動物も体調を崩しやすい季節の変わり目がやってきた。前回は、犬の胃腸病に関して日頃から注意したいポイントを紹介した。今回は猫について、ペットの消化器系疾患に詳しい京浜どうぶつ医療センター(東京都品川区)の林幸太郎院長に聞いた。
猫も誤飲・誤食には注意
----:犬の場合、最近は人間の解熱鎮痛剤を飲んでしまうことが増えたとのことでした。猫の誤食ではどんな傾向がありますか?
林幸太郎院長(以下、敬称略):猫は紐(ひも)状の物が好きな傾向があります。ビニールや紐で遊んで、間違って飲み込んでしまうことがあります。長い物が多いですが、最近の傾向としてマスクの紐の誤食が見られます。
----:家の中にいても犬より行動範囲が広いので、異物の誤食は飼い主さんもはっきりしないケースがあると思いますが…。
林:誤食「したかも」と来院されることがあります。判断が難しいですが、金属製の物などはレントゲンに写ります。写らない場合や腸に詰まっている物などは、超音波検査(エコー)で確認します。飼い主さんが「間違いなく飲み込んだ」という場合には、レントゲンやエコーで明確なものが見つからなくても内視鏡検査を行うこともあります。設備がある病院ではCTを撮ることもありますが、麻酔をかけることが多いのでリスクもあります。
----:毛玉を吐くのは心配ありませんか?
林:猫が毛玉を吐くのは、食べた物を腸に流し込む胃の収縮力が弱いからです。消化できない毛を、便として排泄できないから吐くというメカニズムです。犬は胃の収縮力が強いので、毛玉状のものがあってもグッと腸に押し込めます。
----:毛玉を便に流すサプリメントは使っても大丈夫でしょうか?
林:悪くないと思います。サプリメントはワセリンやパラフィンで流れを良くしてくれるので、それだけで嘔吐がなくなる子もいます。特に長毛種の猫には効果的だと思います。多少、便が柔らかくなることもありますが、それ以外は特に悪い影響が出ることがないので使いやすいと思います。そのほかには、食物繊維の多いものを食べさせて、毛を絡めて便として出させる方法もあります。
子猫時代は感染症に注意
----:猫も犬同様、動物病院を受診する際の症状としては嘔吐や下痢などが多いのでしょうか?
林:多いと思います。来院する症状としては、嘔吐や下痢が上位ですね。
----:犬に症例が増えている膵炎ですが、猫もかかることはありますか?
林:あります。犬よりは症例が少ないですが、これは猫の方が診断が難しいからかもしれません。以前、私が診察した数年分の症例数をまとめたことがあります。犬では200数十例、猫は80例ほどでした。犬と猫では全体の飼育頭数も違うので単純な比較はできませんが、猫の膵炎は犬ほど多くないだろうと思います。
----:そのほか、消化器系の病気で特に猫に多いものはありますか?
林:若い猫には感染症が多いですね。ジアルジア*やトリコモナス*などは減っていますが、コクシジウム*やカンピロバクター*などによる子猫の下痢は多いと思います。そのほか、無症状の場合も多い弱いウイルスなのですが、猫コロナウイルスの感染が増えている印象もあります。お腹をこわしやすく、なかなか治らないといった症状で連れて来られる子猫が多くなっています。
中年期の場合、毛玉のトラブルや、お腹の動きが悪くなりやすい傾向を感じます。シニアになると、小細胞性リンパ腫という病気が増える印象です。悪性腫瘍の中では治療に対する反応や経過が比較的良い病気ですが、12歳頃から慢性的に下痢をしたり痩せたりする猫が増えています。寿命が延びたために、症例が増えたとも言えると思います。
----:そのほかに、猫に多い病気はありますか?
林:全体として見ると、昔とくらべて病気の種類が変わってきている印象があります。ウイルスや細菌による感染症は減って、アレルギー疾患などの免疫異常や糖尿病など人間の生活習慣病のような慢性疾患が増えています。生活環境の変化に応じて、病気の傾向も変わってきているようです。
![動物病院を受診した方が安心なケースは?…猫の消化器系疾患[インタビュー]](https://reanimal.jp/imgs/feed_l_d/30898.jpg)
2つ以上の症状が見られたら病院に行くのが安心
----:猫の場合は病院に行くことがストレスになる子も多いと思います。どんな状況だったら、病院に連れて行った方が良いでしょうか?
林:犬と同様に、嘔吐と下痢、両方の症状があるとか、下痢または嘔吐があってご飯を食べないなど、2種類以上の症状が重なる場合は病院で診てもらった方が安心です。下痢や嘔吐が一度あったとしても、元気や食欲がある時は少し様子を見てもいただいても良いかもしれません。逆に、何度も下痢をしたり吐いたりするケースでは、獣医師の診断を受ける方が良いと思います。
また、犬の時にお話しましたが、多くの慢性疾患では初期症状として痩せる傾向があります。これは猫の方がより顕著にあらわれるので、猫の飼い主さんは日頃から注意しておくことをお勧めします。特に食事や運動量が変わらないのに体重が減ってきたような場合は注意した方が良いと思います。
----:犬は季節の変わり目に体調を崩しやすいという話でしたが、猫も体調の変化に気をつけた方が良いでしょうか?
林:猫は温度の変化にも敏感なところがあるので、季節の変わり目に消化管の運動が悪くなって体調不良が増える傾向があると思います。それから、毛玉の影響もあるかもしれませんが、換毛期にも胃腸の動きが悪くなってお腹をこわしたり吐いたりする傾向がある印象です。毛玉詰まりが起きやすかったりもします。
----:食事については、犬に過剰な「高たんぱく・低カロリー」は注意が必要だとうかがいました。猫は肉食動物なので、たんぱく質が過剰という心配は少ないと考えて良いですか?
林:たんぱく質が多くても、犬ほど健康面への悪影響はないと思います。猫の場合は便秘が多いので、便環境をよくするために、ある程度の食物繊維が必要です。食物繊維が入ったフードを選んだり、サプリメントを使ったりすることで便通が良くなることがあります。
そのほかは、人間も犬も同じですが、その子その子に合った栄養バランスの食事が大切です。かかりつけの獣医師とよく相談して、血液や尿の検査をしながら適切なご飯を食べさせることが健康的な生活につながると思います。
![動物病院を受診した方が安心なケースは?…猫の消化器系疾患[インタビュー]](https://reanimal.jp/imgs/feed_l_d/30899.jpg)
獣医師に診てもらった方が良さそうな目安について、様々な話を聞くことができた。特に夜間や休日など、近隣の動物病院で診察を受けられない場合には参考にしてほしい。いずれにしても、飼い主が見て “何か普段と違うな”と感じた場合は、できるだけ早めに専門家の診断を受けるのが安心だ。
また、猫の場合は病院に連れて行くのに苦労する飼い主も多いだろう。愛猫がそういった性格の場合、日常生活でキャリーケースに慣らすのがお勧めとのことだ。常に部屋に置いておき、中で休んだりご飯を食べたりする快適な場所として認識させれば、通院だけでなく災害時の避難にも役立ちそうだ。「もしも」の時にできるだけストレスなく対処できるよう、常日頃から準備しておきたい。
* いずれも寄生虫で、主に下痢などの消化器系疾患を引き起こす
林幸太郎:博士(獣医学)/獣医師
消化器疾患を中心に、ペットの性格や生活環境に応じた適切な検査・治療を行うことを信条とする。病院で経験する多くの症例に基づき、研究論文の執筆や海外での発表なども行う。ファニメディック動物医療グループが開院した京浜どうぶつ医療センターの院長をこの3月から務める。愛犬はトイプードルのミッキーくん。