのネコ科の哺乳類。ネコ科だがいわゆる猫耳ではなく丸みを帯びた耳殻と太いしっぽが特徴だ。名前のとおり西表島のみにしか生息が確認されていない貴重な野生動物。レッドリストは絶滅危惧種IA類で、絶滅・野生絶滅(保護環境下や本来の生息地以外での生息・繁殖)に次ぐランクとなっている。

推定生息数は約100頭(2008年調査)。捕食動物なので犬猫の被害は多くはないが、交通事故や開発・気候変動による森林、マングローブの減少が大きな脅威となっている。開発や気候変動はイリオモテヤマネコが食料とする小動物、トカゲやカエル、昆虫などの減少にもつながっている。西表島にはマングースがいないため交通事故と森林減少が大きな問題だが、幸いにも2020年イリオモテヤマネコの交通事故は0件だった(西表野生生物センター アクティングレンジャー田中詩織氏)。

西表島のように小さい島で、ヤマネコのような肉食動物が生態系に残っているのは世界でも類がない。狭いエリアの場合、獲物が減っていく可能性が高い。一般に肉食動物が広い縄張りや生息域を持つのはこのためだ。イリオモテヤマネコが西表島で生息できたのは、ウサギやネズミなどの以外に、蛇、トカゲ、昆虫など多様な動物を食料にしていたからと考えられている。奄美・徳之島・沖縄・西表島が世界自然遺産に登録されたのは、この動植物の多様性が認められたからでもある。

野生動物への脅威とその対策

コロナ禍において、緊急事態宣言、蔓延防止措置などによって旅行や外出が控えられているが、奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島が世界自然遺産に登録されたことで、訪問する人も増えるだろう。

訪問者や観光客がこれらの地域で注意すべき点、知っておくべき点はないだろうか。取材した、奄美大島、沖縄、西表島の各野生生物保護センターでは、まずこれらの希少生物の保護のため、生息域でのマングース捕獲、野猫・野犬の捕獲を行っている。捕獲した犬や猫は原則として地域や地域外の動物保護団体などに送られ里親を探す。地域の犬猫については、自治体と協力して放し飼いをしないような指導、あるいはTNR活動によって野良猫・野良犬の管理を行っている。

自治体は交通事故に対する注意喚起や啓発活動も展開している。夜間は街灯のない道も多く、昼間でも見通しが悪い。観光客や訪問者は昼間でも特に注意が必要だ。もし、野生動物をはねたりケガを負わせてしまったら、必ずエリアの野生生物保護センターなどに通報してほしいとしている。

西表島野生生物保護センターでは、ヤマネコの目撃情報や運転注意マップなどの情報を適宜公開している。ドライブの前にはこれらの情報をチェックしておきたい。

野生動物とは適切な距離感を

世界自然遺産に登録されたこれらのエリアの野生動植物の多くは、他のエリアでは見ることができない固有種や希少種ばかりだ。絶対数が少ないこともあり、動物園などでも飼育・繁殖は簡単ではない。各センターも保護が最優先で、展示飼育は行っていない。自然のまま保護、繁殖させていくことが重要だ。

そのため、かの地に足を運んでも、アマミノクロウサギ、トゲネズミ、ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコに簡単に会えるわけではない。しかし、地元には自然ガイドツアーがある。運がよければ貴重な野生動物に会えるかもしれない。

会えたとしても、動物たちとの距離感は重要でツアーガイドの指示に従い、勝手な行動は謹むことが重要。また、ガイドなしにマングローブや森林地帯にむやみに入るのもやめるべきだ。「自分一人くらい」の気持ちが簡単に自然環境を破壊する。「一人くらい」と思うのが実際一人や二人ということはない。たいてい何百人、何千人といるからだ。また、ハブなどの危険生物もいる。自然との共存は、お互いに仲良くなるのではなく適切な距離感を保つことが基本だ。

現地で野生動物に遭遇した場合の行動について、西表島野生生物センターのパンフレットが参考になる。それによれば「強い光をあてない」「食べ物を与えない」「追いかけない」「行動をじゃましない」「子どもには近づかない」といった注意事項が書かれている。

《中尾真二》

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