動物のリアルを伝えるWebメディア

競走馬の引退後、その命を支える活動 vol.1 …毎年5000頭ともいわれる引退馬たちのその後は?

動物 福祉・教育
中央で活躍した競走馬にも引退の時はやって来る
  • 中央で活躍した競走馬にも引退の時はやって来る
  • 日本中央競馬(JRA)を引退する馬は毎年5000頭を超える
  • 競馬から引退後は「第二の馬生」に
  • 引退馬協会は競走馬たちの「その後」を支援
  • 「広報部長」のナイスネイチャ
  • 大レースで3年連続3位の「ブロンズコレクター」
  • 「ウマ娘 プリティーダービー」© Cygames, Inc.
  • 「ウマ娘 プリティーダービー」のナイスネイチャ © Cygames, Inc.

REANIMALでは、動物の福祉について現状の課題や今後に向けた提案などをシリーズで紹介している。「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」では、主に繁殖用の犬や猫の飼養環境改善のために最低限の基準を設ける動きがある。自治体も「殺処分ゼロ」に向けた取り組みを行う(訴求する)ようになり、少しずつではあるが動物の命に対する考え方は変化している。

しかし、そうした取り組みの多くは愛玩動物に集中している。今後は、実験動物や家畜など産業動物たちの命についても議論されるべきだろう。今回はその中で、競走馬という存在について考えた。

1年で約5000頭が引退

一般的に、競馬で走る「サラブレッド」は大切にされて暮らし、引退後ものんびり余生を送るイメージを持たれているかも知れない。しかし、現実は想像とは異なるようだ。日本では毎年7000頭ほどのサラブレッドが生まれ、そのうち約5000頭が日本中央競馬会(JRA)に登録される。同時に、ほぼ同数の馬たちがJRAの登録を抹消されている。

日本中央競馬(JRA)を引退する馬は毎年5000頭を超える

日本中央競馬(JRA)を引退する馬は毎年5000頭を超える

引退後、優秀な成績を残した牡馬は種牡馬(しゅぼば = いわゆる種馬)として第二の「馬生」を過ごすことがあるが、数は多くないことが想像できる。地方競馬に転籍する馬もいるそうだ。全体の6割ほどは、障害競技を含めた乗馬用に転向するとも言われている。

競馬から引退後は「第二の馬生」に

競馬から引退後は「第二の馬生」に

しかし、そうした仕事も終わる時は必ずやって来る。その後の行方についての記録は存在せず、ほとんどの馬たちの余生は分かっていない。また、「セカンドキャリア」が見つからない馬たちが、どこへ行くのかも不明だという…。

話題の「ウマ娘 プリティーダービー」

ところで、競走馬と言えば現在、「ウマ娘 プリティーダービー」というメディアミックスコンテンツが話題になっている。スマートフォンなどの携帯端末でプレイする、いわゆる「育成ゲーム」が軸である。実在の競走馬の名前と魂を受け継いだ少女たちが成長し、レースへの出場を目指すという設定だ。ゲームのプレイヤーは個性豊かな「ウマ娘」の中から1人を選び、トレーナーとして二人三脚で勝利を目指す。

「ウマ娘 プリティーダービー」© Cygames, Inc.

「ウマ娘 プリティーダービー」© Cygames, Inc

アニメの第1シーズンは2018年に、第2シーズンは今年1月から3月まで放送された。ほかにも週刊漫画誌での連載やYouTubeなどSNSでの情報発信と多角的に展開している。3年前に始まったコンテンツだが、今年の2月に始まったゲーム配信をきかっけに、大きな話題となっている。Twitter上での言及は、「エヴァンゲリオン」や「鬼滅の刃」といった大ヒット作品と並ぶ盛り上がりを見せているそうだ。

ウマ娘が引退競走馬の余生をサポート

このウマ娘が、意外なところでも活躍している。「引退馬協会」への募金に、大きな貢献を果たしているようだ。この協会は、競走馬の引退後をサポートするNPO(特定非営利活動)法人である。

引退馬協会の「二代目広報部長」が、元競走馬の「ナイスネイチャ」。4月16日に33歳の誕生日を迎えたタイミングで「バースデードネーション(= 誕生日の寄付)」を募ったところ、その日のうちに目標額の200万円を達成した。その後も支援者は増え続け、現在3000万円を超える支援金が集まっている。

「広報部長」のナイスネイチャ

「広報部長」のナイスネイチャ

このナイスネイチャが、ウマ娘にも登場する。ゲームの中では、家庭的で素朴なキャラクターとして描かれ人気が高いという。今回のドネーションが成功した要因には、ゲームやアニメ、および競馬ファンの力が大きいようだ。「この数日、"ウマ娘" に関連して、すごくたくさんの取材を受けました。30年以上(引退馬のサポートを)やっていますが、 “こういうこともあるのだな”と驚いています」(引退馬協会)と、同協会にとっても歴史的な反響のようだ。

「ウマ娘 プリティーダービー」のナイスネイチャ © Cygames, Inc.

「ウマ娘 プリティーダービー」のナイスネイチャ © Cygames, Inc.

実際のナイスネイチャは、90歳のおじいちゃん

ナイスネイチャはJRAのレースで7勝を挙げた名馬だが、最上位の「G1(グレード1)」では未勝利に終わった。その一方で、G1レースの1つである「有馬記念」では3年連続3位という珍しい記録を残した。「ブロンズ(= 銅メダル)コレクター」のニックネームで人気のあった馬である。

大レースで3年連続3位の「ブロンズコレクター」

大レースで3年連続3位の「ブロンズコレクター」

人間でいえば90歳を超える高齢だが、現在も北海道の養老牧場で暮らしている。ウマ娘の影響でバースデードネーションを知った古くからの競馬ファンからは、「ナイスネイチャが生きていることを知って驚きました。うれしい!」といったコメントが多く寄せられているそうだ。

馬にも人にも幸せを、と願う引退馬協会

引退馬協会の前身となる「イグレット軽種馬フォスターペアレントの会」は、1997年に設立された。2013年には認定NPO法人引退馬協会となったが、常に活動の根幹にあるのは、人も馬も幸せな環境の実現をめざす「ハッピーライフプロジェクト」。

設立者でもある沼田恭子代表理事は、「助ける立場であるはずの人間が、助けた馬たちからたくさんの癒しや幸せを受け取っているという確かな手ごたえ」を感じ、20年以上にわたってこの活動に携わっているという。

馬に対しても人に対しても、幸せを願う引退馬協会

馬に対しても人に対しても、幸せを願う引退馬協会

次回は、この引退馬協会の活動について紹介する。また、競走馬の余生という観点から、動物福祉の向上についても考えていきたい。

《石川徹》

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top