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【猫の病気】動脈血栓塞栓症…雑種猫よりも純血種のほうが起こりやすい

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どんな病気?

猫の動脈血栓塞栓症(ATE)とは、心臓内で形成された血栓が血流により血管内に塞栓した状態である。原因として心疾患、甲状腺機能亢進症、腫瘍などが挙げられる。特に心筋症と関連が強いと言われており、拘束型心筋症や肥大型心筋症に併発しやすいといわれている。一般的に、腹大動脈の分岐部に血栓形成をするが稀に前肢に発生したり脳梗塞の原因になることもある。

発症年齢は、1歳から20歳まで幅広く、平均は7.7歳。血栓が形成されるしくみは、心筋症による心内膜の損傷が起こり、左心の損傷から血小板の凝集や接着が引き起こされ、血液の凝固が活性化されるというもの。もともと心筋症の猫は、左房の拡大により血流の停滞が発生するので血栓ができやすい条件がそろっている。

症状としては、急性の不全麻痺や激しい疼痛による呼吸促迫や鳴き叫び。前肢の場合はナックリングが見られるので神経症状との鑑別が重要だ。後肢に生じた血栓の場合は5つのPと言われるParalysis(麻痺)、Pain(疼痛)、Pulselessness(脈拍触知不能)、Poikilothemia(変温性)が臨床徴候として特徴的。具体的には、大動脈の脈拍(股圧)が触知できなくなり、患肢は冷たくなり、時間の経過とともにさらに冷たくなる。肉球の色は塞栓時間にもよるが蒼白から紫色に見える。全身還流の低下により直腸温が低下することもある。

多くの症例では、痛みによる頻呼吸が見られるので、飼い主は呼吸が苦しそうという理由で動物病院に来院することも多い。実際に肺水腫等の呼吸器疾患で呼吸促迫であることも多いので、鑑別のための胸部レントゲン検査は必須である。また、多くの症例で腎数値の上昇がみられるので血液検査も必要。腎数値の経時的な上昇は腎動脈が塞栓されたことを⽰唆する予後不良の徴候である。

かかってしまったら?

治療としては、急性期は疼痛管理、血栓形成の抑制、心不全管理を行う。重篤な呼吸不全の場合は直ちに酸素化を行い、利尿剤の投薬をする。また、血栓形成抑制のために抗血栓薬を投与する。嚥下可能な場合は経口で投薬することもある。以上の治療により状態が落ち着いたら、長期治療について検討していく。血栓塞栓から6時間以内であれば、カテーテルによる血栓摘出が第一選択になる。しかし、専門的な施設でないと行えず麻酔をかけての処置になるのがデメリットである。

また、軽度な塞栓であればt-PA製剤による血栓溶解療法が行われる。この薬は、全身影響が少なく出血リスクが低い抗血栓薬である。心電図モニターを使用しながら3日を上限とし、血行の再開が見られるまで繰り返し投与する。症状の改善は半数ほどであるのと、かなり高価であるので十分に検討する必要がある。

上記の積極的治療を行わない場合は保存療法になる。積極的な血栓の溶解を行わず、抗血栓薬でこれからできる血栓を予防していく治療だ。1度この病気を発症した猫は血栓ができやすい状況なので、生涯この薬を飲み続けることが望ましいが服用していても再発する可能性は十分にある。

猫の動脈⾎栓塞栓症の長期予後は悪く、海外では安楽死が選択されることも昔は多かった。今は安楽死が少なく、ケアが⾏き届いていることもあり、以前よりも⽣存率が⾼くなっている。部分的な運動障害や神経症状が麻痺として残ることが多いため、飼い主のケアに関しても負担がかかる。場合によってはリハビリやレーザー治療を行うことが推奨される。

予防法は?

血栓塞栓症を起こしうる基礎疾患(主に心疾患)の治療を早期に行うこと。特に肥大型心筋症は家族性に発生することが知られており、猫種による遺伝もある。メインクーンとラグドールは、心筋のミオシン結合蛋白遺伝子変異との関連が報告されているので要注意。また、純血種のほうが雑種猫よりも起こりやすい疾患なので、リスクの高い種類の飼い主は定期検診で心臓のエコー検査を行ったり、呼吸状態を注意深く観察することをおすすめする。

《M.M》

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