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イギリスの動物愛護事情 vol.10…王立動物虐待防止協会の提言、 野生動物保護のために包括的な法整備を

霊長類のペットとしての飼育は禁止の方向へ
  • 霊長類のペットとしての飼育は禁止の方向へ
  • 誤って罠にかかる動物が被害を受ける
  • 「グルートラップ」は多大なダメージを及ぼす
  • キツネ狩り(イメージ)

「動物福祉のための行動計画」が5月上旬にイギリス「環境・食糧・農村地域省(DEFRA)」から発表された。それに合わせ、世界で最も歴史のある動物保護団体である「王立動物虐待防止協会(RSPCA)」も、政府への提言を行っている。「どんな動物も置き去りにしない(No Animal Left Behind)」と題したレポートについて、2回にわたりペットと畜産動物に関する提案について紹介した(vol.8vol.9)。

最後に、野生動物に関連する主なものを紹介する。RSPCAは、野生生物に関する現在の法律が、内容が複雑で断片的であるとしている。一部は1840年に制定されたものなど、時代に即していないケースもあるそうだ。政府に対しては、法律の全面的な見直しを求めている。

罠の販売・使用の禁止

キツネやウサギを捕獲する罠にウサギや犬、猫がかかり、重傷を負ったり、長期間苦しんだ末に死亡したりすることがある。

誤って罠にかかる動物が被害を受ける誤って罠にかかる動物が被害を受ける

また、99ペンス(百数十円)という低価格で広く普及している「グルー・トラップ」(接着剤を使用したネズミ用の罠)も同様の問題を引き起こす。

「グルートラップ」は多大なダメージを及ぼす「グルートラップ」は多大なダメージを及ぼす

RSPCAは、野生動物を捕獲するための罠は、人道的なものであることが十分に確認されたものだけが使用を許可されるべきだとする。免許制度なども採り入れ、使用者に適切な操作方法を習熟させることも政府に求めている。

「ゲームバード」の繁殖と放鳥の禁止

スポーツとしての狩猟を目的に、イギリスでは毎年6,000万羽以上のキジやウズラが野山に放たれている。こうした鳥の多くは「工業的に大量生産」され、狭いケージに閉じ込められる。劣悪な環境下での飼育により、ストレスを抱えたりケガを負ったりする場合もあるという。

これらの鳥は畜産動物に関連する法律の対象外で、福祉向上のための取り締まり等も行われていない。また、多くが外来種であることから、野生生物への影響も懸念されている。RSPCAは、こうした「ゲームバード」の大量繁殖と放鳥禁止を提言している。

「トレイル・ハンティング」の禁止と狩猟法の強化

2004年に施行された狩猟法によって、犬に獲物を捕獲させる狩りが禁止された。しかし、例外とされた「トレイル・ハンティング」などが違法な狩猟の隠れ蓑となっている。トレイル・ハンティングは、犬が実際にキツネなどの動物を狩るのではなく、尿などの臭いで作った「痕跡」、すなわちトレイルを犬が辿る。これを、獲物の追跡に見立てるいわば仮想ハンティングだ。

キツネ狩り(イメージ)キツネ狩り(イメージ)

「偶然」に犬が獲物に出くわし、捕獲してしまったと主張するケースがあると言われている。2019/20シーズンに、「残酷なスポーツに反対する連盟(League Against Cruel Sports)」が調査した違法と疑われるキツネ狩りは677件にのぼる。そのほか、犬にキツネを追わせ、タカなどに捕獲させることは違法でないなど「抜け穴」が存在する。摘発された場合も、罰金刑のみで十分な抑止力になっていないとも言われる。

イギリス国民の85%がキツネ狩りに反対しており、69%がトレイル・ハンティングなども廃止する法整備を支持している。RSPCAは、免除条項の廃止や禁固刑の導入、違反した場合は土地所有者へも責任を負わせるなど、狩猟法の強化を政府に求めている。

サルのペット飼育を禁止

イギリスでは推定4000~5000頭の霊長類(主にマーモセット、オマキザル、リスザル)がペットとして飼育されている。サルは非常にデリケートな動物で、一般家庭の環境では適切な飼養は難しい。霊長類のペットとしての販売・飼育は、禁止の方向で政府が検討に入っている。

その中に、「動物園レベルの飼育環境基準を満たす場合に限り個人の飼育を許可する」という条項案がある。違法な販売につながる繁殖が行われる恐れがあるとして、RSPCAはこれに異議を唱えている。また、「基準」をチェックすることになる地方自治体の管理能力にも懸念があるとしている。

野生動物の販売・飼育を包括的に見直す

昨年1年間で、「DWA(危険な野生動物)ライセンス」が3951件イギリス国内で発行されている。野生のネコ科動物や毒蛇など、DWAの個人的な飼育は2000年以降増加傾向にあるという。RSPCAは、このトレンドにも警鐘を鳴らす。

特に、イエネコとヤマネコとの交雑に懸念があるとしている。雑種の場合、どのような行動をとるのかが不明で新しい問題が生じるリスクがある。体の大きなオスの野生種と交配することで、妊娠や出産時にメスのイエネコに健康上のトラブルが生じる懸念もある。

RSPCAは、野生動物のペットとしての販売・飼育を包括的に見直し、実効性のある制限を設けるべきだとしている。その際、野生動物の福祉ニーズ、飼い主の適性、野生種の保護、公衆および動物の健康と安全へのリスクなど、多岐にわたる視点からの検討を求めている。

野生動物の商業利用を制限

イギリス政府は、象乗りなど海外で行われている動物福祉に反する活動の広告を禁止する方針を明らかにしている。また、巡回サーカスで野生動物を使用することはすでに違法とされている。

一方で、テレビや映画、イベントなど、それ以外の野生動物利用には規制がない。過去2年間に、野生動物を展示目的で飼育・調教するために発行されたライセンスは400件以上にのぼり、合計1万1400頭以上の野生動物が登録された。RSPCAは、展示やパフォーマンスを目的とした野生動物の飼育・訓練も制限すべきとして、法律の制定を提言している。

「ハンティング・トロフィー」の輸出入禁止

英国政府の行動計画(参考記事)で紹介したように、海外で行った狩猟の記念に獲物の頭部や毛皮を「ハンティング・トロフィー」として持ち込むことがある。政府はこれを違法とする方針を打ち出している。RSPCAはこれに対し、抜け道のない厳格な輸出入の禁止を求めている。

まとめ:政府と共同で世界をリードする動物福祉をめざす

以上、「どんな動物も置き去りにしない(No Animal Left Behind)」レポートについて、これまで3回にわたって紹介した。40項目の提言の最後に、RSPCAによる以下の決意表明がある。

「社会に変化をもたらすことは容易ではない。しかし、何百万という動物たちの、より良い生活のために活動することには大きな価値がある。動物福祉に関する我々の専門知識と科学的知見を提供し、政府と協力して世界をリードする動物福祉を実現する」

全体を通して感じるのは、これまでの政府による取り組みに一定の評価を与えたうえで、さらなる高みに向けて共に努力しようとするRSPCAの姿勢である。現在の法規制における不備や政府の方針への反対意見は明確にしている。それを踏まえ、エビデンスと専門知識に基づいた提案を行い、建設的な共同歩調を取ろうとする意志が感じられる。

「イギリスの動物愛護事情」シリーズで紹介したように、この国にも独特の課題は存在する。しかし、包括的に動物の福祉を考えた本提言については学ぶべきところも多いと言えるだろう。

《石川徹》

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