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【“命の商品化”を考える vol.5】具体的な飼育管理基準案について…目的は悪質な事業者の排除

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  • 「飼養管理基準」を定める7項目
  • 基準案のポイント

REANIMALで7月10日に報じたように(命の商品化を考える vol.4)、第6回「動物の適正な飼養管理方法等に関する検討会」を環境省が開催した。改正愛護法*に伴い、2021年6月から動物取扱業者に「飼養管理基準」(=俗にいう数値規制)の遵守義務が課せられる。

第6回「検討会」の目的:数値規制の提案

検討会(第6回)の目的は、この基準に関する具体案を環境省が示し、獣医学、動物行動学、畜産学や法律などの専門家7名から構成される委員との意見交換を行い、より精度の高い環境省令を作成することにある。

概要に関しては既に速報でお知らせしたとおりだが、REANIMALでは環境省・自然環境局と委員との間で交わされた議論の一部もあわせ、数回にわたって詳細を紹介する。

飼養管理基準:具体的な統一基準で実効性のある指導

もともと動物愛護法には第21条の定めがある。「第一種動物取扱業者は、動物の健康及び安全を保持するとともに、生活環境の保全上の支障が生ずることを防止するため、その取り扱う動物の管理の方法等に関し環境省令で定める基準を遵守しなければならない」。ところが明確な統一基準が存在しないため、繁殖業者などをチェックする立場の自治体が強制力のある指導を行うことが事実上不可能な状況が続いている。

この問題を解決するため、2019年6月に成立・公布された改正愛護法では「第3項」が追加され、「犬猫等販売業者に係る第一項の基準は、できる限り具体的なものでなければならない」とされ、第21条を実効性のあるものにする努力が続けられている。この「できる限り具体的な」基準が「飼養管理基準」である。なお、今回議論の対象となるのが犬と猫に限られているのが残念ではあるが、国による動物福祉への真摯な取り組みの第一歩としては評価したい。

ここで、「飼養管理基準」を定めるとされているのは以下の7項目。

「飼養管理基準」を定める7項目「飼養管理基準」を定める7項目

分かりやすくまとめると、1.ケージのサイズや構造などの飼育施設・設備、2.世話をする従業員数、3.温度・湿度、明るさや衛生面などの飼育環境、4.健康管理、5.輸送・展示(ネコカフェやペットショップなど)、6.繁殖方法・回数、親犬・親猫の選定、7.そのほか動物愛護の観点から必要とされること、である。

目的は悪質な事業者の排除

環境省の発表資料には、冒頭に「基準案のポイント」がある。ここには、数値基準案を作成するにあたり自然環境局が念頭に置いたであろう方針が赤字で記されている。要点としては、悪質な事業者を排除するために各自治体がチェックしやすい統一的な基準を、動物愛護の精神に則り設定するということのようだ。

基準案のポイント基準案のポイント

この中で、「レッドカード」の意味に関して委員から質問があった。基準に違反した事業者にはまず「勧告」が行われ、改善が見られない場合には「命令」、さらに登録の取り消しや罰則へと段階を踏んだ対処が行われるが、基準に従わなければ「最終的には退場」させる、という省令の意思を表したものだとの説明があった。

また、「議員立法という原点」という表現についても委員からその趣旨を問われた。自然環境局からは、省令の策定にあたり超党派議員連盟「犬猫の殺処分ゼロをめざす動物愛護議員連盟」からの提案も、十分に尊重するという意図である旨のコメントがあった。動物愛護に関する専門家からの科学的なフィードバックよりも、議員の意見が優先されることではないそうだ。いずれにしても、この超党派議連は今回の愛護法改正に中心的な役割を担っており、動物愛護の精神が最優先というスタンスは守られるはずである。

「第二種動物取扱業者」も対象に

そのほか、対象となる事業者は第21条に明記された第一種動物取扱業者だけでなく「犬猫を取扱う事業者全般」とされており、第2種(非営利)の譲渡団体などにも適用されるとしたのは保護団体の崩壊などの事例も踏まえてのことだろう。なお一部の委員からは、昨今の多頭飼育崩壊事例などに触れ、将来的には一般の飼い主を対象にすることも検討すべきとの意見が出された。

最重要ポイントは閉じ込め型飼養防止の徹底

具体的な基準作成にあたっては、「閉じ込め型の飼養を防ぐ」ことを重要と考えたと自然環境局の鳥居敏男局長から説明があった。それを確実なものとするため、分かりやすく、自治体が判断しやすいよう実効性をもった「必ず守らなければならない基準」とすることに留意したとのことである。また数値や状況等をできる限り具体化するだけでなく、今後は「基準の解説書(仮称)」も作成するそうだ。

これには、基準を満たす状態と満たさない状態の例示、代表的な犬種ごとの具体的なケージサイズ例などの数値や、基準を超えた理想的な飼育方法などに関する情報も記載される予定としている。参考として配布された資料には、これまでにも開示された調査論文リストに加え、国際畜犬連盟のデータからまとめた270を超える犬種の体高・体長・体重や、国内で流通している様々なサイズ・構造のケージなどに関する詳細な情報も含まれており、同解説書の作成準備は進んでいる印象を受けた。

全体を通して:動物中心のスタンスを感じる内容

検討会前には、緩い規制案になるのではないかとの懸念も聞かれた。もちろん、まだ改善すべき点はあるが、全体としては「動物の健康及び安全を保持する」愛護法の趣旨に沿った省令案の策定が進んでいると感じる。委員からも、「規制を厳しくするとペットの価格が高騰し希望する人がペットを飼えなくなるという意見が一部にあるが、専門家としては動物にとって良い基準となるよう、科学的な提案を行いたい」旨の意思表明があった。

今後は、ペット業界も含め、議連や愛護団体などと環境省が効果的に連携を取り、動物の福祉を中心としながら、できるだけ多くのステークホルダーが納得できる省令が出来上がることを期待したい。

次回からは、それぞれの項目に関して詳しく紹介していく。最初は、これまで最も議論の多かった飼育スペース、つまりケージのサイズ等に関するポイントについて触れる予定だ。

* 正式名称:「動物の愛護及び管理に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年6月19日法律第39号)」

《石川徹》

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