動物のリアルを伝えるWebメディア

飼育水から長いDNA配列の解析に成功、生物研究に新たな可能性…長浜バイオ大学×琵琶湖博物館

絶滅危惧種「イタセンパラ」
  • 絶滅危惧種「イタセンパラ」

滋賀県立琵琶湖博物館は、長浜バイオ大学との共同研究により、絶滅危惧種であるコイ科イタセンパラの長いDNA(5000~8600塩基対)の増幅に成功。そのミトコンドリアDNAの全塩基配列(1万6772塩基対)を初めて決定するに至った。

同研究は、長浜バイオ大学バイオサイエンス学部の掛橋竜祐 特任助教、倉林 敦 准教授、滋賀県立琵琶湖博物館の金尾滋史 主任学芸員らによるもの。

タナゴの仲間であるイタセンパラは、国の天然記念物、および国内希少野生動植物に指定されており、環境省レッドリスト2020において絶滅危惧IA類に位置付けられている希少種。同種をはじめとする希少生物の多くは、絶滅のおそれが非常に高いことから、種によってはその種の保護・保全を目的として、法律や条例により採集や個体の取り扱いが制限されているという。

今回の研究では、このような希少淡水魚の飼育水から環境DNA*を抽出。その環境DNAからPCR法によって、研究対象の生物に全く影響を与えることなく、長いDNAを解析することが可能であると判明した。これにより、様々な希少野生生物を保護増殖・系統保存している動物園や水族館、博物館において、その「飼育水」をはじめとした飼育環境が、新たな種の解明や保全に向けた研究リソースとして活用できることも証明されたという。

倉林敦淳教授は、今回の飼育水から長いDNAの解析が可能であると示された研究成果を踏まえ、DNAレベルの研究の多くが生物に全く影響を与えずに実施可能となったことは、研究者にとっても動物園・水族館・博物館にとっても大変有益だと考えているとコメントをしている。

なお同研究成果は、3月3日に科学雑誌「Journal of Ichthyology」においてオンライン公開されている。

* 環境DNAとは、水や土壌といった環境中に存在する、生物から放出されたDNAのことを指す。近年、環境DNAの技術は目覚ましく発達しており、希少種の分布調査や調査対象の生物の存在量の推定など、広くその技術が活用されているという。なお、DNAは生物から放出されると速やかに分解されることから、通説では、環境DNAから分析可能なDNAの長さは通常数百塩基対までと目されていた。
《鈴木ひとみ》

特集

編集部おすすめの記事

特集

page top