動物のリアルを伝えるWebメディア

犬の熱中症、多臓器不全による死亡のリスクも…短頭犬種は特に注意、英・専門家グループが注意喚起

短頭犬種は、特に熱中症に注意が必要
  • 短頭犬種は、特に熱中症に注意が必要
  • 夏の屋外では、常に飲み水を用意するのが大切
  • 熱中症は重症になると入院して高度な治療が必要となる

各地で梅雨が明け、35度を超える猛暑日が報告される夏が訪れた。犬はほとんど汗をかくことができないため、飼い主は熱中症に十分気をつけたい。フレンチブルドッグやパグなど、「短頭犬種」は特に暑さに弱いので注意が必要だ。

夏を迎えるにあたり、イギリスの王立獣医学大学(RVC)らのグループが犬の熱中症について注意点と対策を分かりやすくまとめた。その中から、日本でも参考になりそうなポイントを紹介する。

鼻ぺちゃ犬の福祉向上に取り組む専門家団体

いわゆる「短頭犬種(鼻ぺちゃ犬)」は、その特徴的な頭蓋骨の形状によって呼吸器や目に生まれながらの疾患を抱える犬が少なくない。イングリッシュブルドッグの生まれ故郷であり、フレンチブルドッグが現在最も人気の犬種でもあるイギリスでは、「UK Brachycephalic Working Group(筆者訳:英国短頭犬種検討部会、以下BWG)」が鼻ぺちゃ犬たちの健康と福祉の向上に取り組んでいる。この団体は、RVCなどの教育・研究機関や王立動物虐待防止協会(RSPCA)に代表される動物愛護団体などから、獣医療分野を含む専門家が集まって運営されている。

短頭犬種は熱中症のリスクが2倍

周辺温度の上昇により、体温が体の調節能力を超えてしまうと熱中症になる。要するに、体がオーバーヒートしてしまうわけだ。身体からの発熱量や放熱効率などは個体によって異なるが、短頭犬種は平均的に熱中症のリスクが他の犬と比べて2倍と言われているそうだ。ゴールデンレトリーバーのデータと比較したところ、イングリッシュブルドッグの場合14倍、フレンチブルドッグでは6倍、パグは3倍、熱中症のリスクが高いという結果が出たという。

熱中症は、単に脱水症状など一過性のトラブルを引き起こすだけではない。進行すると体内の組織や臓器の損傷を引き起こし、強い痛みや神経系の機能障害に陥る場合もある。イギリスでは、動物病院で治療を行ったケースの11%が死亡しているといわれる。重症で運び込まれた場合、死亡率は57%に及ぶ。

イギリスにおける熱中症の原因で最も多いのが、暑い時の屋外での運動で全症例の74.2%を占めるという。そのほか、環境要因(蒸し暑さ)によるものが12.9%、車内への閉じ込めが5.2%とされている。また、肥満は体の冷却機能低下につながり、熱中症のリスクが高まるそうだ。

激しいパンティングが見られたら早めに対処を

初期症状としては、激しいパンティング(舌を出して「ハアハア」する呼吸)や元気の喪失などが見られる。そのままにしておくと、よだれや嘔吐、下痢などから、意識の喪失へと進行する。早期に適切な対策を講じ、重症化させないことが非常に重要とされている。

対策としては、運動を中止する、日陰に入る、車などの高温環境から移動するなど、まず過熱の原因を取り除く。その上で、風に当てながら体を水で濡らし、可能な限り早く冷やしながら獣医師の診察を受けることが大切だ。なお、水でぬらす場合には、鼻から水を吸い込まないよう注意することが重要だとBWGは注意を促している。また、一般には太ももの内側や首など太い血管が通っている場所を重点的に冷やすのが効果的と言われている。

予防の重要性

迅速な手当が大切なのは言うまでもないが、まず、こうした症状が出ない様にするのが飼い主の役目である。BWGは飼い主が意識すべき予防措置もいくつかまとめている。

- 適切な体重を維持する
- 運動は暑い時間帯と直射日光を避けて行う
- 常に飲み水を用意し、愛犬の様子を見ながら日陰などの涼しい場所で早めに休憩をとる
- 心臓や呼吸器に障害がある場合、夏の散歩や運動については、あらかじめ獣医師に相談する
- 首輪が気道を圧迫して、呼吸やパンティングを妨げていないか注意する。暑い季節の運動時には、ハーネスの使用も検討する
- 犬を残して車から離れない。停車中の車両は内部の温度が急激に上昇し、致命的な熱中症を引き起こす可能性がある。「短時間だから」、「窓を開けてあるから」という考えは危険である
- ドライブに出かける場合、暑い時間帯を避けたり、1回あたりの移動時間を短くしたりする。また、日よけの設置など、直射日光が犬にあたるのを防止する
- 旅行に出かける際は、気温や湿度の地域差を考慮した準備をする
- 家にいる時も含め、エアコンや効果的な換気で温度や湿度を調節し、熱中症の症状に気を配る

夏の屋外では、常に飲み水を用意するのが大切夏の屋外では、常に飲み水を用意するのが大切

日本で人間が病院に運ばれるケースでは、自宅の中で熱中症になった事例が全体の4割を占めるとも言われている。イギリスよりも遥かに気温も湿度も高い日本では、室内にいる時も愛犬の様子には十分な注意を払いたい。

データに基づくイギリスの熱中症診断ツール

RVCは、「The Veterinary Companion Animal Surveillance System(直訳:獣医学的伴侶動物監視システム)」、通称「VetCompass Programme (ベット・コンパス・プログラム)」というシステムでペットの健康管理を改善するための情報収集を行っている。このデータベースを利用した「犬の熱中症に関する診断ツール(筆者訳;VetCompass Clinical Grading Tool for Heat-related Illness in Dogs)」が作られ、獣医師やドッグトレーナーなどペット関連事業従事者に提供されている。以下はその一部を和訳したものだが、犬にとっては暑さが命にかかわる深刻な健康問題に発展するリスクがあることが改めて分かる。

熱中症は重症になると入院して高度な治療が必要となる熱中症は重症になると入院して高度な治療が必要となる

日常生活においては、「熱中症」が重篤な病気というイメージはあまり感じないかもしれない。だがこの様に、複数の臓器不全を起こして大掛かりな治療が必要な場合もあり得る。イギリスでは、熱中症で病院に運ばれた犬の1割以上が死亡している。この季節は、日本でも熱中症で動物病院に担ぎ込まれる犬は多いという。酷暑の夏、飼い主は大切な家族である愛犬たちの命を守るため十分に注意したい。

(出典:Preventing and Moderating Heat-related Illness (HRI) in Dogs
NEW RESEARCH REVEALS HOT WALKS ARE BIGGEST RISK OF HEAT-RELATED ILLNESS FOR DOGS)

《石川徹》

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top