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鱗食魚の右利き・左利きはいつ決まる?…アクア・トト ぎふにて展示、研究成果も紹介

右利き・左利きの明確な鱗食魚「ペリソダス・ミクロレピス」
  • 右利き・左利きの明確な鱗食魚「ペリソダス・ミクロレピス」
  • タンガニーカ湖の魚水槽
  • 研究成果の紹介

アクア・トト ぎふ(岐阜県各務原市)は、アフリカ・タンガニーカ湖に生息する鱗食魚を世界に先駆けて繁殖させ、その成魚を研究成果とともに展示した。

アフリカ・タンガニーカ湖に生息する鱗食性カワスズメ科魚類(Perissodus microlepis、以下、鱗食魚)の成魚は、他の魚の鱗をはぎとって食べる捕食行動において右から狙う右利きと左から狙う左利きがおり、「利き」の動物モデルとして注目されていた。しかし、個体の発達段階のいつ・どのように利きが獲得されるのかは不明で、動物の利きにおいて未だ解明されていない大きな謎となっていた。

しかしこの度、富山大学学術研究部医学系の竹内勇一助教らと、同館の池谷幸樹館長と田上正隆学芸員ら、および名古屋大学の小田洋一名誉教授(現、国際機構特任教授)で構成される研究グループは、この鱗食魚を用いて利きの獲得メカニズムを明らかにした。

研究グループは、人工繁殖で得た鱗食魚の幼魚(4ヶ月齢)、若魚(8ヶ月齢)、 成魚(12ヶ月齢)を用いて、行動実験を実施。発達の様々な時期に鱗食経験をさせ、利き獲得に対する効果を調べた。その結果、本来鱗食を開始する幼魚期の鱗食経験によって襲撃方向と運動能力の右利き・左利きが獲得され、若魚期ではその学習能力が大幅に減少、成魚期から始めた鱗食経験では利きが全く現れなかったという。

鱗食という行為自体は、幼魚から成魚までのいつからでも始められるにもかかわらず、獲物への襲撃方向の好みと利き側での運動能力の優位性の両方は、本来鱗食を開始する幼魚期における経験学習によってのみ獲得されたという。そのことから、利きの獲得能力には感受性期があることを実証した。

また、若魚期では鱗食経験によって獲物への接近速度が増加することも発見。一方で、成魚期での経験は、利きの獲得や捕食成功にほとんど貢献していなかったという。これらの発見により、利きの確立には感受性期があるということだけでなく、異なる発達段階でそれぞれ別の捕食スキルが獲得されることも明らかにした。

この研究成果は、英国科学雑誌「Scientific Reports」(英国時間1月14日付)にて公開されている。公開に合わせてより多くの人々にその存在・現象を知ってもらおうと、共同研究で繁殖を担当している同館にて繁殖個体の展示が開始された。

同館は、「脊椎動物の脳の基本構造は同じため、鱗食魚で利きの仕組みが分かれば、ヒトの利き手を含む動物に共通した利きメカニズムの理解への道が開けると考えている」とコメントしている。

■展示概要
・展示期間:1月17日~
・展示場所:館内2階 「タンガニーカ湖の魚」水槽

論文情報:「Experience-dependent learning of behavioral laterality in the scale-eating cichlid Perissodus
microlepis occurs during the early developmental stage」(Yuichi Takeuchi, Yuna Higuchi, Koki Ikeya, Masataka Tagami and Yoichi Oda、2021)
《鈴木まゆこ》

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