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【命の商品化を考える vol.9】具体的な飼育管理基準案について…遺伝的疾患とオス犬の繁殖

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前回紹介したように繁殖に関しては今後、主に出産回数・年齢の上限と帝王切開について議論されていく印象が強い。

一方で、繁殖に使用されるオス犬に関しては今回の提案に含まれておらず、委員からの意見もなかった。また現行基準に明記されている遺伝性疾患等の問題については対策提案がない。

繁殖に使用されるオスの扱い

繁殖に関しては、肉体的・精神的な負担が遥かに大きいメスの保護が先に議論されるのは自然なことと言える。一方で、動物福祉の向上という愛護法の趣旨からは、オスに関しても何らかの制限を設ける必要があるだろう。

事業者にとって好ましい特性をもった子犬・子猫を生ませる可能性の高いオスは酷使される傾向にある。犬の世界では、「異母きょうだい」が非常に多い場合があるのもその証だろう。

また年齢の上限がなければ、メスが6歳または7歳で第2の生活に踏み出せる一方、一生のほぼすべてを繁殖施設で過ごすケースもあると想定される。繁殖に関する数値規制については、現在のところオスの扱いについての議論が行われていない。

遺伝的疾患に関する議論の不在

現行の基準では「遺伝性疾患等の問題を生じさせるおそれのある組み合わせによって繁殖をさせない」と、生まれつきの病気も繁殖に関する柱の1つとなっている。しかしながら、この点に関しての議論は行われておらずメディアなどの指摘も見当たらない。

埼玉県獣医師会のウェブサイトには、「日本は世界でも突出して犬の遺伝性疾患が多い国」とある。「その原因としては、映画やテレビなどのマスメディアの影響を受けて特定の犬種に人気が集中し、その需要によって無秩序な生産(繁殖)が横行していることが指摘されています。」とのことである。「無秩序な繁殖」によって、病気で苦しむ動物たちを生み出していることを専門家も指摘している。

例えば代表的な日本犬であり、飼育頭数もトイプードルやチワワに次いで多い柴犬には、致死性の遺伝病である「GM1-ガングリオシドーシス」というものがある。ある酵素が体内で作られないため、本来は分解される物質が脳や臓器にたまって神経症状や運動障害を起こし、1歳前後で死に至る治療法のない病気だ。

鹿児島大学の大和修教授によると、「…十数年前から遺伝子型検査は実施可能であった。現在まで、何度も遺伝子型検査の重要性を各方面に訴えてきたが、ほとんど国内では疾患情報が浸透していかず、 残念ながら予防対策はほぼ全く進まなかった。」というのが実情のようだ。

また10年以上にわたって人気犬種トップであるトイプードルやチワワでは、関節疾患がある種「デフォルト」(標準)のようにもなっている。いわゆる「膝のお皿」がずれ、悪化すると歩行困難や痛みを生じる「膝蓋骨脱臼」(英語の病名であるpatellar luxationから、人間の場合も含め俗に「パテラ」と呼ばれる)は多くの飼い主に知られている病気だが、これも遺伝的疾患である。

このほか、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークやジャーマン・シェパードに頻発する「変性性脊髄症」やボ―ダーコリーに神経障害を引き起こす病気(「神経セロイドリポフスチン症」)なども、現時点では治療法のない致死性の遺伝病である。

プードルやチワワの飼い主には知られているが、失明につながる「進行性網膜萎縮症(PRA)」はヨークシャーテリア、ダックスフント、ゴールデンおよびラブラドール・レトリーバーなど非常に多くの犬種で認められる。この病気に関しては、遺伝子検査結果を表示するペットショップなども見られるようになり徐々に意識の高まりは感じられるが、愛護法においても議論の必要性があるのではないだろうか。

こうした病気は、健康診断や遺伝子検査などでリスクを発見できるものが多い。検査と交配の組み合わせに注意すれば、飼い主の精神的・経済的な負担とともに、大切な家族である犬や猫が病気で苦しんだり亡くなったりすることを未然に防ぐことが可能なのである。

劣悪な飼育環境で繁殖を繰り返す犬や猫と比較すると、注目されにくい分野ではあるかも知れないが、動物福祉向上の観点から愛護法での議論が必要な分野ではないかと感じる。

今後への期待

動物愛護法は犬や猫に限らず、またペットだけではなく実験動物、展示動物や家畜なども対象としている。今回の省令は犬と猫に限った議論となっており、その他の動物への配慮を求める声もある。また、今回紹介したようにオスの繁殖犬や遺伝疾患の問題など、犬と猫に関しても議論の足りない分野はあるだろう。

現在はまず、社会問題にもなっている犬・猫の劣悪な環境下での飼育を解決することを中心に、検討が進んでいるのは現実的な取り組みと言えるだろう。そのように見た場合、環境省令の策定は少しずつではあるが動物の福祉向上に向かっている印象を受ける。

今回シリーズで紹介したケージサイズ、従業員数および繁殖回数については、検討会委員の科学的意見も踏まえた上でペットはもちろん、飼い主、愛護団体そしてペット業界といったすべてのステークホルダーが納得できる枠組みとなることを期待したい。

同時に「積み残し」があることは、飼い主も含め関係するすべての人間が意識すべきことではないだろうか。

《石川徹》

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