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競走馬の引退後、その命を支える活動 vol. 5 …多くの人に知ってもらい、新たな活躍の場を[インタビュー]

動物 コラム
引退競走馬
  • 引退競走馬
  • シャイニープリンス
  • 乗馬倶楽部「イグレット」で暮らすフォスターホースのハリマブライト
  • 引退馬協会の沼田恭子代表理事
  • 競馬で活躍する馬たちの多くは3歳前後という
  • 「フォスターホースと過ごす日」にはプロによる講義も行われる
  • ナイスネイチャがきっかけで引退馬を知る人も増えた
  • たくさんの癒しや幸せをくれる馬たち
前回は、引退馬の再調教と適切な譲渡先を見つけることの難しさについて紹介した。インタビュー最終回となる今回は、引退馬協会が目指す将来について沼田恭子代表理事に聞いた。

◆競走馬の身体はボロボロ

----:前回、競馬の引退後に必要な再訓練の難しさについてうかがいました。そうしたトレーニングに対応できない馬もいるのですか?

沼田恭子代表理事(以下、敬称略):いますね。競馬では無理な使い方をされるので、身体に故障があってすぐに乗馬に使うのは厳しいことがあります。

馬の場合、骨格が出来上がるのは6歳ぐらいだそうです。競馬で走っている馬たちは2~3歳ですから、体が成長しきっていないうちから激しい運動をしているわけです。引退馬を獣医さんに診ていただくと、あちこちが悪く、すぐにトレーニングに入れないことはよくあります。まず関節や骨などの異常を治し、休養してからリハビリを行う必要があります。

競馬で活躍する馬たちの多くは3歳前後という

----:再訓練に対応できないと言っても、体調の問題なのですね。

沼田:2~3歳で走るので、どの馬もどこか悪いんです。「シャイニープリンス」という馬は、10歳まで走ってここに来ました。(賞金総額で)1億8000万円くらい稼いでいる中堅の競走馬でした。獣医さんに診ていただいたところ、「腰も関節も、骨も治さないと」と言われました。幸い馬主さんが時間をかけてメンテナンスしてくれました。痛いところを抱えて次の運動はできませんから、再トレーニングは体調が回復してからです。

----:高校野球のピッチャーが投げ過ぎで肘や肩を痛めるのと似ていますね。野球では投球数の制限が議論されているようですが、競走馬も出走回数の上限やデビューの年齢引き上げなど、健康面を配慮した話が出れば良いですね。

沼田:競馬もそうなれば良いですけど、なかなか難しいでしょう…。

シャイニープリンス

◆引退馬の新しい道を見つける活動

----:引退馬協会として、これからの活動について教えてください。

沼田:日本では、馬の扱いに関して色々な考え方があって標準と呼べるものがありません。特に養老馬の管理についての情報がすごく少ないんです。「こうすればいいですよ」というお手入れ方法などのスタンダードを作り、一般の方にも馬の扱い方を知っていただく講習会をあちこちで実施しています。そんな活動をもっと広げていきたいですね。30歳くらいまで生きる子もいますから、歳をとった馬たちをどうケアすべきかについての情報発信もしていきたいと思います。

「フォスターホースと過ごす日」にはプロによる講義も行われる

それから、馬の新しい仕事を見つける活動もしたいですね。今、筑波大学の研究に協力しています。馬との触れ合いが、人間にどんなメリットをもたらすかについて学術的な検証が行われています。例えば、馬が人間の病気治療に役立つことが科学的に証明されれば、歳をとった馬の仕事も見つかると思います。

----:セラピーホース的な役割ですね。馬ならではの強みはきっとたくさんあるでしょうね。そんな素晴らしい馬たちにとって、沼田さんが考える理想の環境はどんなものでしょうか?

沼田:今は、使えないと判断された馬のほとんどが「と殺」されていると思います。でも、馬は1頭1頭、色々な能力を持っています。そうした貴重な力を持つ馬たちすべてが活かされる道ができればな、と思います。

◆知ることの大切さ

----:そんな環境を作っていくために必要なのはどんなことだと思いますか?

沼田:引退馬の「その後」を多くの方々に知っていただくことが大切だと思います。

活躍した馬でも、ほとんど行き場がないことはあまり知られていません。お話ししたように、乗馬クラブにいた馬を(引き取り業者に)出さなければいけなくなった時、「え、そんなことをするの?」と思ったのが今の活動のきっかけになっています。私は(結婚後)ずっと牧場にいたわけですから、身近で何度も起きていたはずですが、その時に初めて知りました。

このことに限らず、主体性を持って見ていないと分からないことは、たくさんあると思います。何が行われているのかを理解すれば、問題意識も高まると思います。だから、色々な方に「知ってもらう」ことが大切だと思っています。そのために、まずは馬の魅力を皆さんにお伝えする取り組みが大切だと思って続けています。

----:競走馬の引退後については、競馬ファンにもあまり知られていないと聞きました。

沼田:競馬ファンのみなさんは、たぶん引退後も馬たちは「どこかで暮らしている」と思っているでしょうね。中央競馬で活躍した「ナイスネイチャ」が今年33歳になったので、「バースデードネーション(誕生日の寄付)」を募りました。「ウマ娘」の影響でブレイクして、支援の金額や人数がものすごいんです。(参考記事

ナイスネイチャがきっかけで引退馬を知る人も増えた

コメント欄を見ると、「ナイスネイチャが生きていたことを知らなかった。うれしい!」という書き込みがたくさんあります。競馬ファンの中に、「生きてたんだ」と素直に喜んでいる人がいるのを見ると、これまでは、単純に(引退後の運命が)知られていなかったのかなと感じます。

ここ何日か、ウマ娘関係で取材がすごいんです。「こういうこともあるんだな」、と思いました(笑)

◆人と馬のハッピーライフをめざして

----:きっかけが何でも、知ってもらうのは大事ですね。

沼田:知ってもらうのはすごく大切ですね。まず知ってもらって、それから触れ合っていただければ馬の魅力は理解してもらえると思います。「フォスターホース*」との触れ合いに来られる方からは、「里親になったから、仕事も頑張らなきゃ!」という声をよく聞きます。フォスターホースの存在が、皆さんのモチベーションになっているのを実感します。「いい1日だった。また、仕事を頑張れる」と言って帰られる方がすごく多いんです。

----:それが、引退馬協会がめざす「人も馬も幸せになれるハッピーライフ」の意味するところなのですね。これからも、馬たちにエネルギーをもらえる機会を増やしていってください!

沼田:助ける立場だったはずの人間が、助けた馬たちからたくさんの癒しや幸せを受け取っているというのを実感します。




引退馬協会が掲げるモットーは、「人と馬のハッピーライフをめざして」。活動の目的は、競馬から引退した馬たちの「その先」を見つける支援ではある。ただ、沼田代表の最後の言葉からわかるように、助けた馬たちが、色々な形で人間を助けているという事実もある。

動物だけでなく、人間だけでなく、双方が幸せになれる環境をめざすのが動物福祉の真の向上につながるだろう。引退馬協会の姿勢で特に教えられたのは、引退馬の行く末に関するネガティブな面を訴えるのではなく、馬の魅力を伝えることに集中する努力である。「魅力を知ってもらうことで馬たちの行き場が1つでも増えるように」、という考え方は、犬や猫の保護など他の動物福祉向上に向けた取り組みにも大いに参考になるのではないだろうか。

REANIMALでは、犬や猫などの愛玩動物、介助犬などの使役動物だけでなく、引退した競走馬たちの長いセカンドライフについて今後も取材を続け、幅広く動物福祉の向上を考えたい。

最後に、インタビューの後で沼田代表から届いた思いを紹介する。

「競走馬は、人間が夢を描きながら創り出した馬たちです。自然に生まれてきたわけではないのです。だから、人間がその最後まで責任を持つことが必要だと思っています。少し時間はかかりそうですが、それが当たり前に思えるときが来るまで、諦めずに行きたいと思います」

* フォスターホース:引退馬協会の共同里親制度でサポートを受ける馬
《石川徹》

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