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「飼い主が“おかしい”と思ったらまず電話を」…24時間診療の動物病院[インタビュー]

夜間救急診療ではネコが半数を占めるという(写真はイメージ)《画像 iStock》
  • 夜間救急診療ではネコが半数を占めるという(写真はイメージ)《画像 iStock》
  • 林幸太郎 獣医師と撮影に付き合わされてお疲れぎみのミッキー君
  • 苅谷動物病院グループ・江東総合病院
  • 苅谷動物病院グループ・江東総合病院副院長の林幸太郎 獣医師

突然の体調不良に見舞われた時、誰もが一刻も早く医師の診察を受けたいと思うだろう。症状を聞くことができないペットの場合、飼い主の不安は募る。深夜でも救急車を呼ぶことはできない。そんな時に頼りになるのが夜間も開いている動物病院だ。

24時間診療に長く携わっている苅谷動物病院グループ江東総合病院(東京都)副院長の林幸太郎獣医師に、夜間診療の様子や急なケガや病気の際に飼い主が気を付けると良いことなどを聞いた。

猫が増えている夜間診療

----:夜間診療のニーズは高いのでしょうか?

林幸太郎 獣医師(以下、敬称略):多い日には10頭くらいの動物を診察したこともあります。逆にまったく(診察が)無い日もありますが、平均すると一晩で5~6件ほどです。

----:夜はどのような体制ですか?

林:獣医師と看護師1名ずつです。夜間専門の病院と比べると人数は少ないですが、日中も含めた24時間診療という面では飼い主さんにとって安心だと思います。夜の診察後はかかりつけの先生に診ていただく場合もありますが、すぐに入院が必要な症状やオーナー(飼い主)さんが継続治療を望まれる場合は当院でお預かりします。

----:主に犬が多いですか?

林:最近は猫がすごく増えている印象です。犬は多いですが、半数近くは猫だと思います。異物の誤食、膀胱炎や尿道閉塞(おしっこが出ない)といった下部尿路(膀胱~尿道)疾患、下痢や嘔吐などが多いですが症状はさまざまです。フェレットも来ますし、ウサギやモルモット、ハムスターなども初期対応をしています。

緊急手術で救われる命も

----:重い症状が多いのですか?

林:下痢や腰痛といった軽いものもあります。一方でお腹の中の出血や誤食など、緊急手術が必要なケースもあります。腫瘍や脳炎などが原因で、てんかんのような発作がおさまらないといった症状もあります。心不全による肺水腫なども診ることが多いですね。心臓が悪くなって、その影響で肺に水が溜り呼吸が苦しくなる症状です。帝王切開など出産関係や交通事故などのケガもありますし、症状はさまざまです。

----:緊急手術もあるのですね。

林:はい。例えば、「急にぐったりしてしまった」というワンちゃんが来ました。検査で脾臓に大きな腫瘍が見つかり、そこから出血していることが分かりました。お腹の中が血まみれになっていたので、緊急手術で脾臓を摘出したことがあります。

飼い主との距離感が近い夜間診療

----:症状以外にも、夜間診療の特徴はありますか?

林:日中とは違うドラマがあります。特に感じるのは、オーナーさんとの距離感ですね。皆さんとても心配して来られます。そんな飼い主さんと時間をかけてお話することで、仲良くなると言うか、お互いをよく理解できる良さがあります。

以前、普通なら開腹手術が必要な誤食のケースがありました。頑張って内視鏡で取り出せたんですが、あの時は私も感動しました。その感動をオーナーさんと分かち合えたのは嬉しかったですね。少ない人数で対応するので、オーナーさんにサポートしてもらうこともあります。夜間診療は、色々なことを(飼い主と)共有しやすい印象です。

----:夜間診療ならではの難しさもありそうですね。

林:(動物も飼い主も)初めて会うケースが多いので、信頼関係のない状態で緊急対応することになります。獣医師も急いでいますが、オーナーさんも焦っています。事前に十分理解を得ないまま検査などをすると、後でトラブルになることもあります。

獣医師にとって大切なのは…

----:そうした状況を避けるため、注意しておられるのはどんなことでしょうか?

林:とにかく話を聞いて、それから(気持ちを)「くみ取る」ことですね。動物治療で難しいのは、最善な治療を行って元気になっても、さまざまな理由で満足いただけない場合があるところです。夜間の診察では、とにかく話をするようにしています。

危険な状態でも(費用面などをもあり)検査はしないというオーナーさんもいます。そうした場合は、できる限りの処置にとどめることもあります。動物のためを考えればベストな治療をしたいと思うのですが…。逆に、検査の必要はないと私が判断しても、「念のために調べて欲しい」という飼い主さんもいらっしゃいます。「多分大丈夫だと思いますが、検査してみましょう」ということも必要です。

その辺の(飼い主さんの意向との)バランスが難しいですね。動物病院の先生は、皆さんが感じていることだと思いますが。

----:顔見知りの飼い主さんなら分かりやすいですね。

林:そうですね。「(検査を)やって欲しいんだろうな」とか、「その治療はして欲しくないんだろうな」、などと考えながら提案や治療を進められます。その子(動物)の性格や痛みの感じ方なども、初めての子に対しては判断が難しいですね。でも、そこが夜間診療の(獣医師にとっての)醍醐味でもあると思います。

----:先ほどうかがった「感動の共有」に加え、難しさも夜間診療のやりがいですね。

林:オーナーさんは本当に困って来院されます。緊迫感がある場合も多いですが、動物を救うことができれば達成感を感じられます。治療の結果、「良かった」と思ってくださるのをダイレクトに感じられます。

----:私も経験がありますが、いつでも診ていただけるのは飼い主にとって本当に安心です。費用は少しかかった覚えがありますが、あまり気にしない飼い主さんも増えていませんか?

林:夜間診療に限らず、どこに価値を感じていただくかだと思います。検査などは受けさせず、様子を見てお薬だけ出して欲しいという方もいらっしゃいます。一方で、高度な治療を受けさせたいと、設備の整った動物病院を探す方も多いと思います。二次診療専門病院や皮膚科、整形外科、歯科など、専門的な治療に特化した病院が増えているのはそうした要望があるからでしょう。

飼い主の直感を大切に、まずは電話で相談を

----:深夜は病院に連れて行くべきか迷う飼い主もいると思います。経過観察で大丈夫なのか、見極めるポイントはありますか?

林:ポイントを挙げるとすれば呼吸の回数です。普段(1分間に)20回くらいの子が、30回や40回であれば、痛い所がある可能性もあるし、苦しいのかも知れません。舌や歯茎を見て、赤みが少ない場合も相談した方が安心です。でも、一番大切なのは飼い主さんの印象です。近くで見ている人が、「いつもと違う」と感じた時には何かあることがほとんどです。経験的に7~8割は当たっていると思います。素直に違和感を大事にしていただくのが良いと思います。

----:お電話してから来院する方が良いのですか?

林:来ていただくべきかどうかの判断に、状況を理解する必要があります。お電話をいただければ症状を聞けますし、来院までの時間で必要な準備を整えることもできます。(実際に診察せず)電話だけで「大丈夫」とは基本的に言えませんが、「その状況であれば明日の診察でも良さそうです」といった話をすることはあります。

例えば「チョコレートを食べてしまった」というご相談を受けることがあります。食べたのがほとんどカカオが入っていないチョコレート(類似のお菓子)の場合、変わった様子がなければ緊急性は高くなさそうだと言う判断ができます。まずはお電話ください。

----:最後に、飼い主さんにアドバイスをお願いします。

林:繰り返しになりますが、様子がおかしい時は「何かがおかしい」と思ってください。あと、分からないことや不安に思うことは、獣医師に納得するまで聞いてください。お話をしていく中で、「そう言えばこうだった」という情報が診断に役立つこともあります。受身になるのではなく、積極的にお話していただくのが良いと思います。


かかりつけの動物病院が閉まっている深夜などにペットが体調を崩した時、症状によっては飼い主も冷静ではいられないこともあるだろう。そうした場合に備え、時間外に診察してもらえる最寄りの病院を、できれば複数把握しておくのが安心だ。

林幸太郎:獣医学博士/苅谷動物病院グループ・江東総合病院副院長
消化器疾患を中心に、ペットの性格や生活環境に応じた適切な検査・治療を行うことを信条とする。病院で経験する多くの症例に基づき、研究論文の執筆や海外での発表なども行う。若手獣医師の育成にも力を入れ、獣医療全体の発展にも貢献したいと語る。愛犬はトイプードルのミッキーくん。
《石川徹》

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