CCCメディアハウスは、『恋するサル 類人猿の社会で愛情について考えた』を刊行した。著者の黒鳥英俊氏は、上野動物園や多摩動物園で、長きに渡り大型類人猿(ゴリラ、オランウータン、チンパンジー)を担当してきた飼育員。
育児放棄された赤ちゃんチンパンジーを、まったく血の繋がりがないメスが我が子のように育てる。強い握力を持つゴリラが、小さなダンゴムシをそっと優しくペットのように扱う。ときには、飼育員に恋もする。飼育員が困っていると率先して助けてくれるオランウータンもいる。
飼育員といえば、動物の世話を「してあげる」人たちと思われているが、そうではなく、動物に「仕えている」というスタンスで仕事をするのが、彼らと仲良くするコツだという。高度な知能を持つ大型類人猿に対して、私たちは、それでもやはり人の方が賢いと思っている。しかし、彼らの1番身近で過ごす飼育員だった著者は、彼らの方がずっと賢いと思うことがよくあったのだそう。
例えば、言葉を持たないゴリラを納得させようとすると、その場しのぎのごまかしや嘘、先送りは通用しないのだそう。納得するまで、相手としっかり向き合わなければならない。言葉があるせいで誤解し合ったり、揉めたりしてしまう私たちのコミュニケーションに比べると、ゴリラとのコミュニケーションはシンプルだが、心を通わせるという意味においては、ずっと本質的かもしれないという。
大型類人猿と私たちとでは流れる時間が少し違う。それでも、焦らず、支配しようとせず、理解しようとする。種を超えた生き物どうしが仲良くする秘訣であり、これは違う人間同士が仲良くする場合のヒントになるかもしれないと、著者は述べている。