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【動物に会える映画 vol.10】犬との関係を見つめ直したくなる新作映画 3選

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『犬部!』
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  • 『犬部!』©2021『犬部!』製作委員会

新しい生活様式での暮らしが始まり、早くも1年半が経とうとしています。人間は何とか工夫をして生きていくことはできますが、ペットたちの日常はすべて飼い主次第。ここ数ヶ月は、ペットの深刻な問題行動に悩む飼い主が増えているとも聞きます。ペットたちにも新型コロナによる生活変容のしわ寄せが来ているのかも知れません。

コロナ禍にあろうとなかろうと、私たち人間が常に意識すべきなのは、彼らの“生活の質”はもちろん、命運までをも握っているのが自分だということ。そこで今回は、人間の最良の友である犬との関係を、見つめ直すきっかけをくれる新作映画を3本ご紹介します。

『犬部!』

『犬部!』
『犬部!』©2021『犬部!』製作委員会

最初にご紹介する『犬部!』は、これまで書籍でも紹介されてきた北里大学獣医学部に実在したサークル、犬部の物語です。世に知られるきっかけともなった2010年発行のノンフィクション「北里大学獣医学部 犬部!」は、私も幾度となく読み返してきました。

動物の命を助けるために獣医を目指した一人の学生が、動物を安楽死させて行う生体解剖の実習=外科実習に疑問を持ったことをきっかけに発足させた犬部。卒業するためには避けて通れない授業でも、自らの信念と情熱によってレポート提出で単位を取得したその学生は、異端児でありながらも、揺るぎない信念で少しずつ周囲を動かし仲間を増やしていくのです。

彼には、当時の学内にあった「一殺多生」=一匹の犠牲で多くの命が助かるという考えを、覆すほどのパワーがありました。それはひとえに、「一匹も殺したくない」「生きているものは全部助ける」という精神ゆえ。それにしても、ここで描かれている学生・花井颯太の愛情と情熱にはすさまじさと言ったら。希望と信念、熱意があるだけでは現実は変わりませんが、それらがなければ、理想は決して現実にはならないのだと訴えかけてくるのです。その熱量には、社会にはびこるペット問題をどうにかしなきゃと感じてはいても、なかなか行動できない自分が恥ずかしくなるほど。動物を助けたいと思いながら、最近では手が止まっている自分に気づかされました。

映画では、人間社会で行き場を失った動物たちへの暖かい視線だけでなく、実際に私たちが直面している残酷な真実も描いています。ペット産業の闇、ブリーダー崩壊、殺処分など、エンタメ作品でよくぞここまで取り上げたものだと、その勇気には脱帽します。それはきっと、動物保護をテーマとしたドキュメンタリーの名手が脚本を手掛けているからでしょう。

本作では、颯太の勇気(と異端ぶり)を賞賛しながらも、まったく別のアプローチを持つ人たちを決して断罪せず、物語を善悪という単純で偽善的な構図にも落とし込んでいません。そんなところにも、制作陣の良心を感じました。劇中、主人公と対立し一殺多生を説く教授が登場しますが、決して悪人ではありませんし、命を粗末にしているのでもありません。教授の姿から見えてくるのは、今も人間が直面している葛藤。人間を助けるための動物実験が今も行われている現実をどう考えるのかとさらなる問いを、私たちに投げかけているようにも感じました。ちなみに、モデルとなった北里大学では外科実習はすでに廃止されています。

『犬は歌わない』

『犬は歌わない』
『犬は歌わない』©Raumzeitfilm

2作目は、ロシア発のドキュメンタリー『犬は歌わない』。皆さんは、1950年代の東西冷戦時代に繰り返された宇宙実験のひとつスペース・ドッグ計画について聞いたことがあるでしょうか。人工衛星「スプートニク2号」に押し込まれ、初めて宇宙を飛んだ生き物にして、宇宙飛行の初の犠牲者であるライカ犬。その名前は耳にしたことがあっても、その仲間たちが、どんな運命をたどったかを知る人はあまり多くはないでしょう。ソビエトは、人間の宇宙飛行が可能かどうかを検証するため、繰り返し犬たちを宇宙へと送り込みました。彼らは道で捕らえられた野良犬。計画を象徴する存在として、美しく、賢く、勇敢で、強い犬が選ばれたと聞きます。愛される理由が、過酷な運命を背負う理由になるとは何とも辛い話です。

今もモスクワの路上には、犬たちが闊歩しています。人間たちのエゴによって苦しんだ大先輩ライカのことなど知る由もない彼ら。誰もが自らを主人として、気ままに生きているのです。人との関わりは最低限。ゴミをあさり、水たまりの水を飲み、ネコをいたぶる。人と群れない犬たちの野性味溢れる精神を見せつけられ、自分の知らない犬の姿に目を覆いたくなる場面もありました。でも、少なくとも彼らは、いくつものチューブを取り付けられ、無理矢理宇宙へと飛ばされたりしません。ライカの暮らしとは対極にある日々を送る彼らが幸せかどうかはわかりません。幸せだとか不幸だとか、人間が決めるのも違う気がします。ただ、唯一確かなのは、彼らが自由であるということ。

本作で見る、極めて見慣れない犬の姿は、自由の産物なのかもしれません。犬本来の姿を垣間見ることのできる本作ですが、かなり衝撃的で残酷な本性を見ることになります。鑑賞する際は、その点をご承知おきください。

『マロナの幻想的な物語り』

『マロナの幻想的な物語り』
『マロナの幻想的な物語り』© Aparte Film, Sacrebleu Productions, Mind's Meet

最後にご紹介するのは、新作DVD『マロナの幻想的な物語り』。9番目に生まれたハートシェイプの鼻を持つ犬の一生を描いたアニメーション作品です。ルーマニア、フランス、ベルギーの合作というだけあり、ヨーロッパらしい鮮やかな色彩に溢れた本作。アーティスティックな画と、ポエティックなナレーションも魅力的で、一気にマロナの世界に引き込まれるのです。

血統書付きの父と、ミックス犬の母から生まれたマロナは、生まれてすぐに親から離され、曲芸師マノーレに飼われます。アナと名付けられ幸せに暮らしていましたが、彼の新しい大仕事に「犬禁止」の条項がついたことで、アナは家出を決意。そこから、いくつかの家を転々とし、やがて一人の少女に出会いマロナと名付けられます。一生懸命、家族を説得しマロナを飼う許可をもらってくれた少女でしたが、成長するにつれ、マロナに興味を失っていくのです。

マロナの一生を見ていると、犬の生活や命がどれほど人間次第なのかがわかります。飼い主によって、名前も、求められることも、生活の質も変わってしまう。マロナは繰り返し言います。私が望む幸せは、ほんのちっぽけなこと。飼い主の手、スマイル、声、心…。そう、犬たちが望んでいるのは、いつだって大したことではないのです。朝夕のおさんぽ、ごはん、頭をなでてもらうこと、そしてできるだけ一緒に過ごすこと。多くを望まない犬たちにこんなちっぽけなことすら与えてあげられないなら、私たちは犬を飼うべきではないのです。

本作は、飼い主に献身的だったマロナの最期、「私の人生を巻き戻して。人生を見直して」という言葉から始まります。そこから見えてくるのは、犬を幸せにするのも不幸にするのも、私たち次第だという本質的なメッセージ。この物語は、切ないほどの犬の気持ちを代弁しているのです。オリジナルはフランス語バージョンですが、個人的には日本語吹き替え版での鑑賞がおすすめ。マロナを演じたのんの優しい声は犬らしい健気さと強さを見事に表現していましたし、小野友樹、夜道雪らによる人間たちの声もドラマ性を鮮やかに浮かび上がらせていました。第24回文化庁メディア芸術祭優秀賞も受賞。こちらはご家族で鑑賞し、ぜひ犬との関わり方について語り合っていただきたい一作です。

エンターテインメント作品でありながら、かなり骨太な社会的メッセージも携えた3作。きっと動物を愛するあなたに、大切な気づきをもたらしてくれることでしょう。


■『犬部!』
7月22日(木・祝)全国ロードショー
出演:林 遣都 中川大志 大原櫻子 浅香航大 ほか
監督:篠原哲雄
脚本:山田あかね
原案:片野ゆか「北里大学獣医学部 犬部!」(ポプラ社刊)
配給:KADOKAWA
© 2021 『犬部!』製作委員会

■『犬は歌わない』
2021年6月12日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国ロードショー
©Raumzeitfilm

■『マロナの幻想的な物語り』
7月2日(金)よりDVD&ブルーレイ発売
Blu-ray:¥5,500(税込)
DVD:¥4,400(税込)
発売元:リスキット/マクザ厶/太秦/カルタクリエイティブ
販売元:マクザム
© Aparte Film, Sacrebleu Productions, Mind's Meet

《牧口じゅん》

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