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イギリスの動物愛護事情 vol.9 … 王立動物虐待防止協会の提言、畜産動物の福祉向上には世界的な視点も

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イギリス政府から発表された「動物福祉のための行動計画」に合わせ、「王立動物虐待防止協会(RSPCA)」も、動物の保護と福祉の向上に向けた提言を行ったことを前回紹介した。包括的にまとめられた「どんな動物も置き去りにしない(No Animal Left Behind)」レポートでは、ペットだけでなく野生動物や家畜の福祉についても触れられている。

合計で40にのぼる提案のうち、今回は畜産動物に関する主なものを紹介する。

「分娩箱」の廃止は6年後

RSPCAによると、イギリスでは年間1600万頭以上の畜産動物が檻の中で飼育されている。ケージでの飼育は動物福祉に悪影響を及ぼす「非人道的」なものとして、法律による禁止を訴えている。特に、養豚場で使用されている「分娩箱」の問題を指摘している。

出産用の母豚は金属製の檻で飼育される。豚が動けるスペースは制限されるが、年間およそ20万頭が生産効率のためにこうした方法で飼育されている。この分娩箱は法規制によって廃止されることが決まっているが、2027年までの猶予措置が取られている。新しい法規制の施行に猶予期間が設けられることは珍しくないが、母豚たちの福祉向上にはまだ時間がかかるようだ。

ニワトリのケージ飼育は2026年から禁止

イギリスで消費される鶏卵は年間130億個を超え、そのほとんどは国内で飼育されている5700万羽のニワトリが産んだものだ。以前紹介したように、イギリスは世界に先駆けて「バタリーケージ」の使用を禁止している(参考記事)。しかしながら、RSPCAによれば現在使用されているケージでも1羽あたりのスペースはA4サイズの紙1枚分にも満たないという。動き回ったり、運動したり、自然な行動を自由に行うことは難しい。

ニワトリのケージ飼育は、豚の分娩箱よりも1年早い2026年には完全に廃止することになっている。大手スーパーマーケットは、ケージ飼育されたニワトリが産んだ卵の販売を、2025年までに廃止する声明を出しているという。

肉用のニワトリ

ニワトリは肉としても大量に消費され、イギリスでは毎週2000万羽が処理されているという。非常に早く成長するよう遺伝的に選別された繁殖が行われており、そのほとんどは孵化後35日で肉として商品化できるそうだ。我々が日本で日常的に食べているトリ肉も短期間で出荷できるように創り出された品種のものだが、日本の農林水産省によれば「通常ふ化して50~56日で出荷」とされている。いわゆる「地鶏」の場合、出荷まで110~150日をかけて育成する。イギリスでは食肉用のニワトリが、急速な成長を強いられているのが分かる。

このような不自然な急成長によって、脚や心臓、循環器系などに深刻な問題を抱える傾向が見られるそうだ。RSPCAの調査によると、死亡のリスクが2倍、重い脚の障害で殺処分される確率が3.5倍、胸の筋肉細胞が硬化する「木胸(Wooden Breast)」を罹患する割合は23倍にのぼっている。RSPCAは政府に対し、福祉度の高い品種の使用のみを許可するなど、養殖場で育てられるニワトリを保護するための法律を導入することを求めている。

消費者に向けた正確な情報提供

RSPCAの提言は加工食品にも及ぶ。動物を原材料とする食品には、生産方法をラベルに明示することを義務付けるよう求めている。消費者には、購入する食品がどのように飼育された動物から作られているのかを知らせる必要があるという。それによって、福祉的な飼育や製品の付加価値に対する消費者の意識が高まるとRSPCAは主張する。

ユーザーの「見る目」が養われれば、農家も高品質な食品の生産に努めるようになる。結果として、動物福祉の向上につながるだろう。この夏には「環境・食糧・農村地域省(DEFRA)」が法整備に向けた協議を開始するとされており、RSPCAは歓迎の意を表している。

国際的な動物福祉に関する取り組み

RSPCAは、貿易方針にも動物福祉の観点から提言している。外国には、イギリスの基準を満たさない環境で畜産動物を飼養するケースも少なくない。RSPCAは、そうした環境で生産された製品を取り扱う可能性のある貿易協定を締結すべきでないとしている。他国との取引において、イギリス基準をどう守っていくかについて、政府は枠組みを明確にする必要があると訴えている。

さらに国際的な動物福祉基準の引き上げについても、イギリス政府が積極的な役割を果たしていくべきだとしている。WTO(世界貿易機関)、OIE(国際獣疫事務局:動物衛生や人獣共通感染症に関する国際基準の策定等を行う機関)やFAO(国連食糧農業機関)など国際的な機関において、世界各国と協力し福祉基準の引き上げ推進に取り組むことを求めている。

フォアグラの販売禁止

フォアグラは、アヒルやガチョウを拘束して強制的に餌を与え、肝臓を通常の10倍ほどに肥大させてつくられる。深刻で不必要な苦痛を与えるとして、イギリスでは動物福祉法によって生産が禁止されている。RSPCAは、フォアグラの輸入および販売も禁止すべきだとして政府に法規制を求めている。

EU離脱を好機と捉え、RSPCAはより包括的な戦略策定を提案

このほか、食肉処理などを目的とした生きた家畜や馬の輸出廃止を早急に実現すべきとしている。また、家畜の運搬時間や方法についても、種類ごとに詳細な提言がなされている。家畜の遺伝子操作や苦痛を伴わない処理方法などについても、慎重な検討を求めている。

イギリスは、EUからの離脱に伴って独自の農業制度を策定していくことが可能になった。RSPCAはこれを好機と捉え、畜産動物に対しても福祉のさらなる向上を政府に求めている。また、彼らの提言はイギリス国内の課題だけでなく、他国との貿易や世界的な姿勢にまで及んでいる。動物福祉に対して、このように包括的に取り組む姿勢は日本を含む他の先進国も学ぶものが多いのではないだろうか。

《石川徹》

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