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トラを絶滅から救うための保護活動…寅年特集 vol.3

トラ
  • トラ
  • トラ© Suyash Keshari / WWF-International
  • トラ
  • トラ
  • © Hkun Lat / WWF-US
  • © Julia Thiemann / WWF-Germany
  • トラの生息地図(WWF Tiger Alive Initiative ウェブサイトよりWWFジャパンが作成)© WWF Japan

前回は、トラが激減した原因をご紹介しました。毛皮や漢方薬のための乱獲に森林破壊という、人間の行いによって多くの命が奪われました。およそ1世紀の間に、わずか25分の1(推定値)に減ってしまったことはとてもショッキングです。

そんな状況下、トラを絶滅から救うために行われている活動をご紹介します。

重要な役割を担っているWWF

トラの保護に大きな役割を担っているのが「世界自然保護基金(WWF*)」。絶滅の恐れがある野生生物を救う目的で、1961年に設立された環境保全団体です。現在はスイスの本部を中心に、日本を含む世界80か国の拠点から約100か国で活動しています。

4万頭から2000頭以下に激減したインドのトラ

WWFがトラの保護に乗り出したきっかけは、1969年のことです。絶滅危惧種をまとめた「レッドリスト」を作成している「国際自然保護連合(IUCN)**」が開いた会議で、「ベンガルトラが急減している」との報告がありました。インドには、20世紀の初めごろに約4万頭のベンガルトラがいたそうです。ところが、この時は2500頭ほど。直後にインド政府や周辺国はトラの狩猟を禁止しましたが、1972年の調査では生息数が2000頭以下になっていたことが分かったそうです。

トラトラ

「オペレーション・タイガー」

そこでWWFは、「オペレーション・タイガー」というプロジェクトを開始。100万ドルの資金を投じ、インド政府やIUCNと共に積極的な保護に乗り出しました。23か所の保護区が設置され、ベンガルトラを絶滅寸前の危機から救うことに成功しました。

WWFによると、保護区を設けたことによってインドが失った森林産業収入は1400万ドル(当時)に及んだといいます。経済的損失にもかかわらずプロジェクトを支えた当時のインディラ・ガンジー首相は、「インドで最も美しい動物、トラを犠牲にしてまで、我々は利益を追求しようとは思わない」と、国を挙げての取り組みを行ったそうです。そのおかげで、インドは今でも、世界最大のトラの生息国です。

世界的に広がった保護活動

この動きはベンガルトラの生息域に広く波及し、ネパールでもトラのために3か所の保護区が設けられました。バングラディッシュでも3か所の保護区が作られたほか、「国立野生生物局」の新設や狩猟の全面禁止など、様々な取り組みが行われたそうです。その結果、1980年代のインドでは3000頭以上のトラが確認されるようになりました。ネパールとバングラディッシュでも明らかな効果が見られたそうです。

© Hkun Lat / WWF-US© Hkun Lat / WWF-US

自然保護が人間の生活を豊かに

トラの保護は、一時的な経済損失を超えるメリットももたらしました。自然保護の重要な拠点となったトラの生息地は、世界遺産に登録されました。そうした地域は、国際的な観光地としても注目され、地域経済や国にとっての重要な財産にもなっています。自然を守ることが、人間の生活を豊かにすることにもつながっているのです。

残る課題、絶滅した種も

ベンガルトラの保護が成功する一方で、イランなどにいた「カスピトラ」が絶滅してしまいます。インドネシアでは「ジャワトラ」がいなくなりました。トラの生息域全体で見ると、開発による森林の伐採は止まらず、密猟も行われています。インドでも1990年代には状況が悪化し始め、2008年には国内にいるベンガルトラの個体数が1411頭に再び減少したことが政府から発表されました。

現在の取り組み…生息地域において

WWFは、トラが住む地域の自然を守る取り組みを長期的に行っています。自然保護区を設立し、整備と管理を行うことで生息域を守ります。そのほか、そこで働くレンジャーの育成や漢方薬に重点を置いた違法取引・密猟の監視、生態調査や各国政府の保護施策支援など、その活動は広範囲にわたります。

© Julia Thiemann / WWF-Germany© Julia Thiemann / WWF-Germany

複数の国を巻き込んだ包括的な対策

トラのいる地域をピンポイントで守るだけでなく、複数の地域や国を巻き込んでの活動も不可欠です。トラに国境はなく、生息域がつながっている地域では国と国の間を行き来して生活しています。オペレーション・タイガーでは、インドだけでなくバングラディッシュとネパールが歩調を合わせたことが成功につながりました。

そこでWWFは国際的な協調による取り組みも推進しています。世界中の専門家を集めて「グローバル・タイガー・フォーラム」を発足させ、1994年にはニューデリーで関係各国政府の高官を集めた最初の会合を開きました。このフォーラムでは、トラの生息国である14カ国中、中国、北朝鮮、ラオスを除く11カ国が署名しました。

日本を含む各国のWWFもトラの保護に関する啓蒙活動や募金に努め、資金援助や国際的なPR活動を行っており、現在も「トラに願いを。」と題したキャンペーンを行っています。

トラの生息地図(WWF Tiger Alive Initiative ウェブサイトよりWWFジャパンが作成)© WWF Japanトラの生息地図(WWF Tiger Alive Initiative ウェブサイトよりWWFジャパンが作成)© WWF Japan

IUCNとWWFによる「トラ緊急基金」

環境破壊や密猟以外にも、火災や洪水などがトラに危機を招く場合もあります。1998年、WWFとIUCNは共同で「トラ緊急基金」を設立し、1万ドルを緊急使用できる仕組みを整えました。この年、アムールトラの生息地域で発生した大規模な森林火災では、鎮火活動の費用が捻出されたそうです。また、インドの国立公園が大洪水に見舞われた時にも、ベンガルトラの生息地を保全するのにこの基金が活用されました。

トラサミット

2010年にはロシアで世界トラ保護会議「トラサミット」が開催されました。ウラジミール・プーチン首相(当時)が主催したこの国際会議には、トラの生息地域をもつ13か国が参加しました。その頃には、トラは世界で3200頭しか残っていないと考えられていました。それを、次の寅年である2022年までには倍にすることが目標として掲げられました。このトラサミットを、他のNGO(非政府団体)などと力を合わせて様々な形で支えたのもWWFでした。

このように、WWFやIUCNなどの組織と国際的なコミュニティーが、トラを絶滅から救うために包括的な取り組みを行っています。次回は、今後の課題について考えます。

* World Wide Fund for Nature
** International Union for Conservation of Nature and Natural Resources

参考:IUCN Red List of Threatened Species、「これを読めばトラ博士?!絶滅危惧種トラの生態や亜種数は?」(WWFジャパン)
《石川徹》

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