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ヨーロッパの動物愛護事情 vol.3 … ベルギーでスコティッシュフォールドの繁殖と販売が禁止へ

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2021年10月1日より、ベルギーのフランドル地方ではスコティッシュフォールドなどの折れ耳の猫の繁殖と販売が禁止されることが当局から発表された。

愛らしい容貌で人気の猫に専門家は異議を唱える

スコティッシュフォールドは、前方に折り畳んだような特徴的な耳が可愛らしく、世界中でファンの多い猫である。アメリカでは歌手のテイラー・スウィフトなどセレブリティの影響もあり人気が高いそうだ。独特の見た目によって、日本でも愛好家が多い。

しかしながら、イギリス獣医師会や欧州愛玩動物獣医師会連盟(FECAVA)などの専門家は繁殖を行うべきでないとの立場をとっている。また、イギリスで最も大きな猫の血統登録機関(GCCF)ではスコティッシュフォールドの繁殖を認めていない。

生涯痛みを抱える遺伝性疾患

この猫の折れ耳は、軟骨の変形により耳を支えられないためのものだ。遺伝子の変異によって引き起こされる、骨軟骨異形成と呼ばれる軟骨の形成不全が原因であることが分かっている。軟骨の形成異常は耳にとどまらず、関節など体の他の場所にも発生する。

その結果、脚が曲がるなどの異常が出たり、体に痛みを伴ったり、動きに問題が出たりする。個体によって症状の出る部位や深刻さは異なるが、脚が不自由になるなど重度のケースもあるそうだ。治療法はなく、この遺伝子を持つ猫の交配を避ける以外に回避手段はない。

ペットの「生活の質」よりも見た目を優先

痛みを伴う重大な病気を引き起こすことがわかっている遺伝子変異をもっているため、繁殖を続けることには倫理的な問題があるとする専門家が多い。イギリス獣医師会によれば、すべてのスコティッシュフォールドがこの遺伝子を持っており、関節炎などの病気を発症して痛みは生涯続くという。「ペットの生活の質よりも見た目を優先させていることの一例」として、繁殖はやめるべきだとしている。

とはいえ、アメリカではその人気により繁殖が盛んに行われている。イギリスでも、GCCF以外の団体は登録を受け付けている。日本の場合、「“命の商品化”を考える vol.19」で紹介したように、「動物の愛護及び管理に関する法律(= 動物愛護法)」に関する議論の中でわずかに触れられるようになった。しかしながら、スコティッシュフォールドを含む品種改良や遺伝性疾患といった課題について、「国民的な議論を進めていくことが必要である」とされてはいるが、具体的な動きはまだ見られない。

動物福祉を優先したベルギーの画期的な決定

そんな中、繁殖と販売を禁止するベルギー(フランドル地方)の決定は画期的なものと言える。現在妊娠している母猫は63日以内に出産する。したがって、12週齢を過ぎた子猫は9月30日まで販売することはできる。だが、2021年10月1日以降は販売が禁止されるため、今後は新たな繁殖を行うことは認められない。

すでに飼育されている猫については問題ないが、10月1日以降、その猫を販売することは禁止される。無償譲渡も違法とされているのは、法の抜け道を塞ぐためだと考えられる。

日本の動物愛護法にも遺伝的疾患撲滅を期待

今後、この決定が他の欧州諸国やイギリスなどにどのような影響を与えるか、注視していきたい。「ヨーロッパの動物愛護事情 vol.1で紹介したように、オランダではフレンチブルドッグやパグなどの「短頭犬種」について、鼻の低すぎる個体を繁殖に使うことを禁止する法律が昨年施行された。これも、動物の健康に重大な問題を引き起こす遺伝的疾患の撲滅に向けた取り組みである。隣国同士で歴史的なつながりも深いベルギーとオランダが、犬と猫の遺伝的疾患に積極的に取り組んでいる。

日本でも、品種改良や遺伝性疾患について、環境省が言う「国民的な議論」が、1日も早く実現することに期待したい。



スコティッシュフォールド:1960年初頭にスコットランドの農場で発見された。地元の愛猫家が繁殖を開始し1966年には英国のGCCFに登録。しかし、1970年代初頭に聴覚など耳の障害に関する懸念により登録を中止。アメリカには1970年に研究目的で送られたのが最初とされる。その後、ペットとして飼われるようになった。
《石川徹》

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