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イギリスの動物愛護事情 vol.8…王立動物虐待防止協会が動物福祉の向上へ40の提言、「どんな動物も置き去りにしない」

「王立動物虐待防止協会(RSPCA)」が、動物の保護と福祉の向上に向けた提言を行った
  • 「王立動物虐待防止協会(RSPCA)」が、動物の保護と福祉の向上に向けた提言を行った
  • 「いかなる動物も取り残さない」という意味のタイトルがついた冊子
  • イメージ
  • 断耳は犬に大きな負担をもたらすとして「残虐な行為」とされる
  • パグ(画像はイメージ)
  • スコティッシュフォールド(画像はイメージ)
  • 「多くの団体の数百人にわたるスタッフとともに作成した」RSPCAの提言

先日紹介したように(参考記事)、イギリスでは「環境・食糧・農村地域省(DEFRA)」が中心となり、政府から『動物福祉のための行動計画』が発表された。

それに合わせ、同国の「王立動物虐待防止協会(RSPCA)」も、動物の保護と福祉の向上に向けた提言を行った。『どんな動物も置き去りにしない(No Animal Left Behind)』と題したこのレポートは、DEFRAの行動計画と同様に包括的にまとめられている。

提言は愛玩動物、畜産動物、野生動物の福祉と自然保護の観点から40項目にのぼる。REANIMALでは、そのうちの主なものを3回に渡って紹介する。初回は、主に愛玩動物に関連するものを取り上げる。

「いかなる動物も取り残さない」という意味のタイトルがついた冊子「いかなる動物も取り残さない」という意味のタイトルがついた冊子

ペットの窃盗対策が急務

新型コロナウイルスのパンデミック以降、イギリスではペットの盗難件数が70%増えたと言われており社会問題化している。これはロックダウン期間中のペット需要が引き金となり、子犬価格が高騰したことが原因と考えられている。2020年3月には970ポンド(約15万円)だった子犬の平均価格が、今年1月には2000ポンド(約30万円)を超えているという。

一方、犬の窃盗事件のうち解決に至ったのは1%以下にとどまる。RSPCAは、この問題の解決は緊急を要するとして政府に積極的な対策を求めている。『動物福祉のための行動計画』にもあるように、イギリス政府も深刻さを認識しており、政府直轄の対策チームを立ち上げて調査を始めた。RSPCAは「専門のタスクフォースを設置して、この犯罪に取り組む政府の決意を歓迎します」と評価している。

ペットの密輸防止に向けても共同歩調

EU域内の規則に合わせるため、イギリスでは2012年にペットの移動に関する規制が緩和された。10か月齢以上でなければならなかった子犬の持ち込みが、15週齢から可能になった。RSPCAは、この規制緩和が子犬の密輸につながっていると主張する。また、違法に持ち込まれる子犬は健康状態に問題を抱えるケースも多く、犬たちの福祉が大きく損なわれているとしている。

2015年以来、違法に輸入された子犬は摘発されただけでも1500頭に上る。小売価格に換算すると、300万ポンド(約4億6000万円)を超える。また、海外から持ち込まれた猫も、2011年の8280匹から2019年には3万1890匹と大幅に増加している。

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この問題にも、政府は解決に向けた姿勢を見せている。政府の行動計画では、「子犬の密輸や低福祉のペットの輸入という、忌まわしく残酷な行為をなくすために子犬の密輸を取り締まるための法律を制定する」としている。具体的には、輸入(販売目的でない持ち込みも含む)することができる犬の最低年齢引き上げと、妊娠中の犬の持ち込み(目的を問わず)制限が検討されている。

これに対しRSPCAは、輸入する子犬・子猫の最低月齢を6か月に引き上げるとともに、違法行為に対する罰則を強化する法律の制定を提案している。結論はこれからだが、いずれにしても子犬・子猫の福祉向上に向けて早急な対策が講じられそうだ。イギリス政府は「(これまでも)悪質な業者によって持ち込まれた動物を保護し、取引を防止するために行政機関やNGOと緊密に協力してきた」と、この問題に対して官民が一枚岩であることを強調している。

断耳の全面的な禁止に向けて「抜け穴」をふさぐ

「ピットブルタイプ」(参考記事)やドーベルマンピンシャー、シュナウザーやテリアの一部など、伝統的に耳の一部を切り取る形成手術を行う犬種がある。過去にはある程度の機能的な理由もあった断耳(だんじ)だが、今日では単なる美容整形であり「医学的には不必要な手術」とされている(参考記事)。

断耳は犬に大きな負担をもたらすとして「残虐な行為」とされる断耳は犬に大きな負担をもたらすとして「残虐な行為」とされる

RSPCAは「この忌まわしく痛みを伴う行為は、犬の行動や福祉に深刻な悪影響を及ぼす」と批判している。既にEUとイギリスで犬の断耳は禁止されているが、法規制のない国からの輸入・販売を取り締まる法律はない。断耳された犬に関するRSPCAへの通報は、2015年から2020年の間に6倍以上に増えており、イギリスでは「美容整形」を施した犬が好まれる傾向があるようだ。

RSPCAは、手術だけでなく断耳された犬の持ち込みや販売も禁止すべきだとして署名活動を続けており、今回の政府に向けた提言の中でも訴えている。DEFRAの行動計画にも「断尾や断耳された犬の輸入(個人的な持ち込みも含む)禁止」の検討が明記されており、ここでも動物愛護団体と政府との間でコンセンサスがとれている。

繁殖についてはRSPCAが政府の先を行く

イギリスには猫のブリーディングに関する規制が存在しない。その結果、劣悪な環境下で繰り返し出産させられている猫や健康上の問題を抱えて生まれる子猫がいる。RSPCAは、繁殖の年齢や出産回数に上限を設けるなど、猫の繁殖についても制限を加えるべきと提案している。

また、極端な身体的特徴を有する品種の繁殖についても規制が必要としている。猫ではスコティッシュフォールド、犬ではパグやフレンチブルドッグなどの人気が高く、イギリスでは個体数が急激に増加している。ただし、特徴的な形状が「動物たちに苦しみを与えたり、しばしば寿命を縮めたりする場合もある」として、これらの品種に関しては商業ブリーディングの廃止を訴えている。

パグ(画像はイメージ)パグ(画像はイメージ)

スコティッシュフォールドの特徴であるたれ耳は軟骨の形成異常によるものであり、関節などにも慢性的な痛みを伴う異常が生じるリスクが高い。短頭犬種は、「短頭種気道症候群」とよばれる呼吸器系の重篤な疾患や目のトラブルに悩まされることが多く(参考記事)、繁殖を続けることは動物の福祉に反すると主張する。

スコティッシュフォールド(画像はイメージです)スコティッシュフォールド(画像はイメージ)

日本の「動物の愛護及び管理に関する法律(= 動物愛護法)」についての記事でも今後の課題として紹介した問題だが、これに関してはイギリスでもまだ手付かずのようだ。政府の行動計画には、猫やこうした品種の繁殖については一切触れられていない。「ヨーロッパの動物愛護事情」シリーズで紹介したように、短頭犬種の福祉向上に関してはオランダが遥か先を行っていると言える(参考記事)。

動物保護団体と政府が一枚岩

以上は、RSPCAによる40の提言のうち、愛玩動物に関するものの一部をまとめたものである。動物の福祉については、やはり、日本よりも大きく進んでいる部分は多い。一方で、ペットの盗難や密輸などイギリス独特の課題があることも分かる。

動物の福祉に限定されないが、それぞれの国には良い面・悪い面が存在する。重要なのは、いかに効果的に課題を解消していくかだろう。この提言作成にあたり、RSPCAは50近い動物福祉団体の数百人におよぶスタッフや専門家と検討を重ねたという。

「多くの団体の数百人にわたるスタッフとともに作成した」RSPCAの提言「多くの団体の数百人にわたるスタッフとともに作成した」RSPCAの提言

RSPCAの『どんな動物も置き去りにしない』提言は、政府の『動物福祉のための行動計画』と多くの面で歩調が取れている。多くの動物保護団体と政府が一枚岩になった体制によって、イギリスの動物福祉は一層向上していくだろう。こうした姿勢は、日本においても見習うべきではないだろうか。

《石川徹》

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