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現実的な保護活動支援の新しい取り組み、保護犬猫情報サイト「ハグミィ」と迷子タグ「Petag」

ニュートンデザイン 代表取締役のイムラシロウ氏(左)とハグミィ 運営責任者 ゆざわりょう氏(右)
  • ニュートンデザイン 代表取締役のイムラシロウ氏(左)とハグミィ 運営責任者 ゆざわりょう氏(右)
  • イムラ氏の実家で暮らすショコラちゃんも来てくれた
  • ハグミィ
  • ペットタグ
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  • ニュートンデザイン 代表取締役のイムラシロウ氏

生体販売への問題意識の高まりから、ペットはショップで買わないと決めている人も増えてきた。その場合、保護団体や地域の譲渡会、あるいはネットの掲示板やSNSなどを利用してよきパートナー、家族を見つけることになる。

ペット譲渡に特化したマッチングサイトも存在する。これらの多くは、ペットを譲りたい人と飼いたい人は誰でも登録でき、気軽に利用できる。多くの情報が集まりやすい半面、悪質な業者や利用者による問題もゼロとは言えない。保護団体の譲渡会を利用すれば、「場」を提供するだけのサービス、あるいは悪質業者等によるリスクを下げられる。その分、譲渡に審査やトライアル期間があるなどハードルも上がるが、生き物である以上、最優先すべきは譲渡対象である犬や猫たちだ。飼う側の都合だけで決めていいものではない。大切なのは、しっかりした保護団体を利用することだ。

保護団体に特化したマッチングサイト

「ハグミィ」は、保護団体に特化したマッチングプラットフォーム。ペットを飼いたいと思っている人が、保護団体を利用した安心・安全な譲渡を受けられるのが特徴だ。ありそうでなかったサービスだが、ハグミィはどのような経緯で作られたのだろうか。サイトを企画しシステムを手掛けたニュートンデザイン 代表取締役のイムラシロウ氏は次のように説明する。

「新卒から大手IT企業で開発を行っていましたが、入社4年目のときにWeb制作の会社を立ち上げました。顧客は企業がメインでしたが、ITが本当に必要なところはもっと別にあるのでは? という漠然とした疑問と、自分でもペットを飼っており殺処分に対する問題意識がありました。保護犬、保護猫を飼うという文化を広げたいと思い、当時はあまりなかった保護団体に特化したマッチングサイトを作ってみようと考えたのです」。

新型コロナウイルスの影響もあり、保護団体や自治体の譲渡会の開催が困難になっている現在、SNSやネットを使った里親探し、マッチングはとても有用で、保護団体も適宜活用している。しかし、NPOやボランティアベースの保護団体の中には、ネットを使った活動まで手が回らないところもある。ネット経由のやりとりでは、悪質業者や利用者を排除しにくいという問題もある。この点、審査を経た団体しか譲渡側として登録できないハグミィは、安心・安全が期待できる。

ハグミィ

ハグミィの特徴…マッチングとコミュニティサイト

里親になりたい人は、良質な保護団体の犬猫との出会いが広がり、譲渡会が開催できない保護団体もよい里親を見つけられる。

「ハグミィの基本的な機能は、保護団体と里親のマッチングプラットフォームです。しかし、里親募集を告知できるのは登録した団体だけ。予防接種、去勢施術、保護環境もしっかりしており、譲渡にあたっても里親の飼育環境のチェックやトライアルなど条件を付けていることが登録の条件になっています。登録のためにシステムを揃える必要や手数料が発生することはありません。団体からいただいた里子情報やイベント情報はハグミィで検索可能になるだけでなく、インスタグラムやアメーバブログなどでも適宜拡散しています。インスタグラムにはすでに8000人近くフォロワーがついており、応援メッセージなどもいただいています」(ハグミィ 運営責任者 ゆざわりょう氏)。

里子の情報以外に、専門家によるペット関連の記事や情報を提供するコラム、保護団体や里親同士の情報交換・コミュニケーションの機能も用意。コラムでは、災害時のペットとの避難方法や対策についての情報などが読める。コミュニケーション機能では、里親になるときの注意や病気やトラブルに関する質問に、経験者や知識のある人が答えてくれるという。

ハグミィ自体でビジネスは考えていない

日本では、動物をショップで買うのが通例だが、生体販売は先進国ではむしろレアケースだ。

「犬猫をペットショップで買う。そういった認識を少しでも変えたいと思っています。代わりに、ペットは保護施設から譲り受けるという常識を広めたい。ハグミィは里親を見つけることだけが目的ではありません。この常識を根付かせるため、保護団体の活動そのものを支援すること、長続きさせるためのプラットフォームとしても作られています」(イムラ氏)。

ハグミィは登録や譲渡に関して会費や手数料などの徴収はない。里親側も、団体ごとに設定している寄付、譲渡費、や予防接種代などの実費のやりとりだけだ。サイト自体は広告が直接の収入源だが、イムラ氏は「ハグミィ自体でビジネスをする気はない」と断言する。とはいえ、サイト運営もタダで継続できるわけではないので、保護団体の支援にもなる「ペットタグ(Petag)」という別のビジネスを手掛けている。

QRコードを使用したペットタグの機能・特徴

ペットタグは、ペットの首輪や服に取り付けられるチャームで、裏にQRコードが印刷されている。QRコードを読み取ると、ペットの情報や飼い主の連絡先、治療や投薬の履歴などさまざまな情報が閲覧できる。マイクロチップと同様に、迷子や災害時、保護したときに必要な情報が得られる仕組みだ。

QRコードなので、スマホがあれば専用のリーダーは不要。ペットの体内に埋め込むマイクロチップは、古い製品の場合、規格の互換性が確保されておらず、情報を取り出せる施設とそうでない施設がある。マイクロチップリーダーは、通常、獣医や保護施設にしか置いていないが、ペットタグは保護したその場で誰でもペットの情報がわかる。

ただし、情報はクラウドで管理されており、飼い主が公開設定しなければQRコードを読んでも情報の閲覧はできない。飼い主は、ペットが迷子になった際や災害時にロックを解除する。飼い主への連絡は、電話以外に、メールやLINE、Facebook、ツイッター、インスタグラムなどのメッセージも設定できる。

ペットタグペットタグ

ペットタグは保護団体も支援する

ペットタグは、保護団体やペットグッズショップなどから入手できる。料金はサブスクリプション方式が基本となるが、販売条件は保護団体やショップが設定することができるようなライセンスだという。ペットタグのシステム一式を利用する月額料金は決まっており、これが利用の原価となる。取り扱い団体やショップは、独自の付加価値をつけてユーザーに提供してもよい。金額は少ないが、団体の固定収入源になりうるモデルだ。

保護団体によっては、寄付をかねてオリジナルグッズを販売しているところがある。例えば、これにペットタグのQRコードをつけて販売することが可能だ。オリジナルグッズを持っていなくても、ハグミィキャラクターのタグをそのまま利用することもできる。ショップは、プライベートブランドの商品開発に組み込んでもよい。

「一部には、保護団体やボランティアに対して、間違ったイメージが浸透していると思っています。正義の活動には正当な報酬があってしかるべき。ただ、資金集めが苦手な団体も存在するのも事実です。ハグミィでは、そのための支援も行っています。クラウドファンディングでの資金集めの手伝いもその一つ。ペットタグは、ペットの安全と収入を両立させるしくみだと思っています。多くの団体に扱ってもらいたいので、クラウドのしくみもライセンスも幅を持たせてあります。サブスクリプションにしたのも、不安定な団体運営に少しでも定期収入の道を作ることができればと思ったからです」(イムラ氏)。

ニュートンデザイン 代表取締役のイムラシロウ氏ニュートンデザイン 代表取締役のイムラシロウ氏

繁殖・生体販売モデルからの脱却

保護団体の活動は、まさに保護犬、保護猫の命に直結する非常に重要な存在だ。犬の放し飼いが禁止され(これが野犬捕獲・処分の根拠にもなっている)、動物の生体販売を直接禁止する法律、ペットを動物愛護センターに持ち込む人の規制や罰則がない現在、自治体と保護団体の活動は、殺処分ゼロへの最後の砦だ。

この活動を止めさせないために、「ペット探しは、保護施設から」という常識を広め、彼らの活動に持続性と賞賛以外のインセンティブが必要だ。イムラ氏は、「今後の展開として、ITを活用して保護団体の連携を強化したいと思っています。保護団体同士の交流、勉強会、情報共有のインフラ作りです」とも語っていた。一つひとつはボランティアベースの小さな組織かもしれないが、連携すれば行政や市場を動かす力を発揮できる可能性がある。

保護団体の譲渡会は、健康管理や予防接種もされており、悪質な業者から買うよりよほど安全・安心だと言える。生体販売によるビジネスモデルから、新しい業界エコシステムに少しでも転換できるよう、ハグミィは取り組みを続けている。

《中尾真二》

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