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猫の歯磨きはどうすればいいの? 段階を踏みながらケアを…日本ペット歯みがき普及協会

「自宅でできる歯磨きが苦手な猫のための簡単歯磨きセミナー」
  • 「自宅でできる歯磨きが苦手な猫のための簡単歯磨きセミナー」
  • まずは日常的に触らせてもらえるように、手の気持ちよさをわかってもらうことを目指す
  • 唾液腺マッサージ
  • オーラルシートは指に薄く巻いて使う
  • 歯ブラシは正面からではなく横から
  • 猫の1530運動:15歳まで30本
  • 猫の歯
  • 猫の唾液腺の位置

2月18日、日本ペット歯みがき普及協会が「自宅でできる歯磨きが苦手な猫のための簡単歯磨きセミナー」をオンラインで開催した。参加者は愛猫とともにPCやスマホ画面を見ながら専門家の解説や歯磨きのコツなどのアドバイスを受けた。

猫は虫歯より歯周病に注意

セミナーで最初に講演したのは同協会理事の石野孝獣医師。石野氏は人間の「8020運動」(80歳まで20本の残存歯数を目指す)になぞらえ「1530運動」を唱えている。猫の平均的な寿命と言われる15歳まで30本の歯を残そうという取り組みだ。人間の8020運動は着実に成果を上げ、達成率は2017年には50%を超えている。猫も人間と同じでしっかり取り組めば達成は夢ではないという。

犬猫の場合、人間と違って口の中がアルカリ性のため虫歯にはなりにくい。だが、口内炎や歯肉炎など歯周病のリスクは高いそうだ。3歳以上の飼い猫の実に80%が歯周病を抱えているとも言われる。ちなみに人間の口の中は中性だが、虫歯になるのは甘い物によって口の中が酸性になるからだ。

猫が歯周病になると、よだれが増えたり、食欲が落ちたり、口臭がひどくなったり、毛並みがパサパサになったりする。食欲が落ちるのは、口の痛みで食べなくなるからだ。本当は空腹で食べたいのだが、食べられない状態になる。犬は多少痛くても食事は普通にとったりするので歯周病が発見しにくいという問題があるが、食べなくなったり、口を触られるのを嫌がったりする場合は要注意だ。口臭は口の中の菌が繁殖するため。痛みや違和感があると毛づくろいもしなくなるので、毛並みが悪くなる。これらも歯周病のサインだそうだ。

予防のための唾液腺マッサージ

原因は、食べ物や食生活も関係するが、歯周病は菌やウイルスによる感染症であるため、免疫の低下によってかかることもある。また多頭飼育の場合、歯周病が広がりやすいことにも注意が必要だ。歯肉口内炎と呼ばれるウイルス性の病気は、ウイルスに対する過剰な免疫反応によって引き起こされる。多頭飼育ではリスクの高い病気の一つとなっている。

歯周病の治療は医師に任せることになるが、予防は飼い主の責任であり、自宅でも日々のペットケアの一環で可能だ。石野氏によれば、唾液をたくさん出させることで歯周病の予防につなげることができるという。

そのために有効なのが唾液腺マッサージだそうだ。歯磨きをさせない猫でも、マッサージならうまくやれば喜んでくれるかもしれない。日々の予防として食後などに猫と遊びながらマッサージをするとよい。

猫の唾液腺の位置猫の唾液腺の位置

やり方は、まず唾液の出口をマッサージして開かせることから始まる。猫の上あごの奥歯の端の部分、下あごの真ん中辺りを軽くもみほぐす。次に唾液腺そのものをマッサージしていく。最初は頬骨腺と呼ばれる部分。両目の下辺り、口吻(こうふん)の付け根の部分。次に耳下腺。文字通り耳の下だ。次は下あごのえらの部分の付け根、下顎腺。最後に舌下腺と呼ばれるのどの辺り。舌の付け根部分を軽くつまむようにマッサージする。

唾液腺が一通り終わったら、顔の両側から鼻先の方向に唾液を流すようにマッサージ。以上の手順を食後に、2分間くらいを目安に行う。歯磨きは歯周病予防に効果的だが、やらせてくれない猫も少なくない。唾液腺マッサージは歯磨きよりハードルが低いだろう。

唾液腺マッサージ唾液腺マッサージ

脇やお腹を触らせてもらえるか

続いて同協会理事の須崎大氏および代表理事の赤津徳彦氏が、猫の歯磨き方法についてレクチャーした。

指や歯ブラシを口の中に入れられる歯磨きは、猫にとっては楽しいものではない。人間のように「やらなければならない」という理屈は通じないので、「健康のためだから」と飼い主がムキになることはむしろ逆効果だという。いきなり歯磨きをするのではなく、時間をかけて慣れさせるほうがよいそうだ。

少しずつ慣れさせ、歯磨きは楽しいこと、気持ちいいことといった認識に持っていければ理想である。それにはまず、猫と触れ合うことが必要だ。歯磨きトレーニングの第一歩は猫の体に触れること。日常的に触らせてもらえるように、手の気持ちよさをわかってもらうことを目指す。

触るときは、猫の頭の上から手を伸ばすのではなく、下から、それも掌より手の甲から差し出すのがポイントだ。あくまで猫目線で、猫の嫌がることは避けるのが大切。信頼関係は、脇、お腹、股などに触れるかどうかで量る。これらの場所はくすぐったいところ、触られたくないところだが、体の中で大事なところと言い換えることもできる。大事なところとは、血管やリンパが通っているところでもある。歯磨きや口の中に手を入れるのは、ここを触らせてもらえるようになってからだ。

オーラルシートから歯ブラシへステップアップ

猫との信頼関係が築けたなら、いよいよ歯磨きに挑戦となる。だが、ここでも焦ってはいけない。いきなり歯ブラシを受け入れる猫は多くない。まずはオーラルシートから慣れさせるとよい。このときも、いきなり指を突っ込むのではなく、シートを見せて、においを嗅がせる。犬猫の判断と認知は、視覚よりも嗅覚だ。慣れないものは、見せるだけでなくにおいを嗅がせて、猫に物を認識させる必要がある。

シートは指に薄く巻く。指と歯の間はシート1枚もあれば十分だという。シートによってはマイクロファイバー素材になっており、若干の研磨機能を持っている。厚く巻いたり、強くこする必要はない。最初は猫が嫌がると思うが、その場合はすぐにやめる。そして褒めてあげる。嫌がる直前にやめるとよいそうだ。嫌がることを無理に続ければ、歯磨きは完全に嫌いなものと認知されてしまう。少しずつ慣れさせる根気が必要だ。

この手順は、歯ブラシにステップアップしても変わらない。最初は見せてにおいを嗅がせ、歯ブラシが何なのかを認識させる。歯ブラシは口に入れる前に濡らしておく。歯ブラシによる歯磨きは指が届かない隙間などにも有効だ。

現実には、色々な猫がいるのでセミナー通りにうまくいくとは限らないが、唾液腺マッサージによる予防や少しずつ慣れさせる方法などは、参考になるだろう。そして猫と信頼関係を築き、触らせてもらえるようになることは、オーラルケアだけでなく、他の病気やけがの手当にも役立つ。病院での診察もやりやすくなり、治療の範囲や効果も変わってくるだろう。

人差し指の辺りに上あごの唾液の出口。反対側も行う(筆者の愛猫に実践)人差し指の辺りに上あごの唾液の出口。反対側も行う(筆者の愛猫に実践)
《中尾真二》

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