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【働く犬たち】盲導犬編 vol.1…どんな仕事をしている? 性格は犬によって様々[インタビュー]

盲導犬は、曲がり角・障害物・段差を教えて、歩くことをサポートする
  • 盲導犬は、曲がり角・障害物・段差を教えて、歩くことをサポートする
  • 日本盲導犬協会 広報・コミュニケーション部の山本ありさ氏

犬と人間の付き合いは長く、私たちの遠い祖先が農耕を始めた約1万年以上前には一緒に生活していたと言われている。現代でも、様々な犬たちが人間の生活をサポートするパートナーとして広く活躍している。その中で、警察犬などと並び最も知られた存在の1つが盲導犬だろう。

今回は、この盲導犬について5回にわたりシリーズで紹介する。1967年に日本初の盲導犬育成機関として設立された日本盲導犬協会で、広報・コミュニケーション部の山本ありさ氏に話を聞いた。そこから見えてきたのは、目の見えない方・見えにくい方をサポートするだけではない、盲導犬や同協会の幅広い仕事だった。社会のシステムや子供の教育など、色々な面で学ぶべきものが多いのが盲導犬だと言える。

第1回目の今回は、改めて盲導犬の仕事について聞いた。そこから、実は私たちのイメージとはかなり違う犬たちの性格や、「オフ」の横顔・過ごし方についても紹介する。

盲導犬は、曲がり角・障害物・段差を教えて、歩くことをサポート

----:盲導犬の存在はすでによく知られていますが、改めて、盲導犬が行う仕事の内容を教えてください。

山本ありさ氏(以下、敬称略):簡単に言うと、目の見えない方、目の見えにくい方が歩く時のサポートをするのが盲導犬の仕事です。

----:ユーザー(盲導犬の使用者)が、行きたい所に行けるように連れて行ってくれるわけですね?

山本:そうではないんです。「ナビゲーションをしてくれる」というイメージを持たれることがありますが、「情報をくれる」のが盲導犬です。安全に目的地にたどり着くために必要なことは教えてくれます。でも、道のりはユーザーである目の見えない、見えにくい方が覚える必要があります。

----:連れて行ってくれるわけではないんですか。そうすると、盲導犬が教えてくれる「必要なこと」というのはどんな情報なのですか?

山本:盲導犬は主に3つのことを教えてくれます。曲がり角、障害物、段差です。障害物と段差は、目が見えない、または見えにくい方にとって危険です。ぶつかったり、転落したり、つまずいて転んだりといった危険を避けるため、盲導犬が教えてくれる情報が重要です。

----:具体的には、どのようにして盲導犬が障害物や段差を教えてくれるのですか?

山本:障害物がある時は、それを避けるようにユーザーを誘導します。駅のホームの端など、それ以上進めない場合はホームの端とユーザーの間に入って止まります。段差は手前で止まって教えます。階段の上りの場合は1段目に前脚をかけ、下りの場合は段差の手前で止まります。

----:曲がり角はどのように知らせるのですか?

山本:曲がり角でも、止まることで情報を伝えます。左側にある壁などに沿って、盲導犬は体を左に向けることで知らせます。先ほど「ナビゲーションはしない」というお話をしましたが、ユーザーは頭の中に地図を描いて歩きます。盲導犬が曲がり角を教えてくれることで、今、ご自身がどこにいるかが分かります。曲がり角で盲導犬が止まったら、ユーザーは「ストレート・ゴー(まっすぐ)」や「レフト・ゴー(左に曲がる)」などの指示を出して目的地に向かいます。

家の中ではペットと同じ

----:今までのお話を聞くと、一日中仕事をして大変な印象があります。やはり仕事中は、犬たちも緊張しているのでしょうか?

山本:実はそんなこともなくて、ゲーム感覚で仕事をすることを楽しんでいます。電車の中やお店の中で伏せているときなんて、リラックスして寝ていることも多いんですよ。それに、お家にいる時は、ハーネスを外してペットと同様に過ごしています。お腹が空けば「ごはん!」と言いに来たり、ユーザーとおもちゃで遊んだりすることもあります。それ以外は寝ていたり…(笑)本当に、ペットの日常と同じ生活ですし、ユーザーもそれを楽しんでいらっしゃいます。

性格は様々な盲導犬たち

----:家ではペットと同じなのですね。家庭犬の場合、しつけに悩む飼い主は少なくありませんが、盲導犬はおとなしくて手がかからなくて良いですね。

山本:そこも、ちょっとイメージとは違うかもしれません。一般的に盲導犬は「すごくおとなしい犬」というイメージを持たれていると思います。ただ、それは、仕事の様子から受ける印象なんだと思います。

----:実際は違う性格なのですか?

山本:少なくとも当協会の盲導犬は、様々な性格の犬がいます。もちろんその中には元気いっぱいの子もいます。ゆったり優雅に歩く子もいれば、飛び跳ねるようにルンルン歩く子もいますね。

同じ補助犬でも、介助犬や聴導犬は「動く」仕事が多いと思います。一方、盲導犬の場合は先ほどお話ししたように「止まる」作業が多くなります。基本的にまっすぐ歩き、「作業」が発生すると止まる、とか、避ける動きになります。そういう姿を見られることが多いので、「おとなしい子」というイメージになったのかなと思います。

----:人間でいえば、背筋をピンと伸ばして姿勢よくしている真面目な性格なイメージがありましたが(笑)

山本:人間と同じで性格はそれぞれですが、人が近づいてくると「わーい!」と喜ぶ陽気な子も少なくありません。ユーザーの中には、「この子、やんちゃだけど、それが可愛いんだよね」とその子の性格を認めて、上手に生活してくださっている方もいます。そういう犬も、盲導犬としての作業がきちんとできれば問題ありません。どんな方のパートナーになるか、「マッチング」を間違えなければ良い仕事をします。性格を理解して頂けるユーザーは満足して付き合ってくれますし、周りの方にも迷惑をかけることなく過ごしています。

日本盲導犬協会 広報・コミュニケーション部の山本ありさ氏日本盲導犬協会 広報・コミュニケーション部の山本ありさ氏


盲導犬と言えば、真面目に「仕事」をこなし、じっと耐える犬といったイメージがあるだろう。だが実際には、それぞれに個性があり、陽気な犬も少なくないという話は新鮮だった。日本盲導犬協会では、そんな個性を抑えることはないそうだ。次回は、同協会が大切にしている「教育」と「マッチング」について聞く。

山本ありさ:公益財団法人日本盲導犬協会・神奈川訓練センター 広報コミュニケーション部 普及推進担当

小学生の頃に「盲導犬クイールの一生」という本を読んだことをきっかけに盲導犬に興味を持つ。高校卒業とともに盲導犬訓練士を目指し、日本盲導犬協会付設盲導犬訓練士学校へ入学。在学中に普及推進活動に触れ、盲導犬ユーザーと盲導犬にとってより暮らしやすい社会作りに大切な活動であることを感じ現職を希望。現在はコロナ禍の影響もあり、SNSなどを活用した普及推進活動の可能性を模索しながら啓発活動を行う。

《石川徹》

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