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イギリス政府が動物の福祉と保護に関する行動計画を発表

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  • 「Action Plan for Animal Welfare」冊子は20ページにわたる

イギリスの環境・食糧・農村地域省(Department for Environment, Food & Rural Affair:DEFRA)が5月12日、「動物福祉のための行動計画(Action Plan for Animal Welfare)」を発表した。これは、ペットや畜産動物、野生動物を保護するための幅広い取り組みをまとめたものだ。翌日の5月13日には「動物福祉(感覚)法案(Animal Welfare [Sentience] Bill)」も国会に提出され、「動物感覚委員会(Animal Sentience Committee)」に関する検討が始まった。動物は人間同様、感覚を持った存在である。この委員会は、国の政策が動物の福祉にも配慮して議論されるよう設置されるものだ。動物の福祉は、今後、イギリス政府の政策決定に大きな影響を与えることになりそうだ。

愛玩動物に関しては窃盗と密輸防止を強化

愛玩動物に関しては、猫へのマイクロチップ装着の義務付けや、電気刺激によって犬を訓練する首輪の使用禁止などが盛り込まれている。また、政府直轄の検討チームが設けられ、犬などの窃盗を取り締まる対策が早急に検討される。イギリスでも、コロナ禍の中でペットの需要が急増している。これにともない盗難も激増し、社会問題化しているそうだ。同様の背景から子犬の密輸も増えており、輸入規制も強化される。

野生動物は海外も視野に入れた対策

野生動物については、霊長類をペットとして飼育することや、違法なウサギ狩りを取り締まる法律の制定をめざす。また、国内および海外の保護プロジェクトへの資金提供を行うとしている。そのほか、象牙販売やフカヒレの輸出入を非合法化するとともに、フォアグラの販売も禁止を検討する。

対策はイギリス国外での行為にも及ぶ。海外で行われている象に乗る観光など、動物福祉に反すると思われる行為を国内で宣伝することが禁止される。またイギリスでは、海外で狩猟(ハンティング)を行い、記念に獲物の頭部や毛皮を「ハンティングトロフィー」として持ち込むケースがあるそうだ。これについては、絶滅危惧種において禁止される方向のようだ。

畜産動物についても幅広い配慮

肉やミルク、卵など人間の食料のために飼育される動物についても、福祉の向上のため以下の方針が掲げられている。

・肥育や屠殺のための生きた動物の輸出を廃止
・動物福祉の向上につながる新たな輸送手段の導入を検討
・家畜が野犬等に襲われる被害を防ぐため、警察の権限を強化
・現在使用されている家禽類のケージや豚の分娩箱について(是非を)検討
・屠殺時の動物福祉の向上をはかる
・畜産動物の健康と福祉向上促進のため、畜産家へのインセンティブを検討

「Action Plan for Animal Welfare」冊子は20ページにわたる「Action Plan for Animal Welfare」冊子は20ページにわたる

EU離脱を好機に

これらの改革を実現するため、政府は一連の法案を順次提出していくとしている。また、非立法的な変更も今後数ヶ月に行われる予定で、今年中に多くの規制導入が予定されている。イギリスは昨年の12月31日をもってEUを離脱した。DEFRAはこれを好機ととらえ、「動物福祉基準をさらに強化するための新たな自由を手に入れた」と表明している。

動物福祉については独自の課題も

これまで紹介したように、動物福祉先進国のイメージがあるイギリスにも課題は少なくない。「パピーファーム(アメリカでは一般にパピーミルと呼ばれる)」における劣悪な環境での犬猫の飼育は社会問題となっている。以前、「イギリスの動物愛護事情 vol.1…ペット取引の驚くべきダークサイド」で紹介したような、偽装家族による子犬や子猫の違法販売は非常に悪質なものといえる(参考記事)。

また、ハンティングトロフィーや違法なウサギ狩りなどが日本で大きな問題になることは考えにくい。さらにイングランドでは、深刻な動物虐待に対する罰則が不当に軽い問題が続いている。法改正が決定したとはいえ、解消はこの夏になる予定である(参考記事)。

幅広い取り組みからは学ぶべき点も多い

一方で、やはり動物福祉に関しては見習うべき点も多い。採卵用の鶏を「バタリーケージ」で飼育することを世界に先駆けて2004年から禁止している。日本を含む世界で広く採り入れられている飼養方法だが、金網で囲まれた最小限のスペースに収容されるため鶏の行動が極端に制限される。動物福祉の観点からは先進各国で批判が高まり、現在EU諸国やアメリカ、オーストラリアなどの一部では廃止されるとともに、OIE(世界動物保健機関)も「容認しない」という基準案を出している。

2019年には、警察犬や警察馬など使役動物の保護を強化する法律も施行された。例えば警察犬が犯罪者の追跡中に怪我を負わされた場合、加害者による正当防衛の主張を認めないなどとするものである。これは、警察犬「フィン」が、被疑者確保の際に胸から頭にかけて複数の刺し傷を負わされたことがきっかけとなって成立した法律で、通称「フィン法」と呼ばれている。

また同年、サーカスで野生動物を使用することが非合法化された。そのほか、犬へのマイクロチップ装着義務化にもいち早く取り組んでいる。昨年には「ルーシー法」(参考記事)の施行によって、登録ブリーダー以外の第三者が子犬や子猫を販売することを禁止しパピーファームの撲滅を目指している。

地球規模の視点から動物福祉向上を考える姿勢

今回イギリス政府が発表した「動物福祉のための行動計画」の根底には、動物の福祉と人間の福祉および地球環境は相互に依存しているという考えがある。世界最古の動物保護団体である「王立動物虐待防止協会(RSPCA: The Royal Society for the Prevention of Cruelty to Animals)」も、人、地球、動物、食品、健康の間には循環的なつながりがあることを理解することが大切だとしている。RSPCAが「One Welfare(1つの福祉)」と呼ぶこのアプローチは、動物福祉を重視することが、人間も含めた地球規模の問題解決につながるとしている。

動物の健康と幸せの向上に向けた施策を考えるにあたり、このように地球規模の包括的な視点からアプローチする姿勢には見習うところが多いだろう。日本でも、6月1日から「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」に関連する新しい環境省令の施行が始まる。国ごとに事情は異なるが、日本の動物福祉も世界に向けて恥ずかしくないものとなることを期待したい。

《石川徹》

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