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ヨーロッパの動物愛護事情 vol. 2…オランダの動物福祉、短頭犬種の健康を守る法律とは

鼻孔が狭い個体も多い
  • 鼻孔が狭い個体も多い
  • パグ
  • 愛らしさで人気のパグ
  • オランダの街・ユトレヒト
  • イングリッシュ・ブルドッグの独特の愛らしさが疾患につながることも…
  • 鼻孔が「オープン」な場合
  • マズルと頭骨の比率はこの長さを比較する
  • 短頭犬種は鼻の上の皺が目に干渉するケースもある

前回、オランダ政府が動物福祉の観点から、短頭犬種(「鼻ぺちゃ」犬)20種においてマズルの短かすぎる個体を繁殖に使うことを法律で禁じたと紹介した。今回は、その背景と法律の概要をまとめた。

「鼻ぺちゃ」の受難

短頭犬種の場合、鼻が極端に短く顔の横幅が広い形状によって、様々な疾患を発症する傾向がある。オランダ政府から依頼を受けたユトレヒト大学の報告では、大きく分けて呼吸器と目に関する2つの問題に言及している。

パグ

「短頭種気道症候群」

運動時などに生じるいびきに似た呼吸は、鼻の穴が充分に開いていない状態や、鼻腔(鼻の奥の空洞)や喉にかけての構造的問題で呼吸がスムーズに行えないことが原因となる場合が多い。また、肉球以外から汗をかかない犬は、マズル内の空間が放熱に大きな役割を担っている。ところが短頭犬種の場合、このスペースが小さすぎるために体熱を十分に放散できず熱中症にも罹りやすくなる。

こうした呼吸器系の様々なトラブルは「短頭種気道症候群」呼ばれており、生活の質が低下する原因となるだけでなく、突然死にもつながり得るといわれている。

「BOS (= 直訳:短頭種眼球症候群)」

もう1つのトラブルは、「BOS (= 直訳:短頭種眼球症候群)」と呼ばれるもので、眼窩(眼球が収まる頭蓋骨の穴)が浅すぎるため目に様々な悪影響が出るものである。正常な位置よりも前に突き出してしまう「眼球突出」や、過剰に広い眼瞼裂(がんけんれつ:目を開けた時の上下まぶたの間隔)、目を完全に閉じられない「兎眼症」(とがんしょう)などが主なものである。

ユトレヒト大学の報告によると、これらの影響で角膜が傷つくリスクが高いそうだ。同時に、まばたきが完全にできず眼球の表面が乾燥するために角膜潰瘍(目の表面にできるキズ)を発症する危険性が5~20倍にも上がるとのことだ。そのほか、逆さまつげや角膜の色素沈着に加え、頭や首の皮膚をつまんだ時に眼球が飛び出だしてしまう事故もあるなど、短頭犬種の頭蓋骨形状が眼にも大きなリスクをもたらしている。

オランダの「動物飼育令」第3条・4項

こうした苦痛を減らし短頭犬種の福祉を守るため、オランダ農業相が熟慮の上で施行を決めたのが動物飼育令・第3条の4項である。今後、短頭犬20種においては以下の6項目を全て満たしていない個体をブリーディングに使うことが禁止される。

1.呼吸:安静時に通常でない呼吸音がしないこと
2.鼻孔:鼻の穴が(きちんと)開いていること(妥協案:適度に空いていること)
3.マズルの長さ:頭の長さとマズルの長さの比が0.5以上であること(妥協案:0.3~0.5)
4.鼻の上の皺:無いこと(妥協案:皺が目に触れないこと)
5.白目:犬に正対した際、眼窩の浅さに由来する白目の露出がない、または1/4以下であること
6.まぶた:目を閉じた時、完全に閉じること
(オランダ・ケンネル・クラブによる資料「マズルの短い犬種用項目」独自に和訳したもの。詳細は画像参照)

マズルと頭骨の比率はこの長さを比較する

ただし、この動物飼育令には経過措置が設けられ、当面の間はオス・メスどちらか1頭に限り、2~4の項目のうち1項目が完全には条件を満たしていない場合(上記の「妥協案」)でも、交配が認められる場合がある。

また現在のところ、この法律はオランダ国内での交配にのみ適応される。同国で飼育されている例えばパグ犬のうち約7割が国外からの輸入によるものであるため、短頭犬種全体の福祉向上に即時つながるわけではなさそうだ。しかしながら、ベルギーに本部を置く「国際畜犬連盟(FCI)」も、その創立メンバーであるオランダ・ケンネル・クラブとともに状況の積極的な改善意思を示しているという。

「Pedigree Dogs Exposed」のJemima Harrisonディレクターによると、オランダ・ケンネル・クラブはボストンテリア、狆、キングチャールズ・スパニエル、ペキニーズやシーズーを含めた12犬種について、基準に当てはまらない交配の場合は血統証を発行しないことを既に決めたそうだ。

ボストンテリア

日本がオランダに学ぶべきこと

その愛らしい姿で世界的に人気の高いパグやフレンチ・ブルドッグなどの短頭犬種たちが、より健康で幸せな「犬生」を送れる環境を整えるという、オランダ政府の英断は画期的なものと言えるだろう。

日本の場合、トイプードルやチワワなどの人気小型犬種では、商業的理由から身体の小さい個体が意図的につくられる傾向にあるという。頻発する膝蓋骨脱臼などは、そうした状況が一因でもあると言われる。日本でも、オランダの動物飼育令のような考え方が必要な時に来ているのではないだろうか。

日本で望まれる関節の丈夫なトイプードル

《石川徹》

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