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【“命の商品化”を考える vol.8】具体的な飼育管理基準案について…繁殖の回数・年齢・帝王切開に関する議論

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  • 繁殖に関する現行基準

改正愛護法* に伴い来年6月から動物取扱業者に遵守義務が課せられる「飼養管理基準」(=俗にいう数値規制)について、これまでREANIMALではその狙い(関連記事)、ケージ等飼育スペースのサイズ(関連記事)および従業員1人当たりが世話をする動物の上限数(関連記事)について紹介してきた。

今回は、飼育スペースや従業員数とならび、数値規制における柱の1つとなっている繁殖について触れる。

繁殖に関する現行基準

愛護法第21条は、「動物を繁殖の用に供することができる回数、繁殖の用に供することができる動物の選定その他の動物の繁殖の方法に関する事項」についても「できる限り具体的な」基準を定めるとしている。ちなみに現行基準は以下の通り。

繁殖に関する現行基準繁殖に関する現行基準

この現行基準を具体化するための環境省令案が、同省・自然環境局から出された。今回中心となっていたのは、繁殖の回数・年齢上限と帝王切開についての2点である。

繁殖の回数と年齢の上限:原則として6歳まで

犬・猫ともに、原則としてメスの交配は6歳を上限としている。ただし、満6歳に達した時の出産回数が少ない場合、この年齢を7歳まで延長できる措置を設けている。延長条件は、犬の場合出産回数が6回未満、猫の場合は10回未満とされている。

2022年から犬と猫にマイクロチップの装着が義務付けとなることもあり、自治体がチェックに入った場合など繁殖現場等で確認しやすい基準として年齢が基準とされたそうだ。また季節の変化で発情を迎える「季節繁殖動物」である猫の場合、1年に約3回の出産が生理的に可能であることから、毎回の出産を避け1年に2回程度に制限することを想定した上限回数とのことである。

犬の場合は季節に関わりなく、個体差はあるが6か月から10か月が発情周期とされる。1年に1回出産した場合は6歳で上限の6回に達するわけだが、毎回出産させず体を休ませる良心的な繁殖業者の存在にも配慮して7歳までの延長を盛り込んだと環境省は説明している。猫のケースも考え方は同様である。

繁殖開始年齢と回数上限に関する意見

委員からは、まず繁殖開始年齢について意見が出た。特に中・大型犬の場合、初回発情時は肉体的な成長が不充分で出産には適さない場合もあるため、初回発情では繁殖を行わないルールの必要性を感じるとのことだ。猫の場合は生後4か月ほどで初回の発情を迎えるが、これも同様に繁殖すべき状態ではないとの考えだ。また発情ごとに毎回出産させることを避けるため、年齢だけでなく回数の上限も設けるべきとの意見もあった。

一部報道などでも、繁殖回数に歯止めが効かないことを懸念する声がある。例えば発情周期が6か月の犬の場合、6歳つまり生後72ヶ月を迎えるまでに計算上は12回の出産が可能である。猫の場合は1年に3回とした場合18回におよぶ。今後は、初回発情と出産回数上限が議論の焦点になるだろう。

なお、日照時間に左右される猫の発情を照明でコントロールし、繁殖回数を増やす行為が行われるケースがあると言われている。この問題は環境省も認識しているようで、「動物の飼養又は保管をする環境の管理に関する事項」においては、自然光だけでなく照明も含めて「通常の日照サイクルの確保」を義務付けるとしている。 

帝王切開

繁殖業者等による不適切な処置が行われている事例などがあるとのことから、帝王切開は獣医師が行うことと、その獣医師が出生証明書の交付を義務付けることが提案された。出生証明書の偽造等は獣医師法による処罰の対象となるため、環境省令と合わせ不適切な帝王切開が行われることを法的に防止できるとういう考えである。

委員からは、この出生証明書発行と同時に個体ごとの出産に関する適・不適の判断を獣医師が行うよう義務付けてはどうかとの提案があった。産道狭窄や陣痛が来ないなど、先天的に繁殖には適さない犬や猫は存在しており、そうしたケースではその犬や猫の健康と子どもへの遺伝という観点から繁殖犬以外への「キャリアチェンジ」を促すべきだという考えであった。

また犬の場合は人工的なブリーディングの結果、ほとんどの出産に帝王切開が必要となる犬種が存在する。そうした犬種に行われる「計画的な帝王切開」の場合には、回数の上限を設定すべきとのコメントがあった。

議論の方向性と課題

この繁殖に関する数値規制は、年齢・回数の上限と帝王切開のポイントが中心となって議論されていくと思われる。一方で、何世代にもわたって命を繋いでいくことになる繁殖については、他にも重要な要素があるのではないだろうか。次回は、この場で議論のなかったオス犬と遺伝的疾患について紹介したい。

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* 正式名称:「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年6月19日法律第39号)」

《石川徹》

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